太田述正コラム#7264(2014.10.26)
<露・日・印は同類?(その2)>(2015.2.10公開)
ナイポール氏がそう規定してからというもの、黙示録的なインド人の想像力は、ヒンドゥー教徒たるナショナリスト達の諸所業(exploits)・・例えば、1992年の16世紀のバブリ・マスジッド(Babri Masjid)モスクの破壊<(注5)>や1998年の累次の核実験・・によって増殖(enrich)された。
(注5)ムガール帝国初代皇帝のバーブルによって現在のウッタル・プラデシュ州に建立されたモスクを、ヒンドゥー教徒達は、ヒンドゥー寺院を破壊した跡に建てられたとし、1992年に襲撃、破壊した。その結果、インド全国でヒンドゥー教徒とイスラム教徒の衝突が起こり、2,000人を超える人々が死んだ。
http://en.wikipedia.org/wiki/Babri_Masjid
1990年代末におけるこの累次の実験を寿ぐ諸演説の中で、例えば、そのうちの、「もう一つのマハーバラータ(Ek Aur Mahabharata=One More Mahabharata)」と題する演説の中で、ヒンドゥー教徒のナショナリスト達の親(おや)団体(parent outfit)である、全国ボランティア連盟(Rashtriya Swayamsevak Sangh==R.S.S=the National Volunteers Association)の当時の長は、ヒンドゥー教徒は、「英雄的にして頭の良い人種」であって、これまではしかるべき諸兵器を持っていなかったけれど、来たるべき、悪魔的な反ヒンドゥー教徒達・・(世界一帯の「非人間性の興隆」を最もよく例示していることが明白であるところの)米国人達を含む広範な範疇・・との対決(showdown)では勝利を収めることが確実である、と主張した。
ハーヴァード大育ちの、スブラマニアン・スワミー(Subramanian Swamy)<(注6)>という経済学者は、R.S.S.の長によって2000年に「異邦人の文化を自分達の地に移植しようとするできそこない達(bastards)の階級」と同定された部類に属すリベラルで世俗的な知識人達たる、インド人歴史学者達による標準的な(canonical)書籍群を篝火にくべるよう求めた。
(注6)1939年~。デリー大卒(数学)、インド統計研究所で修士(統計学)、ハーヴァード大博士(経済学)。2回にわたって国会議員。最初のBJP政権において、閣僚ポストを歴任。
http://en.wikipedia.org/wiki/Subramanian_Swamy
ヒンドゥー教至上主義者からソシアル・メディア上で「世俗テーキ・リブラル達(sickular libtards<=secular liberalsのインド訛り>)」やセポイ達(sepoys)(英国軍のインド人兵士達の共通名称)、と弾劾されたところの、これらの知識人達は、明らかに欧米のトロイの馬達だというのだ。
彼らは、かつて「黄金の鳥」という評判であったインドが「再び立ち上がる」であろうとのモディ氏のヴィジョンを実現させるためには粛清されなければならない、と。
モディ氏は、インドの「黄金の鳥」という評判が盛んだったのは、いわゆる、イスラム教徒達によって奴隷にされていたところの、長きにわたる数世紀の間であったことを知らないように見える。
シェルドン・ポロック(Sheldon Pollock)<(注7)>からジョナードン・ガネリ(Jonardon Ganeri)<(注8)>に至る、定評ある一連の学者達は、疑問の余地なく、英国による統治より前のこの<イスラム教徒達による>危機の間にこそ、インドの哲学、文学、音楽、絵画、及び建築における最も偉大な諸達成がなされた、ということを証明した。
(注7)米国のサンスクリット、米知的・文学的歴史、及び、比較知的歴史の学者。ハーヴァード大博士。現在、コロンビア大学教授。
http://en.wikipedia.org/wiki/Sheldon_Pollock
(注8)英サセックス大教授(哲学)。認知、知覚、哲学、心の哲学専攻。
http://www.sussex.ac.uk/philosophy/people/peoplelists/person/25285
ナイポール氏が気付いたところの、半ば欧米化された上級カーストたるヒンドゥー教徒達の心因性の諸傷は、実際には、インドの選良の、最初は欧州の、次いで米国による、地政学的及び文化的支配との屈辱的邂逅の時期に始まるのだ。・・・
→インドについてのミシュラの叙述が面白いので、当初の予定を変えて、詳しく紹介してきました。
なお、私見では、イスラム時代におけるもので、インドで最も偉大な達成といえば、建築、それもタージ・マハル
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%BF%E3%83%BC%E3%82%B8%E3%83%BB%E3%83%9E%E3%83%8F%E3%83%AB
だけです。
そして、言わずと知れたことですが、哲学でのインドの最も偉大な達成者は釈迦でしょう。
文学、音楽、絵画については、控えます。(太田)
(続く)
露・日・印は同類?(その2)
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