太田述正コラム#7176(2014.9.12)
<新しい人類史?(その5)>(2014.12.28公開)
(6)認知革命
「約200万年前、我ら人間の先祖達は、アフリカの隅に生きていた取るに足らない動物達だった。
彼らのこの世界に対する影響力(impact)は、ゴリラ達、シマウマ達、或いは鶏達と大差なかった。
今日では、人間達は世界中に広がり、彼らは最も重要な動物になった。
まさしく、地球上の生命の将来は、我らの種の諸観念と諸行動にかかっている。・・・
約70,000年前の認知革命は、人類をして世界を征服させ、他の全ての人間諸種を絶滅へと追いやった。・・・
ひっくるめれば、地球に存在していた地上の大型哺乳類群の約半分が絶滅した。
一体どうやって、せいぜい石器時代のテクノロジーしか持っていなかった数百万の諸個人がこんな荒廃をもたらしえたのだろうか。」(D)
⇒言語の獲得が革命的に生じたのか、それとも漸進的なものだったのかすら分かっていないのに、前者の説に無批判に依拠しているのはおかしいですし、7万年前というのも、何を根拠にしているのか不明です。
(7万年ほど前のある時点で世界全体で人口が1万5000~2万人程度まで減少したといたという説があり、この時に言語が生まれたという主張をする者もいることは確かですが・・。)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%A8%80%E8%AA%9E%E3%81%AE%E8%B5%B7%E6%BA%90 (太田)
(7)農業革命
「約12,000年前、中東、支那、そして、中央アメリカの人々は、諸植物と諸動物の飼育化を始めた。・・・
数百万年にわたって、人間達は、数十人の諸個人を超えない親密な群れ群の中で住んでいた。
我々の生物学的諸本能はこの生活の流儀に適応したものなのだ。
人間達は、その結果、見ず知らずの人々からなる大人数と協力するのは不得手なのだ。
しかし、農業革命勃発後間もなくして、人間達は、諸都市、諸王国、そして巨大な諸帝国を樹立した。
どのように彼らはそれをやってのけたのか?
どのように、何百万人もの見ず知らずの人々が共有する諸法、諸規範、及び諸価値について合意できたのか?
複雑な諸社会の形成にあたって決定的な要素は、人々の諸集団の階統(hierarchy)への分割(division)だった。
農業諸社会と工業諸社会は、階級、人種、エスニシティ(ethnicity)、そして性、の諸階統に立脚して構築されてきた。
どうして、正義にかなった(just)平等な社会を創ることは不可能だったのか?
偏見と不正義の深いルーツはなんだろうか?
とりわけ、どうして、殆んど大部分の既知の諸社会では男性達が女性達よりも上位にあるものとしているのだろうか?・・・
⇒女性の地位こそ定かではないものの、インダス文明では、都市文明であったにもかかわらず、階統制がなかったよう(コラム#7164)ですし、日本文明のように、基本的に女性優位の文明もあったわけであり、ハラリは雑駁過ぎです。(太田)
人類(humankind)は次第に一つの全球的社会へと統合されて行った。
三つの主要な諸力がこの統合へのプロセスを形作った。
第一は貨幣と交易だった。・・・
・・・第二の力は帝国主義だ。・・・
・・・第三の力は宗教だ。
歴史における宗教の役割は極め付きに議論の分かれるところだ。
幾人かは宗教をあらゆる悪のルーツと見る一方で、他の者達にとっては、それは幸福、共感、そして進歩の主要源泉なのだ。」(D)
⇒ハラリの考えからすれば、ここで、宗教悪のルーツ説乗りの姿勢を打ち出して欲しかったところです。(太田)
(8)科学革命
「科学革命…は地球上に生命が出現して以来の最も重要な生物学的革命であったということになるかもしれない。
自然淘汰の40億年の後、生活が神のような存在(intelligent design)によって統治されるところの、新しい宇宙的時代の曙に向かってアルバ(Alba)<(注3)>が屹立している。
(注3)アルバには、白人ないしイギリスないしスコットランドといった意味合いがある
http://en.wikipedia.org/wiki/Alba
が、ここで、ハラリが何を念頭に置いているのか、分からなかった。
科学が知識の指数的増大を可能にしたことは疑う余地がない。
疑いの目を向けるべきは、人間の考え方に大きな遷移があったかどうかだ。
近代初期にそれが出現した時点では、科学は魔術への信条と密接に繋がっていた。
殆んど誰も思い起こさないが、アイザック・ニュートン(Isaac Newton)は、聖書の黙示録的諸書を隠れた意味を探査したところの、錬金術の学生だった。
⇒ケインズがニュートンの錬金術狂ぶりを明らかにしたことは結構知られている話
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%82%A4%E3%82%B6%E3%83%83%E3%82%AF%E3%83%BB%E3%83%8B%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%83%88%E3%83%B3
ですが、こういう主張をするのであれば、ハラリは、当時の科学者の多くが「魔術」に強い関心を持っていたことを典拠でもって示す必要がありました。(太田)
今日の科学だって、さほど異なっているわけではない。・・・
・・・科学は神話的思考に取って代わったわけではなく、それに至る経路(channel)になったのだ。
科学が人間達が考える流儀に革命をもたらしたという観念は、それ自体が神話なのだ。」(A)
(続く)
新しい人類史?(その5)
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