太田述正コラム#0289(2004.3.15)
<欧州の「挑発」(その1)>
1 始めに
私はかねてより、アングロサクソン文明と欧州文明との抗争こそ、世界の近現代史を貫く最大のテーマだと指摘してきました。
その抗争が、イラク戦争を契機として、再び派手に繰り広げられています。
昨年11月には、EUの市民7,500名を対象とする世論調査で、イスラエルが世界の平和にとって最大の脅威だ、とするとんでもない結果が出て、イスラエルと英米に激震が走りました。イスラエルのパレスティナ「弾圧」に対するアラブ人の怒りが、米国等によるイラク戦争に対する怒りとあいまって、欧州にも向けられるのではないか、それが9.11同時多発テロ的な大規模テロの形をとるのではないか、という懸念からだろうと分析されています(http://www.guardian.co.uk/comment/story/0,3604,1079713,00.html。11月7日アクセス)。
これは英米では考えられない世論調査結果・・英国もEUに加盟していますが、単独で世論調査を実施すれば、そんな結果が出るはずがありません・・であり、欧州の人々による形を変えた反米主義(反アングロサクソン主義)の表れであると受け止めるべきでしょう。
こんなムードの最近の欧州諸国中、フランスとスペインを俎上に載せて、そのアングロサクソンに対する「挑発」ぶりをご紹介することにしました。
2 フランス
ドイツとともに、英米によるイラク戦争に反対の立場を貫いたフランスは、懲りることなくその後も米国の神経を逆なでするようなことを繰り返しています。
今年に入ってからも、シラク仏大統領は、1月に訪仏した中共の胡錦涛(Hu Jintao)国家主席に対し、台湾の国民投票に反対する旨を表明しました(http://news.bbc.co.uk/2/hi/europe/3432313.stm。1月27日アクセス)。台湾はこれに対し、フランスとの閣僚レベルの交流を凍結する等、強い反発を示しています(http://news.bbc.co.uk/2/hi/asia-pacific/3440659.stm。1月30日アクセス)。
権利として中台関係に介入できる米国(コラム#247、260、267、268、269参照)とは違って、フランスが(単なる懸念表明ならともかく、)国民投票に反対するのは明らかに出すぎた行為でした。
しかもフランスは、米国と台湾が強く反対しているにもかかわらず、1989年の天安門事件以来実施されているEUの対中武器禁輸政策撤回に向けて精力的な根回しを続けています(http://www.taipeitimes.com/News/front/archives/2004/01/28/2003092707。1月29日アクセス)。
極め付きは、現在青島沖の東シナ海で実施されている中仏海軍共同演習(注)です。これは、フランスがどう弁明しようと、タイミング的に3月20日行われる台湾総統選挙兼国民投票への人民解放軍の示威行動への加担以外のなにものでもない、とフランス国内からも批判の声が出ています(http://news.bbc.co.uk/2/hi/asia-pacific/3512088.stm。3月16日アクセス)。
(注)中共は、昨年、初めての外国との共同演習(海軍)をインドとパキスタンそれぞれとの間
で実施した。今回の中仏海軍共同演習は、中共の北海艦隊とフランスの艦艇2隻(駆逐艦と
軽フリゲート艦)との間で、捜索救難等の演習を実施するもの。
3 スペイン
このフランスの隊列についにスペインが加わりました。
3月14日のスペイン総選挙に勝利した、野党の党首で次の首相と目されるサパテロ(Jos? Luis Rodr?guez Zapatero)氏は、ブッシュ米大統領とブレア英首相はウソをついて戦争をしかけたと両者を批判した上で、イラクに派遣されているスペイン兵1300名は撤兵させると宣言したのです(http://www.guardian.co.uk/spain/article/0,2763,1170284,00.html。3月16日アクセス)。
(続く)