太田述正コラム#7150(2014.8.30)
<現代哲学におけるアングロサクソンと欧州(その4)>(2014.12.15公開)
大陸哲学という言葉は、サイモン・クリッチリー(Simon Critchley)<(注16)> とサイモン・グレンディニング(Simon Glendinning)<(注17)> が強調したように、重要な部分において、欧州大陸の現象学者達や実存主義者達と自分達を区別することを欲した、20世紀央の分析哲学者達が発明したものなのだ。
(注16)1960年~。「イギリスの哲学者である。専門は現象学、大陸哲学、フランス現代思想。・・・イギリスのエセックス大学、フランスのニース大学で学び、エセックス大学で1987年に修士号を、ニース大学で1988年に博士号を取得した。・・・<現在は、米>ニュー・スクール<大学>教授。」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B5%E3%82%A4%E3%83%A2%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%82%AF%E3%83%AA%E3%83%83%E3%83%81%E3%83%AA%E3%83%BC
ちなみに、ニュースクール大学であるが、「1919年創立、・・・ジョン・デューイ<らによって>・・・創立された・・・ニューヨーク市のグリニッジ・ヴィレッジにある私立総合大学<・・但し、理系学科やプロフェッショナルスクールは擁していない・・>である。長きに渡り、 New School for Social Researchとして知られた。・・・1948年、W・E・B・デュボイスが大学で初めてアメリカの黒人の歴史と文化の教鞭をとった。同じ頃、マーガレット・ミードが人類学コースをスタートし、またKarenHorneyとErich Frommによって新しいアプローチの精神分析のコースもスタートした。1962年、Gerda Lernerが初めての大学レベルでの女性史(Women’s History)のコースを提供した。また、The New Schoolは20世紀を代表するような革新的なアーティストによる様々なクリエイティブアートのコースにより世界的にその名を知られるようになった。その教鞭をとったアーティストの中には、マーサ・グレアム、フランク・ロイド・ライト、Aaron Copland, W.H. Audenなどがいた。The New Schoolはアメリカで初めて映画史を教え、フォトグラフィーとジャズ分野での大学レベルのコースを提供した初めての大学の内の一つだった。」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8B%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%82%B9%E3%82%AF%E3%83%BC%E3%83%AB%E5%A4%A7%E5%AD%A6
(注17)1964年~。イギリスの哲学者。オックスフォード大とヨーク大で哲学を学ぶ。現在LSE講師。分析哲学と大陸哲学の峻別を批判し、現象学は大陸哲学だけのものではないと主張。
http://en.wikipedia.org/wiki/Simon_Glendinning
→クリッチリーは米国に「追いやられ」、グレンディニングは一介の講師(reader)に「留め置かれ」ていることからして、いかに、大陸哲学志向の哲学者がイギリスで冷遇されているか、想像できるというものです。(太田)
ギルバート・ライル(Gilbert Ryle)<(注18)>を始めとするこれらの分析哲学者達は、自分達の論理的客観性と明晰性の諸理想に反するところの、大陸哲学は、直接経験(immediate experience)に訴えることがその主観性と曖昧さ(obscurity)の源泉である、と見なしていた。
(注18)1900~76年。「イギリスの哲学者。ウィトゲンシュタインの言語観に想を得たイギリスのいわゆる日常言語学派の代表的人物とされている。・・・オックスフォード大学<に学ぶ。>・・・高度な水準の人間活動について明晰かつ意味のある仕方で説明することは、・・・<欧米>哲学の主調をなしてきた心身二元論<における>・・・魂という漠然とした概念に頼らなくても可能であると<した。>」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AE%E3%83%AB%E3%83%90%E3%83%BC%E3%83%88%E3%83%BB%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%AB
分析哲学と大陸哲学の分断(division)は、1962年に、米国の大陸哲学の擁護者達が、(もっぱらというわけでは決してないが、)主として分析哲学的な米哲学協会(American Philosophical Association=APA)<(注19)>の代替物として、自分達自身の専門組織であるところの、現象学と実存主義哲学会(The Society for Phenomenology and Existential Philosophy=SPEP)<(注20)>を設立した時に制度化された。
(注19)1900年設立。
http://en.wikipedia.org/wiki/American_Philosophical_Association
(注20)「当初の目的は現象学と実存主義の研究を推進することだったが、爾来、批判理論、フェミニスト哲学、ポスト構造主義、批判的人種論(critical race theory)、そして、次第に非欧州中心的(non-Eurocentric)諸哲学、を含む、多様な現代の哲学的諸追求(pursuits)へと拡大されている。
http://en.wikipedia.org/wiki/Society_for_Phenomenology_and_Existential_Philosophy
なお、「批判理論の出発点は、・・・マルクスの著作にある。・・・批判理論には、現実としてあるものをかたちづくり、変えていこうとする強い志向が内在している」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%89%B9%E5%88%A4%E7%90%86%E8%AB%96
また、批判的人種論とは、「社会と文化の批判的検証(examination)であるところの、批判理論を、人種、法、そして権力の交錯(intersection)に適用することに焦点を当てる学問分野である。」
http://en.wikipedia.org/wiki/Critical_race_theory
→言及されていないところを見ると、イギリス(英国)には、米国のSPEPに匹敵するような学会が存在しない、ということなのでしょうね。(太田)
(続く)
現代哲学におけるアングロサクソンと欧州(その4)
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