太田述正コラム#6845(2014.3.30)
<網野史観と第一次弥生モード(その15)>(2014.7.15公開)
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<未開社会における贈与システム>
・ポトラッチ(potlatch)
「北アメリカの太平洋側北西部海岸の先住民族によって行われる祭りの儀式・・・裕福な家族や部族の指導者が家に客を迎えて舞踊や歌唱が付随した祝宴でもてなし、富を再分配する<もの。>・・・ポトラッチは子供の誕生や命名式、成人の儀式、結婚式、葬式、死者の追悼などの機会に催された。・・・一族の地位は所有する財産の規模ではなく、ポトラッチで贈与される財産の規模によって高まった。」
http://ja.wikipedia.org/wiki/ポトラッチ
・クラ(Kula)
「パプア・ニューギニア<の一部>・・・の民族によって行われる交易・・・物はヴァイグア(キリウィナ語)と呼ばれ、2種類がある。赤い貝から作るソウラヴァという首飾りと、白い貝から作るムワリという腕輪である。いずれも大規模な儀式的舞踊や祝祭などの重要行事で身につけられ、日常の装飾には使われない。ソウラヴァはクラの交易圏内を時計回りに動き、ムワリは反時計回りに動く。品物が1周をするまでに、2年から10年ほどを要する。・・・クラに関係する人間は、ソウラヴァかムワリを自分の取引相手へ贈り、相手から反対の品物を返礼として受けとる。・・・取引においては議論、競り、その場で相互に交換することなどは禁じられる。返礼までには1年以上かかることもある。・・・クラの関係は、贈り物と奉仕の相互交換を2人の間に生み出し、何百キロも離れた人間を直接または間接的に結びつけ、義務のやりとりで複雑な規則を守らせる。これにより、部族間に網目状の関係が作られる。また、クラによって、他の品物や習慣、歌などの芸術も伝えられる。・・・
マルセル・モースは、クラについて『贈与論』で研究し、贈与経済としてクラを位置づけている。 」
http://ja.wikipedia.org/wiki/クラ_(交易)
→率直に言って、これらの(まことに興味深い)習俗が、日本社会を考えるにあたって参考になる、とは私には到底思えない。(太田)
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私の仮説は、日本における「贈与経済」なるものを、櫻井のように、室町期に限った特有のものとするのではなく、モード超越的な、エージェンシー関係の重層構造に係る、エージェント(代理人/本人)からプリンシパル(依頼人)
http://ja.wikipedia.org/wiki/プリンシパル=エージェント理論
への返礼システム、と捉えるものです。
返礼だって一種の報酬だろう、およそ報酬なるものは、プリンシパルからエージェントに支払われるものではないのか、どうしてエージェントがプリンシパルに報酬を支払うのだ、と怪訝に思われる方もおられることでしょう。
しかし、現代の日本においても、目上の人(プリンシパル)が自分(エージェント)に対してエージェント報酬(たる財・サービス)を支払う一方で、エージェントの方は、プリンシパルに対して、少なからぬ場合に、お中元/お歳暮(といった財・サービス)を贈る形で返礼をしていることを思い出してください。
この種の報酬/返礼の関係は他にもありそうだ、と思えてくるのではありませんか。
例えばですが、これは、病理現象ではあるけれど、官需に依存する企業や補助金に依存する公法人が、役人OBの天下りを受け入れるのも、プリンシパルたる官公庁に対する、エージェントたる企業/公法人による返礼である、と考えることもできるのかもしれません。
いや、そもそも、エージェンシー関係の重層構造を主、市場を従とする、モード超越的な日本的な政治経済体制の下では、国民が国に納める広義の税・・病理ならぬ生理現象の最たるもの・・もまた、(現代の場合で言えば末端における町会への参画を含め、)統治機構の一端を担っているところの、エージェントたる国民による、自分に対して「御恩」を与えてくれているプリンシパルたる国の中枢(政治・官僚機構)に対する返礼である、と捉えてみたい、というのが私の新たな仮説・・補助線・・なのです。
鬼頭が「<縄文人の>大多数は、既に縄文時代に進んでいた定住化と縄文農耕の発展形として稲作を受け入れ、弥生人=農耕の民になっていく。稲作を受け入れた人々は、稲穂を神からの授かりものと感謝し、豊作の一部を「初穂」として返すことを当然のこととして受け入れた。こうして稲作からの上がりを基盤にした神社ネットワークが国土を統一していき、天皇制の基盤をつく<った>。」としていたことが、最終的に、私の背中を押してくれたのです。
これはかなり優れものの補助線であって、この補助線を引くことで、日本史上の残された謎の多くを解くことができそうです。
(続く)
網野史観と第一次弥生モード(その15)
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