太田述正コラム#6907(2014.4.30)
<戦争の意義?(その3)>(2014.8.15公開)
(3)減少する一方の殺人率
「ドイツの社会学者のノルベルト・エリアス(Norbert Elias)<(注1)>による、第二次世界大戦直前の2巻からなる論文である『文明化過程(The Civilizing Process)』は、当時に至る5世紀間において、どんどん欧州は平和な場所になってきた、と主張した。・・・
(注1)1897~1990年。「当時ドイツ帝国東部の町ブレスラウ(現在はポーランド領ヴロツワフ)生まれで、その後、亡命してイギリス国籍を取得したユダヤ系ドイツ人社会学者、哲学者兼詩人。・・・1954年-1962年、イギリスのレスター大学で講師として社会学を教える。・・・1978年-1984年、ドイツのボッフム大学とビーレフェルト大学で教鞭をとる。1990年アムステルダムで没。」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8E%E3%83%AB%E3%83%99%E3%83%AB%E3%83%88%E3%83%BB%E3%82%A8%E3%83%AA%E3%82%A2%E3%82%B9
1914年以来、我々は、諸内部紛争(strife)、諸暴動、及び諸殺人は言うに及ばず、二度の世界大戦、諸ジェノサイド、政府に由来する(sponsored)諸飢饉、に耐えさせられてきた。
つまり、一切合財で、自分達と同じ人間を、唖然とさせられるところの、1億人から2億人も殺してきたわけだ。
ところが、この1世紀の間に約100億人が人生を生きた。
ということは、世界人口のわずか1~2%しか暴力的に死ななかったことを意味する。
20世紀に生まれることとなった運の良い人々は、平均値で、石器時代に生まれた人々と比較して、陰惨な最期を迎えた度合いは10分の1だったというわけだ。
しかも、2000年以来に関しては、国連が、暴力的な死のリスクは更に減って0.7%になったと教えてくれている。・・・
地球上の人口が600万人程度であった1万年前には、人々は平均で約30年生き、換算所得で一日約2ドルで自分達を支えたものだ。
<それに対し、>現在では、地球上に70億人を超える人々がいて、2倍を超える長さ・・平均で67年間・・を生き、その平均所得は、一日25ドルに達している。」(K)
「我々は、20世紀を振り返って、労せずして、それが人類史の中で最も暴力的な時代であった、と見るのが通例だった。
また、銀メダルは、普通、14世紀に与えられたものだ。<(注2)>
(注2)「14世紀の危機とは、1346年からイタリアの都市で始まったペストの大流行で、西欧の人口が3分の1も死んでいったことや、1339年から始まった百年戦争の戦乱、1358年のジャックリーの乱・1381年のワット=タイラーの乱といった農民反乱などの社会混乱を指・・・す。」
http://blog.goo.ne.jp/kantosekaisi/e/cf673616507f41b9d3bb9039d40e85d8
→ペストによる死は暴力的な死とは言えません。
安史の乱があった8世紀や、それが局地的過ぎるというのであれば、蒙古の膨張があった13世紀が、過去における最も暴力的な世紀であった(コラム#5132)と言うべきでしょう。
モリスは、歪んだ欧米中心史観を抱いている、と言わざるをえません。(太田)
しかし、イアン・モリス・・・を信じるならば、二度の世界大戦で恐らく5,000万人から1億人を拭い去り、<人々を>強制収容所群に投げ込み、おまけに、文化大革命、諸内戦、政府が組織的に行った(orchestrated)諸飢饉、塹壕で醸成された(trench-stewed)諸パンデミック、そして度重なるジェノサイド<が生起した>この<20>世紀は、実際には、史上最も安全な世紀だったのだ。」(C)
「そして、スティーヴン・ピンカー(Steven Pinker)<(コラム#1117、5031、5039、5041、5055、5069、5091、5104、5561、5806、5954、5978)>がその最新の本である『我々の本性のうちのより良い天使達(The Better Angels of Our Nature)』で指摘したように、21世紀に入ってからは、<暴力的死亡>率は、これまでのところ、1%をはるかに下回っているのだ。
どうして、我々の諸武器は益々破壊的になりつつあるにもかかわらず、我々の間の誰かが暴力的に斃れるリスクがかくも減少したのだろうか。」(D)
「<蛇足だが、>第一次世界大戦中、英国とその同盟諸国は、彼らが殺した敵の兵士1人当たり、36,485.48ドル費やしたのに対し、ドイツとその同盟諸国は、敵の死体1体当たり、わずか11,344.77ドルしか費やさなかった。」(B)
→まさに、蛇足的な挿話ですが、これは、いかにドイツ兵が強かったかを物語ってると同時に、ドイツが敗れたのは、ただ単に、敵、とりわけ米国の物量に対してであったことも物語っています。
ほぼ同じことが、第二次世界大戦でも繰り返されたと言ってよいでしょう。(太田)
(続く)
戦争の意義?(その3)
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