太田述正コラム#7256(2014.10.22)
<アングロサクソン文明の至上性を疑問視し始めたイギリス(その4)>(2015.2.6公開)
今こそ、ニーバーが、婉曲的に、「欧米の高度に偶発的な諸達成(the highly contingent achievements of the west)」と呼んだものについての吟味を行うこと、また、非欧米の様々な諸歴史に対してよりきめ細かい注意を払うこと、が求められている。
それなのに、現在の危機に対する最もありきたりの反応は、欧米の「弱さ」に対する絶望であり、「唯一の超大国」にして「不可欠な国(nation)」の大統領たるバラク・オバマは、この危機を何とかするためにもっと努力しなければならなかった、というものだ。
「欧米は勝利するだろうか」と、プロスペクト(Prospect)誌<(注6)>は最近号の表紙で問いかけた。
(注6)1995年10月創刊の英国の総合雑誌。2005年以来、毎年、世界の公共知識人100選を発表することで知られる。
http://en.wikipedia.org/wiki/Prospect_(magazine)
ヴェトナムからイラクに至る、種々のひどい(murderous)ドジの繰り返し(fiascos)への彼の連座が、<今日の>当惑した人々の間にあっての、その、頑固な現実主義の賢人としての転生(re-incarnation)を妨げはしなかったところの、ヘンリー・キッシンジャーの写真でもって、この問題に係る孤絶感(forlonness)を強調(underline)しつつ・・。
ロバート・ケーガン(Robert Kagan)<(注7)(コラム#65、605、1448、1472、1571、2549)>は、9月の頭のウォール・ストリート・ジャーナルにおいて、20世紀初期における日本やドイツ、及び、今日のプーチンのロシアのような、「ハードな力」以外に理解できる言語を持たないところの、リベラルな近代性への諸敵に対して、この力を用いることを非難されている、との傲慢なネオコン的信条を書いた。
米国が、ドイツへの火焔爆撃、日本への原爆投下、ベトナムへのナパーム弾投下、のどのハードな力の発現をロシアに対して行うべきか、また、彼がチアリーダーとなったところの、イラクにおける衝撃と畏怖作戦(shock-and-awe campaign)がよりより範例(template)であるというのか、ケーガンは何も語っていない。
(注7)1958年~。「<米>国の歴史家 、政治史家、政治評論家。ネオコンの代表的論者。ブルッキングス研究所上席フェロー、ジョージタウン大学招聘教授(専攻は歴史学)。・・・イェール大学卒業後、ケネディスクールで修士号、アメリカン大学でPh.D.取得。・・・2002年に・・・冷戦後の世界において軍事力を重視する<米国>人と、それをほとんど考慮しようとしない<欧州>人の世界観が「火星人と金星人」ほど異なってしまっていると論じ<た。>」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AD%E3%83%90%E3%83%BC%E3%83%88%E3%83%BB%E3%82%B1%E3%83%BC%E3%82%AC%E3%83%B3
NYタイムスのロジャー・コーエン(Roger Cohen)<(注8)>は、諸文明の衝突論議(discourse)のより穏健な変奏版を提供し、「元諸植民地の人々を抱えた欧州の諸国は、自分達の、自由、民主主義、及び、法の支配という諸価値を<素直に>祝うことが往々にしてできないように見える」と嘆く。
(注8)1955年~。ロイター、WSJ、及びNYタイムスの記者として、15国で特派員経験あり。ロンドンでユダヤ人の家に生まれ、オクスフォード大卒、同大修士(歴史/フランス語)。
http://en.wikipedia.org/wiki/Roger_Cohen
このような、欧米が全球的諸出来事を形作る能力についての一徹なる信者達・・彼らは、永久に自身を寿ぐ・・は、1989年においてさえ、時代遅れの臆説(assumption)に憑り付かれていた(afflicted with)。
その臆説とは、20世紀は、自由民主主義と、ファシズムや共産主義といった全体主義的諸イデオロギー、との諸闘いによって規定される、というものだ。
彼らの、<この>概ね欧米内紛争に係る妄想(obsession)は、20世紀における最も顕著な出来事は非植民地化であり、アジアとアフリカ全域にわたる新しい国民国家群の出現であった、という事実を覆い隠してしまっている。
彼らは、諸自由民主主義が、植民地の被支配者達によって、容赦なき帝国主義的なものとして経験された、という事実を殆んど直視(register)していないのだ。・・・
(続く)
アングロサクソン文明の至上性を疑問視し始めたイギリス(その4)
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