太田述正コラム#0286(2004.3.12)
<新悪の枢軸:インド篇(その3)>

 そうではない、と思った方がよさそうです。
 ポイントは、BJPがまだインドの中央政治で地歩を固めきっていないところにあります。
 1999年の総選挙でBJPは引き続き第一党の地位を保ち、「勝利」しましたが、得た議席数は、総議席537中182議席に過ぎませんでした。
 BJPは極右政党から社会主義政党まで20以上の政党をかき集めて政権を維持していますが、この連立政権は議席数こそ合計で296を数えるものの、選挙の時の得票率で言うと、与党各党を全部合算しても42%にしかなりません。BJP政権は二重の意味で少数政権にほかならないのです。
(以上、http://www.indiamap.com/elections/、及びhttp://news.bbc.co.uk/2/hi/south_asia/3382299.stm(いずれも3月12日アクセス)による。)
 ですから、BJPは当面は猫をかぶった状態でひたすら権力を維持し、その勢力の伸張を図る作戦なのかもしれないのです。権力を握り続けてさえおれば、教育省を通したヒンズー原理主義教育によって次第に国民の意識を変えていくことができ、いつかはインドをBJPの思い描くヒンズー国家に変貌させることができるからです。

 (2)選良ならぬ選悪による政治
もっとも、仮に今年の総選挙で、或いは次の総選挙で国民会議派または国民会議派を中心とする連立政権がBJPから政権を奪取したとしても、インドの将来への懸念が払拭されるわけではありません。
インドの民主主義が、とことん腐敗しているからであり、そんなインドが今や核保有国であるからです。
腐敗と言っても、どこかの国の政治の「腐敗」の度合いとは桁が違います。
1996年の調査では、四人の閣僚を含む39名の国会議員が、殺人、強姦、誘拐等の刑事事件の被疑者でした。また、前回の総選挙の時の候補者のうち500名を調べたところ、72名が刑事事件の被疑者でした。
州議会選挙ともなれば、状況はもっとひどく、おおむね候補者の20%が闇の世界の住人です。なぜ犯罪者が政治にかかわるかと言えば、彼らは政党にカネを出し、その見返りに司法当局からの追及を免れようとするからです。しかも、彼らの当選率は決して悪くありません。脅迫によって票集めをするから、ということもありますが、何よりも、選挙民は政治家と官僚はみんな腐敗した犯罪者であると考えており、プロの犯罪者に対する拒否反応など、全くと言っていいほど持ち合わせていないからです。
(以上、http://www.atimes.com/atimes/South_Asia/FB28Df04.html(2月28日アクセス)による。)
映画俳優出身の政治家がやたら多いのもインドの特徴です(http://adaniel.tripod.com/parties.htm。3月12日アクセス)。
そもそも、大部分の選挙民は、候補者の個人的資質などどうでもよく、もっぱら宗教やカーストのしがらみで投票すると言われています(アジアタイムス前掲)。

(3)ネグレクトされっぱなしの初等教育
インドで宗教原理主義政党が政権を掌握したり、政治が腐敗し切ったりしているのは、インド国民の教育水準が低いためだと言ってもいいでしょうが、教育水準向上への取り組みは依然極めて不十分です。
これは、英国の植民地だった当時から引きずっている問題なのですが、BJP政権も、あいもかわらず、高等教育には力を入れても、初等教育はネグレクトする政策を続けています。
国連による2000年から2001年にかけての調査によれば、インドの初等教育においては、貧困のために5年次までに児童の半分が脱落しており、初等教育修了率は53%と東アジア及び南アジアの中で最低です。
(以上、http://www.atimes.com/atimes/South_Asia/FC02Df03.html(3月2日アクセス)による。)
また、社会の男女差別構造を反映し、2001年の女子の就学率は男子児童の78%にすぎません(http://news.bbc.co.uk/2/hi/south_asia/3357957.stm。2月15日アクセス)(注8)。

(注8)ちなみに、バングラデシュは103%でパキスタンは61%であり、元は一つの国であった
イスラム国でも随分違うことが分かる。(ついでに、5歳までの子供1000人当たりの死亡
率は、1990年にはインド123人、バングラデシュ144人、パキスタンは128人だったが、
2001年にはインド93人、バングラデシュ77人、パキスタンは109人となっている。)

(続く)