太田述正コラム#7284(2014.11.5)
<米国知識人のロシア認識(その1)>(2015.2.20公開)
1 始めに
ここ何か月か、市民セミナー対応で追われていたためか、学士会報やスタンフォード大同窓会誌や同大ビジネススクール同窓会誌が何冊もたまってしまっており、ようやく、昨日から本日にかけて、その全部に斜めに目を通しました。
必ずしも収穫は多くなかったのですが、その中から、表記に係る、スタンフォード大同窓会誌(STANFORD May/June 2014)掲載の、スタンフォード大卒の前米駐露大使を取り上げた記事(下掲2)を、同じく、表記に係るフォーリン・アフェアーズ・レポート(Foreign Affairs Reports,September 2014, No.9)掲載論考(下掲3)・・TAさん提供・・とを併せてご紹介し、私のコメントを付したいと思います。
(その他の収穫については、明日のディスカッションで取り上げるつもりです。)
2 Robert L. Strauss, ‘A Chill in the Air’ より
(1)序
この記事の筆者のロバート・L・ストロース<(注1)>は、奇しくも、私と同様、スタンフォード大でMBAとMAを取得(いずれも1984年。私は1976年)しています。(PP68)
(注1)米国務省から功労栄誉章(Meritorious Honor Award)を授与されたほか、旅行記に関する賞(Lowell Thomas Award)を3度受賞。妻と一人娘とともに、スペインのバルセロナに居住。
https://alumni.stanford.edu/get/page/magazine/article/?article_id=64350
また、前大使とは、マイケル・マクフォール(Michael McFaul。1963年~。駐露大使:2012.1~2014.2)です。
彼は、スタンフォード大(国際関係論・スラヴ諸語)卒、同大修士(1986年。スラヴ/東欧研究)で、ロシアの2大学で学んだ後、ローズ奨学生としてオックスフォード大に留学し、博士号(国際関係論)取得し、スタンフォード大政治学教授を経て、オバマ大統領の特別補佐官、駐露大使辞任後、スタンフォード大政治学教授復帰、現在に至る、という人物です。
http://en.wikipedia.org/wiki/Michael_McFaul
(2)記事より
「モスクワ<の>・・・ラジオ局の編集長<に、私が>・・・マクフォール大使でさえ、ロシア人達はロシアの1,000年の歴史の大部分よりも、現在、より自由でより金持ちだと言っている<ところ、にもかかわらず、>・・・どうして米露はうまくやっていけないのか、と尋ねたところ、<彼>は、「ウィンストン・チャーチルに尋ねてみろ。それは、ポスト帝国症候群と呼ばれるものなのだ。我々は、米国と同等の超大国だったのだ。確かに、当時のロシアでは、蛇口をひねってもお湯は出てなかったし、食糧も乏しかったけれど、<他国の>人々はロシアを恐れた。当時のロシアの人々はこの恐れを敬意と受け止めていたのだ。<他方、>今や、ロシアはお湯を手にしたし、食糧も足りているものの、誰もロシアを恐れていない。つまり、ロシアは敬意を抱かれていないわけだ。とまあ、実に単純な話さ。」と答えた。」(PP63)
⇒筆者は、この「答え」がロシア人のホンネであると受け止めているらしく、マクフォールもまたそうであると思われるところ、米露がうまくやっていけない理由は、(太田コラム読者であればお分かりでしょうが、)米国が、客観的に見て、ロシアにとっての緩衝地帯の削減にこれ努めているため、ロシア人の心中奥深くに蟠っているところの、タタールの軛のトラウマを募らせているからです。
しかし、そんなホンネを吐露することなど恥ずかしい限りであるし、何よりも、自分のこのトラウマを一層亢進させてしまいかねないので、ロシア人は、こういう(、米国人にとって分かり易いと彼らが想像しているところの、)言い方をしているわけですが、米国の知識人達は、鈍感にも、それに気付かないのです。
これは、米国人の大部分が、かねがね私が指摘しているように、そもそも、外国音痴であるからですが、もう一つ、米国の白人の大部分が、自国の奴隷制が、どんなに凄まじい爪痕を、自国の黒人はもとより、アフリカの奴隷狩り地域に残したか、を直視していないからです。
だからこそ、彼らは、奴隷化の恐怖を伴っていたところの、タタールの軛がロシア人にとってトラウマ化していることに、思いをはせることができないのです。(太田)
「マクフォールに言わせると、「プーチンはゼロサム<ゲーム>ないしは、「もしお前が勝ったら俺は負けだ」と信じている。」のだ。
マクフォールは、例えば、EUとより密な経済的繋がりをもったウクライナは、より富んだ、よりダイナミックなウクライナを意味し、それは、ロシアを含むみんなにとって何らか良いことなのだ、と考える。
ところが、プーチンは、明らかにそれに対して異なった見方をしているのだ。」(PP63)
⇒この箇所だけでも、マクフォールの浅薄性が分かるというものであり、彼は、プーチンの、ロシアにとっての緩衝地帯内に所在するグルジアやウクライナに対する政策だけでもって、プーチンのものの考え方を推し量ってしまっています。
ロシアにとっての緩衝地帯内に所在しないフランスや、緩衝地帯内にほぼ所在しないドイツに対するプーチンの政策が、ゼロサムゲームなどではないことは、誰の目にも明らかであるというのに・・。(太田)
(続く)
米国知識人のロシア認識(その1)
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