太田述正コラム#0255(2004.2.10)
<自衛隊と国際貢献(その3)>
3 自衛隊イラク派遣と法的不備
しかし、問題は少なくありません。
中でも、派遣される自衛隊員の身を守るための法制整備が不十分だという点は深刻な問題です。
軍隊ではないことになっている自衛隊が、戦時のイラクに派遣されることに伴う法的諸問題がクリアされていない、ということです。
・・・ここにコラム#227が入る(このコラムはオリジナルのものをかなり敷衍した上で再掲載してあるので、私のホームページの時事コラム欄でご確認ください。)・・・
警察法規による派遣であることから、派遣される自衛隊員にとってのメリットもあることを、誤解のないように一言付け加えておきましょう。
それは、平時に隊員が危険な業務に従事する、ということから、イラク派遣各国軍隊中、恐らく最高額の一日3万円の手当てを受け取り、6ヶ月の任期が明けると、それが合計で550万円にもなり、また、万一不幸にしてゲリラやテロの犠牲になって死亡した時には、国家公務員災害補償法に基づく給与をベースにした通常の補償金のほかに、やはり恐らく最高額である、計1億円もの弔慰・見舞金を遺族が受け取ることになっていることです(http://www2.asahi.com/special/iraqrecovery/TKY200310250333.html。2月4日アクセス)。
・・・次にここにコラム#223とコラム#224が入る・・・
4 政治家のイラク派遣反対論を通して見た日本の安保状況
・・・ここにコラム#245、246、及び248が入る・・・
[参考]の8をご覧ください。
民主党以外の野党については、言及する必要はありますまい。
5 終わりに
本日は、まことに時宜にかなうお話をさせていただくことができました。
昨年の師走には、まずイラク特措法を受けた「基本計画」が決定され、次にサダム・フセイン捕縛が発表され、その後「基本計画」の「実施要綱」が承認されるとともに航空自衛隊の先行派遣が決定されました。そして更に、陸海空各自衛隊に派遣準備命令、航空自衛隊先遣隊に派遣命令が発出されました。(ちなみに、その時あわせてミサイル防衛システムの導入が決定され、更に基盤的防衛力構想の見直しにつながるような新防衛大綱策定の考え方まで決定されています。)
そして今年に入ってから、陸自先遣隊と空自本隊に派遣命令が発出され、1月末には陸上自衛隊本隊と海上自衛隊に派遣命令が発出され、更にイラク復興支援のための自衛隊の派遣承認案が衆議院を通過しました。そしてつい先だって、陸上自衛隊の宿営地設営部隊約80名が出発しました。
[参考]の3と6をご覧ください。
今国会には、国民保護法制や米軍支援法制も上程されようとしています。
三年前には自衛艦のインド洋派遣、昨年には日本が武力攻撃を受けた場合の有事法制の整備も行われました。
以上は、すべて小泉内閣の下でなしとげられたのです。
小泉氏は、福田派の流れを汲む森派に属しながら、総理になるまで、安全保障問題にはまるで関心がなかったと盟友の山崎拓さんが言っています(コラム#226.前出)。1991年の湾岸戦争の時、カネしか出さなかった日本への風あたりの強さにショックをうけた日本政府は、宮澤内閣の時に初めて(カンボディアの)PKOに自衛隊を派遣することにしましたが、派遣に最後まで反対した閣僚の一人が当時郵政大臣だった小泉氏であったこと(http://news.ft.com/servlet/ContentServer?pagename=FT.com/StoryFT/FullStory&c=StoryFT&cid=1073281569467&p=1012571727132。2月7日アクセス)を覚えておられますか。
まことに皮肉なことですが、後世、小泉氏は、いわゆる「改革」にはは失敗したけれど、安全保障問題では大きな成果をあげた、と評されることになりそうです。
ひたすらご自分の権力の維持だけを追及する哲学なき天才的ポピュリストは、「宗主国」米国のご機嫌を損ねないことがいかに大切かもまた十二分にわきまえていた、ということでしょうか。
いずれにせよ、自衛隊のイラク派遣はもう決ったのです。
決った以上は、派遣に反対した方々も含め、派遣隊員を暖かく見守っていただきたいと思います。
そして願うらくは、本日のお話の始めの方で申し上げたところの、「自らの安全保障の観点から、自由・民主主義という人類共通の理念の普及に向けて、国際貢献に汗を流そうではありませんか。そして、戦後日本の利己主義的風潮を克服し、国際貢献後進国の汚名を晴らしましょう。」という私の提案を真正面から受け止めていただけることを念じております。
そしてそのためには、少なくとも集団的自衛権行使を禁じる政府憲法解釈の変更が不可欠であるということについても、ぜひご理解をたまわりたいと思います。
最後に、2月4日付けの人民日報・・あの中国の共産党の機関紙ですよ・・に掲載された論説のさわりの部分をご紹介しておきましょう。
「日本<は、>これまでの「他国に頼って世界秩序を築く」という姿勢から、「危険をともなう場合でも世界秩序の維持に参加する」という態度へ・・と姿勢を変え<た。>・・日本人の安全保障意識に大きな変化が生じた・・。」(http://j.peopledaily.com.cn/2004/02/04/jp20040204_36320.html.。2月5日アクセス)
以上で本日の私のお話を終えたいと思います。
長時間ご清聴ありがとうございました。
(完)