太田述正コラム#7274(2014.10.31)
<アングロサクソン文明の至上性を疑問視し始めたイギリス(その8)>(2015.2.15公開)
⇒「帝国主義は、<非欧米が、>欧米型の経済発展を追求する諸資源を奪ったのだ。
帝国主義は、存続できる政治諸単位や社会諸構造を何世紀にもわたって発展させてきた諸社会の上に破滅的な諸イデオロギーや諸制度をも押し付けたのだ。」というくだりは、帝国主義に(戦前の)日本を含めた瞬間、成り立たなくなってしまいます。
日本「帝国主義」は、「非欧米諸国/地域が経済発展を追求する諸資源を与え、諸社会を人間主義や日本型諸制度でもって作り変えた」のですからね。
なお、そもそも、「欧米」として、欧州、米国、イギリスを一括りにしている点で、この書評子ないしこの書評が対象としている本の筆者達は間違っているわけですが、この間違いを、彼らは百も承知で韜晦するためにあえて冒しているのでしょうから、見逃してあげるべきでしょう。
付言すれば、ミシュラの帝国主義論がこの書評子ないしこの書評が対象としている本の筆者達のそれと生き写しである理由は、思うに、ミシュラが、この筆者達のような人々によって書かれたところの、イギリスの諸文献に依拠し、かつそれら諸文献の記述を鵜呑みにしている、からでしょう。
ちなみに、この書評子ないしこの書評が対象としている本の筆者達が、「ヘーゲル主義が倒置されたところの・・・諸幻想」と言っているのは、ヘーゲル主義者として出発した日系米人のフランシス・フクヤマによる「歴史の終わり」論を揶揄しているわけです。(太田)
ところで(But then)、冷戦中の欧米のイデオローグ達は、馬鹿げたことに、「民主主義的な」欧米の興隆を美化した。
<欧米側が共産主義諸国>より優れた道徳的徳を<有すると>主張したところの、共産主義に対する長期の闘争は、多数の便宜的な欺騙的牽制群(feints)を必要とした。
だから、何世紀もの内戦、帝国的征服、暴虐的搾取、そしてジェノサイドは、欧米人達が近代世界を作り、彼らの諸自由民主主義でもってその他のあらゆる地域の優れた人々が追い付かなければならないかを示す諸説明(accounts)の中では語られなかった。
冷戦のさ中の1963年に、ジェイムズ・ボールドウィン(James Baldwin)<(注12)>は、全欧米諸国は、「ウソにとらわれている。そのウソとは、彼らの偽(pretended)ヒューマニズムだ。何が言いたいかというと、彼らの歴史は道徳的に正当化できないし、欧米は道徳的権威を持っていないということだ」と警告した。
(注12)1924~87年。高卒。「<米>国の小説家、著作家、劇作家、詩人、随筆家および公民権運動家・・・その小説<に>は・・・黒人であり同性愛者であることに関連した社会的なコンプレックスや心理的圧力を掘り下げ<てい>る<もの等がある。>」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B8%E3%82%A7%E3%82%A4%E3%83%A0%E3%82%BA%E3%83%BB%E3%83%9C%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%83%89%E3%82%A6%E3%82%A3%E3%83%B3
にもかかわらず、このアフリカ系米国人の考えがそんなものであるはずがないとの思い込み(The deception that an African-American easily divined)が、冷戦の終焉以後も長く、彼が政治的支持と知的敬意を享受することを可能にした。
かくして、<この二人の>エコノミスト誌の編集者達<でさえ>、『第4革命』の中から、数ある中でも、17世紀の諸宗教戦争、フランス諸革命の恐怖政治(terror)、ナポレオン諸戦争、普仏戦争、そしてイタリア統一戦争、という、近代国民国家へと導いたところの、大量殺戮の歴史を省いているのだ。
どのように欧米が近代世界を作ったかについての、流布している諸説明を売り込んでいるところの、主流の英米著述家達は、知的韜晦(equivocation)と植民地主義、奴隷制、及び、年季強制労働(indentured labour)<(注13)>の欧米の比較優位についての無頓着(insouciance)の間を蛇行(veer)した。
(注13)年季強制労働「の大きな問題は、多くの場合、奉公するものが雇用主から金を借りてそれが膨らみ、契約年限が延びてしまうことであり、そのために一生奉公が続く可能性があったことである。また、奉公人はしばしば職場や家で雇用主からの暴力に曝されることがあった。アメリカ南部の農園で栽培されるタバコのような労働集役型換金作物は、17世紀から18世紀に掛けて年季奉公人の労働で賄われた。・・・1865年に奴隷制度が廃止されてからも、労働力の確保のために年季奉公契約をその抜け道とすることが行われた。」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B9%B4%E5%AD%A3%E5%A5%89%E5%85%AC
<ニオール・>ファーガソン(Ferguson)<でさえ>、「ゴムを育て金を採掘するための、安価で、恐らくはパートタイムの(underemployed)、アジア人労働の動員には経済的価値はなかったなどとうそぶくことはできない」と断言している。
<ところが、>エコノミスト誌に載った、資本主義と奴隷制の盟約(compact)の歴史に係る最近の書評は、<書評対象の>本に出てくる「黒人の殆んど全員が犠牲者達で、白人の殆んど全員が悪漢達であること」に抗議した、ときている。
(続く)
アングロサクソン文明の至上性を疑問視し始めたイギリス(その8)
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