太田述正コラム#0248(2004.2.3)
<自衛隊イラク派遣と民主党>

1 自衛隊イラク派遣と民主党

民主党はイラクへの自衛隊派遣に反対しています。
その理由として、

(1)米英両国が国連憲章に基づかずに始めたイラク戦争には大義がない、
(2)イラク全土で戦争が続いているなかで自衛隊を派遣して戦闘行為になれば、憲法9条に違反する、
という二点を挙げ、代替案として、

9.11同時多発テロの後、米国はアフガン・イラクで圧倒的な軍事力で勝利したが、テロを押さえ込むどころか、その拡大を招いている。これは米国の軍事力行使が大義なくして行われているからだ。そんな米国がイラク占領を続けても、イラク国民の納得は得られない。イラク戦争に反対したドイツ・フランス・ロシア・中国なども含め、中立的な立場の人も協力できる国連中心の統治にイラクを移し、そこからイラク人による統治に移していき、国連による復興、イラク国民のための復興の枠組みを作り上げることこそ、テロを押さえ込むためにも最善の方策であり、日本はそのために外交力を駆使すべきだ、

と提言しています。(12月8日の菅代表と岡田幹事長の街頭演説より(http://www.dpj.or.jp/news/200312/20031208_01marion.html(2月3日アクセス)。)

2 コメント

 (1)初めに
 政権奪取をねらっている民主党が、政府・与党の推進している自衛隊のイラク派遣に反対すること自体は大いに理解できます。
ご承知のように、民主党議員の外交・安全保障についての見解はバラバラであり、党として確立された外交・安全保障政策はありません。
 にもかかわらず、1月31日未明の衆議院本会議の自衛隊派遣承認案の採決に際して、賛成の自民党の方には造反者が出たというのに、一人の造反者も出さずに反対を貫けたということは、民主党の党内政治的観点からは大成功だったと言えるでしょう。

 しかし、民主党が挙げている反対理由や代替案は、まことにできが悪く、これでは民主党による政権奪取の可能性はなくなった、と言いたいくらいです。

 (2)批判

 イラク戦争には大義がない、としている点については、長くなるので立ち入りませんが、そのような見方もできることは事実です。(関心のある方は、コラム#65を参照されたい。)
 問題はそれ以外の部分です。

  ア 国際情勢判断の誤り
 「米国は・・テロを押さえ込むどころか、その拡大を招いている」という情勢判断は誤りです。
 9.11同時多発テロ以降、米国や英国で、一切テロ事件が発生していないことは、少なくとも彼らの目から見れば、対テロ戦が成功している証左です。(生物兵器や化学兵器入りの郵便物によるテロ事件は起こっていますが、アルカーイダ系テロリストの仕業かどうかは疑問です。)
しかも米国等によって、アルカーイダ本体は既にほぼ壊滅状態に追い込まれています。だからこそ、アルカーイダは不本意ながら、息のかかったアルカーイダ系の技術的に未熟な土着テロリスト集団に、サウディの外国人団地とか、トルコのシナゴーグや領事館、等の警戒手薄なソフト・ターゲットを狙わせざるを得なくなっているのです(コラム#193参照)。
 また、イラク情勢については、昨年11月15日に、イラクへの主権移譲期日を今年6月末とする決定が米国によってなされたことが重要です。当時私は、この決定はゲリラ制圧の目処がたったからなされたと見ている、とコラム(コラム#190)に書いたものです。
 そうしたら、その一ヵ月後にフセインが捕縛されました。
 米国が、現在バグダット中心部の治安の維持をイラク人の治安部隊及び警察の手にゆだね、自らは市の郊外に移駐しつつあること(http://www.latimes.com/news/nationworld/world/la-fg-rotation2feb02,1,3909628,print.story?coll=la-headlines-world。2月2日アクセス)、イラク駐留米軍を今月から四ヶ月かけて130,000人から 105,000人へと削減することとしたこと(http://www.washingtonpost.com/ac2/wp-dyn/A2864-2004Feb1?language=printer。2月3日アクセス)(正確には、部隊の全面的交替を行うので、引継ぎ期間中の3月には一時220,000人に増える(http://www.csmonitor.com/2004/0203/p01s03-woiq.html。2月3日アクセス))等から、イラクの治安情勢が着実に沈静化しつつある、と米国が判断していることが裏付けられます。
 もとより、イラクでゲリラ制圧の目処がたっているからといって、ゲリラと「提携」しているアルカーイダ系のテロとの戦いにも制圧の目処まで立っているわけではありません。
 しかし、今年の半ばにイラクに主権が移譲されますが、来年末までに選挙が実施されてイラクに本格的な政権が樹立される頃には、もともとイラクにとっては異質な存在であるアルカーイダ系テロリスト達は、イラク内で完全に浮き上がった存在になっていることでしょう。
 このように、イラクの治安情勢が沈静化しつつあるのだとすれば、・・民主党の国連至上主義的なおめでたさもさることながら・・国連の本格的出番は永久にないことになります。
 民主党の現執行部のお粗末な国際情勢判断は、現実によって確実に裏切られることになるでしょう。

  イ 反米主義
 それにしても、代替案の中で、米国が腹に据えかねる思いを持っているところの「ドイツ・フランス・ロシア・中国」との連携に言及したり、米国が切望している自衛隊のイラク派遣に言及しなかったりの蛮勇には敬服します。
 米国から見て、民主党は反米主義に舵を切ったということになりかねないからです。
 日本は、吉田ドクトリンを廃棄するまでは、文字通りの米国の保護国なのであり、吉田ドクトリン廃棄に現時点で踏み込めるわけがない民主党が、本当に政権を奪取したいのであれば、「宗主国」たる米国との関係には細心の注意を払う必要があるというのに、一体民主党の現執行部は何を考えているのでしょうか。

  ウ 55年体制下の万年野党モードへの引きこもり
 自衛隊派遣違憲論一本やりという不毛な政府追及方針、サマワ 統治評議会の「非存在」をめぐっての政府答弁の揚げ足取り、審議拒否、と55体制下の旧社会党のような国会戦術をとっていることも、全くいただけません。

 (3)提言

 民主党の鳩山前代表は2月1日、「自衛官1人1人が「テロを起こされても反撃しない」と誓っている、と聞いている。武力行使まで行かないわけで、派遣自体を憲法違反と決めつけることはできない」と発言しました(http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20040201ia23.htm。2月2日アクセス)が、その趣旨は、派遣される自衛隊員がまともに身を守れない形で自衛隊をイラクに派遣すべきではない、ということでしょう。(ちなみに、鳩山氏はあわせて、小沢氏と菅氏の国連待機部隊構想についても、一刀の下に切り捨てています。)
これは、自民党の亀井氏と基本的に同じスタンスであり、正論です。
 民主党は、一刻も早く、このスタンスへの切り替えを図るべきです。