太田述正コラム#6921(2014.5.7)
<戦争の意義?(その10)>(2014.8.22公開)
——————————————————————————-
<補注:終わりに代えて>
その1:モリス
「モリスは、大学に入った頃は、古い諸詩よりヘヴィメタにイカレていた。
彼は、1979年に自分のデモテープをアイアン・メイデン(Iron Maiden)<(注10)>・・間もなく世界的に有名になるところのバンドが新しいギタリスト募集広告を打っていた・・に送った。
(注10)「現在までのレコードセールスは8500万枚を超え、世界で最も成功しているヘヴィメタル・バンドの一つである。1975年にロンドンで結成され、1980年代初頭にイギリスで巻き起こった新しいロックの潮流NWOBHM(New Wave Of British Heavy Metal)を牽引し、1980年代から1990年代初頭におけるヘヴィメタル・ブームの立役者となった。幾度にもわたるメンバーの変更を経ながら、21世紀に入ってもなお精力的に活動している。バンド名は、中世ヨーロッパの拷問器具「鉄の処女」に由来する。」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%82%A4%E3%82%A2%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%83%A1%E3%82%A4%E3%83%87%E3%83%B3
演奏の映像。
https://www.youtube.com/watch?v=GghCs_C65v0
それは合格だった。
しかし、彼は、エクスポーザー(Expozer)<(注11)>と呼ばれたもう一つのバンドでプロとして演奏したいと思った。
(注11)演奏の映像。
https://www.youtube.com/watch?v=s7uZdYXpfa0
しかし、それが叶わなかった時に、彼はようやく古典ギリシャにまじめに取り組むようになったのだ。」(J)
その2:追加的書評
連休中に新しい書評・・ただし、この本とクワシ・クワルテング(Kwasi Kwarteng)(コラム#5300、02、04、06、08、10、12、14、18、20、22、28、34、48、50、52、6427)の『戦争と金(War and Gold)』の2冊が対象・・が出た
http://www.ft.com/intl/cms/s/2/a159b4e4-cedf-11e3-8e62-00144feabdc0.html#slide0
(5月3日アクセス)ところ、書評子が英国の著名な軍事学者のローレンス・フリードマン(Lawrence Freedman)・・私は、英国「留学」時に彼の講義を受けている・・であることもあり、復習を兼ねてそのさわりをご紹介しておきましょう。
「<モリスの言っていることはこうだ。>
我々の世界は、いい方向にせよ悪い方向にせよ、戦争によって形成されてきた。
諸領域、民族構成、及び政治諸構造を含む近代国家システムの出で立ち(arrangement)、並びに、その上に屹立する国際的諸制度(institutions)は、その全てがある種の或いは他の種の諸紛争に起源を求めることができる。
人類学者のマーガレット・ミード(Margaret Mead)<(注12)>は、一時、戦争は悪しき発明であったと嘆いた。
(注12)1901~78年。米国の文化人類学者。バーナード単科大学卒、コロンビア大博士。米自然史博物館勤務を経てコロンビア大で教鞭を執る。「ニュージーランドの文化人類学者であるデレク・フリーマンは、その著書『マーガレット・ミードとサモア』の中で、ミードの著書『サモアの思春期』を、「根本的に間違っている」と切り捨てた。・・・<しかし、>・・・日本のジェンダー論者によって・・・「性役割は生得的なものとは限らない」という話の枕に、<サモアでの>事実誤認によるミードの調査結果が必ずと言ってもよいほど登場させられている。」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9E%E3%83%BC%E3%82%AC%E3%83%AC%E3%83%83%E3%83%88%E3%83%BB%E3%83%9F%E3%83%BC%E3%83%89
しかし、彼女の立論は、失楽園以前の(prelapsarian)サモアでの恥ずかしい事実誤認に余りにも多くを負っていた。
彼女はサモアの自然状態を平和で調和的であると見たが、現実は、その正反対だったのだ。
→フリードマンもまた、モリス同様、「未開」時代の人類社会は戦争・犯罪社会であったことを当然視しているようですが、当時のサモアが狩猟採集社会だったのか農耕社会だったのか、はたまた、狩猟採集社会であったとしても、近隣の農耕社会と交流はなかったのか、等が明らかにされないでサモアを引き合いに出されても困ってしまいます。(太田)
発明されなければならなかったのは、むしろ平和の方だったのだ。
<人類の>初期の時代における規則的かつ日常的な暴力は、死の全体の10~20%をもたらしていたが、<暴力をなくすためには>秩序の押しつけが求められた。
<そして、>救済は、強力な諸国家の形をとって現われた。
強力な諸国家は、神話的な社会契約の結果成立したのではなく、戦争の中で鍛えられ、必要な場合、暴力によって維持されたのだ。
にもかかわらず、それは正負を総合すれば正の効果を持った。
<すなわち、>繁栄度は着実に上昇し、暴力の量は劇的に減って行った。・・・
<ところが、上述のような>モリスの大きな観念(idea)は、物語が進行して行くにつれて証拠と抵触することになる。
モリスは戦争の悲惨さ(horrors)を否定しないが、彼の説明の中では、戦争は、計算された諸戦略と猛烈な諸熱情によって影響されたところの、諸価値や領域を巡る諸紛争(disputes)ではなく、殆んど、システムの安定において機能的役割を演じる独立したエージェントのように見える。・・・
<他方、クワルテングの本は、>そのタイトルからして、金持ちになることの誘惑が戦争の原因であることについての本であることを我々に期待させる。
まさにこの本はそんな具合に、新世界で征服者達(Conquistadores)が金と銀に対して貪欲になったことから始まる。
<ところが、>スペイン人達は、自分達が略奪したものを生産的諸投資にではなく、より多くの諸船と外国での諸冒険に費やした。
<こうして>市場を金と銀で溢れさせた結果、彼らは、それらの価値を減じさせ、すぐに王国は負債を抱えるに至ってしまったのだ。」
→私が何度か指摘しているように、スペインもイギリスも外国侵略の目的は貪欲であった点では同じなのですが、スペインと違ってイギリスは、短期的な富の略奪ではなく、長期的な富の搾取を旨としたおかげで長期的にスペインより大きな成功を遂げたのです。(太田)
(続く)
戦争の意義?(その10)
- 公開日: