太田述正コラム#7178(2014.9.13)
<新しい人類史?(その6)>(2014.12.29公開)
(9)人類の現在:帝国
「人間の歴史は、概ね、征服の記録であり、多くの諸文化が、帝国的支配(domination)の対象となった結果、消滅した。・・・
時代遅れめいているが、ハラリは、一つの政府の型として帝国にメリットを見出している。
支配と搾取の記録とともに、諸帝国は、沢山の貴重な文化的諸遺産を残してきた、と彼は指摘する。
紀元前200年(BCE200)前後から、大部分の人間達は諸帝国の中で生活してきたところ、未来においてもまた、大部分の人間達はそのうちのどれかの中で生活することになりそうだ。
⇒西においては、アレクサンドロス大王による帝国「完成」は紀元前320年代であり、
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%AC%E3%82%AF%E3%82%B5%E3%83%B3%E3%83%89%E3%83%AD%E3%82%B93%E4%B8%96#.E3.82.A4.E3.83.B3.E3.83.89.E9.81.A0.E5.BE.81.E3.81.A8.E3.82.B9.E3.83.BC.E3.82.B5.E5.B8.B0.E9.82.84
共和政ローマにおいて帝政ローマ時代の領域の骨格が完成したのがカエサル当時の紀元前40年代であったこと、
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%85%B1%E5%92%8C%E6%94%BF%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%83%9E
また、東においては、秦統一王朝の成立が紀元前240年代だったので、丸めれば、紀元前200年前後、と言いたいのでしょうが、その後、西ローマが滅亡し、欧州は分権的時代に貼りますから、いささかハラリは牽強付会気味ですね。(太田)
しかし、今回は、帝国は<単一の>普遍的なものになる、と彼は信じている。
「ナショナリズムは急速に後退しつつある」のであり、多エスニック選良達によって統治された新しい全球的帝国が取って代わりつつある、と。
<しかし、私(書評子)には、>これは無理筋(far-fetched)のように見える。
間違いなく欧米の力は退潮しつつあるが、支那、インド、そしてロシアという他の帝国的大国群が立ち現われつつあったり自分達自身を再主張したりしつつある<からだ>。
⇒ハラリは「帝国的大国」という両義的な言葉を使っていますが、支那はともかく、インドはある意味でかなり同質性の高い国(コラム#失念)であって帝国と言えるかどうかは微妙ですし、ロシアはソ連時代とは違って、ロシア人の比率が80%以上
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AD%E3%82%B7%E3%82%A2#.E5.9B.BD.E6.B0.91
と圧倒的に多いことから、やはり帝国と言えるかどうかは微妙です。(太田)
我々は、古典的な地政学への回帰を目撃しつつある。
19世紀末のそれとそれほど異なっていないが、新しいプレヤー群とより巧妙な(ingenious)兵器群を伴ったところの、諸資源を巡って競い合う諸帝国の間の闘争を・・。」(A)
(10)人類の将来
「この数十年にわたり、人間達は、過去40億年の間地球上の生命を統治して来た自然淘汰の諸法則を枉げたり壊したりし始めている。
遺伝子工学やナノテクノロジーといった新しい諸テクノロジーが我々に、我々の周辺の世界だけでなく、我々自身の諸身体、我々の諸人格、そして我々の諸欲望についても、設計図を引く、空前の諸能力を与えつつある。」(D)
「この本の終わり近くで、ハラリは、「人類の終焉」についての幾つかの諸推量を提供している。
彼は、それが、生命工学(bioengineering)、サイボーグ・テクノロジー、そして非有機的生命体の創造の結果として到来するかもしれないと考えている。
現時点では、我々は、諸疾病を治療したり予防したりするとともに人間の長寿を増進させるために、諸遺伝子をぎごちなく弄繰り回し、人工肢を開発し、人工知能を探索している。
しかし、これらの諸介入が、時間の経過とともに累積し、拡大して行くことで、諸種における変更(alteration)をもたらす可能性が高い。
「この世界の未来の諸主人達は、我々がネアンデルタール人達と異なるよりももっと我々と異なったものになっているだろう」と彼は記す。・・・
彼は、人間という動物は、その生物学的過去と決別する能力を有するに至ったと信じている。
すなわち、「それは、今や、自然淘汰の諸法則を破って、それらを、神のような存在の諸法則で置き換え始めている」と。
しかし、仮に人間以外の諸種、そして究極的には人間種それ自体が新しい諸テクノロジーの諸効果によって再形成されるとすれば、そのプロセスは、いかなる型の神のような存在によって導かれることはないだろう。
競争相手の諸政府、競い合うの多国籍諸企業、組織犯罪、そして千差万別の諸テロ網の保護の下で、手におえない諸紛争の副産物として生起するところのそれは、無計画で概ねカオス的<な代物>だろう。
今日の多くの人同様、ハラリは、現代科学は人間の嗜好に革命をもたらしたと信じている。
「現代の科学は知識に関するユニークな学派(tradition)だ。
というのも、それは最も重要な諸問題に関する集団的無知を公然と認めているからだ」と。
科学は、人間達に自分達の生物学的諸制約を超越(transcend)する力をあたえるところの、知的革命をもたらした、ということを彼は確信している。」(A)
「近代科学学派はそれより前のあらゆる知識の諸学派といかに異なるのか?
その突然の興隆とその比類なき諸達成は何よるのか?
近代科学は、近代の欧州の諸帝国と手を携えながら発展したのだ。・・・
この関係の三つめの枢要な成員は資本主義であり、それは、科学と帝国双方に資金提供を行い、世界経済を空前の成長へと導いた。
資本主義経済はどのように機能するのか?
それは伝統的諸経済とどのように異なるのか?
資本主義は自然なものなのか、それとも本当は一種の宗教なのか?・・・
過去200年の間に、科学、帝国主義、そして資本主義の組み合わせは、産業革命を生み出したのだ。」(D)
(続く)
新しい人類史?(その6)
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