太田述正コラム#7298(2014.11.12)
<反米戦略を顕在化させた習近平体制>(2015.2.27公開)
1 始めに
かねてより、支那は日本ではなく米国こそ真に敵視しているのではないか、敵視しているはずである、と私は指摘してきたところですが、日本との「修復」がなった今、中共の習近平体制は、ついに、その反米性を露わにするに至ったようです。
本日目にしたNYタイムス記事
http://www.nytimes.com/2014/11/12/world/asia/china-turns-up-the-rhetoric-against-the-west.html?ref=world
を通してそのことを見ていきましょう。
2 反米戦略を顕在化させた習近平体制
「彼の政府が、今秋、オバマ大統領に最大限のもてなしをしているにもかかわらず、中共主席の習近平は、反米こきおろしを内容とするその書き物でもって最もよく当地で知られる、一人の若きブログ主を称賛した。・・・
このブログ主の周小平(Zhou Xiaoping)<(注1)>は、米国文化は「支那人民の道徳的基盤と自信を腐食させている」と主張した。
(注1)1981年~。漢語ウィキペディアにも百度にもかなり詳細な記述があるところを見ると相当の有名人のようだが、学歴は不明。
http://zh.wikipedia.org/wiki/%E5%91%A8%E5%B0%8F%E5%B9%B3
http://baike.baidu.com/subview/1893901/11039643.htm
彼は、米国による非好意的な支那報道を、ヒットラーによるユダヤ人達の取り扱いと比較してみせた。
<また、>もう一つの論考の中で、彼は、欧米は、支那や他の諸文明を、17世紀以来、殺戮し窃盗してきたが、今ではそのことを<自ら>「洗脳」して<忘れて>いる、と語った。
習氏は、諸芸術の政治的統制の強化を狙ったあるフォーラムで、先月演説したが、このブログ主は「明確な(positive)エネルギー」を示した、と語った。
これは、情宣担当の役人達に囃し立てられつつも当地の学者達によっては広範に嘲られてきたところの、周氏を習が抱懐したことは、中国共産党の最高諸階層から発信せられ、中共の市民社会及び学界一帯に背筋が寒くなる思いをさせた、反欧米感情亢進のまさに最も直近の徴だ。・・・
冷戦時代を思い起こさせるイデオロギー的言語を使用して、中共の役人達は、諸陰謀論について旨そうに口にし、外国人達、彼らの諸企業、国家諸機関、及び、諸NGO、が共産党を弱体化し、或いは転覆しようと企んでいる、と非難してきた。
欧米の諸実体(entities)と繋がりのある中共の諸機関は、どんなに温和な(benign)ものであろうと、やはり、攻撃対象となった。
それが、中共西部における民族的暴力であれ、香港での民主主義シンパたる学生主導のデモであれ、あらゆる主要な騒擾(disturbance)に関し、国営の諸新聞は、「敵意ある外国諸勢力」の非難に乗り出した。・・・
<しかも、>欧米を標的にした以前の諸キャンペーンとは違って、現在のナショナリズムの波は、支那が興隆しつつある時に始まった。
習氏は、世界一の経済大国である米国を追い越す寸前であって、世界中、とりわけアジア・・中共はそこでその領域的足跡を拡大しようとしている・・で、影響力を享受しているところの、国を統轄している。
諸演説の中で、習氏は、公然と、他の諸国に対し、具体的諸問題(specific issues)について<、米国を>押し戻すよう呼びかけた。
例えば、7月には、彼はブラジルの国会に対し、発展途上諸国は、「米国のインターネットに係る覇権に挑戦」しなければならない、と伝えた。
<また、>2か月前には、習氏は、上海での会議(conference)において、「アジアの諸事を切り盛りするのはアジアの人々の仕事だ」と言って、米国はアジアにおける権力を譲らなければならない、と示唆した。
この反米主義の高まり(surge)は、諸演説の域を超えている。
例えば、この夏にかけて、中共政府は、外国の支援を受けている中共の諸NGOとともに、中共内で運営されている外国の諸NGO、の保安審査を、その財政を検査するとともに銀行諸口座を凍結する形で、開始した。
昨年人民解放軍が制作した甲高い100分間の反米プロパガンダ映画は、米国の諸NGOが党を掘り崩すことに努めている、とする内容のものだった。
(それは、米HBO<(注3)>の連続番組、『ゲーム・オブ・スローンズ(Game of Thrones)』<(注4)>の勇ましいテーマ音楽<(注5)>を用いた。)・・・
(注3)「<米>国のケーブルテレビ放送局。タイム・ワーナー傘下のケーブルテレビ局でニューヨークに本部があ<り、>HBOおよび映画専門チャンネル「Cinemax」を運営して<いる。>」
http://ja.wikipedia.org/wiki/HBO
(注4)「ジョージ・R・R・マーティン著のファンタジー小説シリーズ『氷と炎の歌』を原作としたHBOのテレビドラマシリーズ。」2011年4月放送開始。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B2%E3%83%BC%E3%83%A0%E3%83%BB%E3%82%AA%E3%83%96%E3%83%BB%E3%82%B9%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%83%B3%E3%82%BA
(注5)https://www.youtube.com/watch?v=czjokOkOMpY
⇒支那で、墨家の思想をホンネのイデオロギーとしてきたことによって、音楽の発展が抑圧され続けたために、こんなところでも、外国、しかも、あろうことか、米国の音楽を用いなければならなかった、というのはさすがに考え過ぎでしょうね。(太田)
党の公式紙である人民日報によれば、6月の演説の中で、影響力ある中国社会科学院(Chinese Academy of Social Sciences)の上級党員たる張義威(?)(Zhang Yiwei)は、同院の主要なイデオロギー上の諸問題の一つは、「外国諸勢力の二点間直結の(point-to-point)侵入(penetration)」である、と語った。
周氏は、彼の役所は、党思想に沿っていないいかなる学者も許容しないだろう、と付け加えた。
外国勢力の「暗黒組織(black hand)」に非難を投げかけることは、国家報道メディアにおいてもどんどん一般的になってきた。
クリスチャン・サイエンス・モニターの計算によれば、今年、人民日報は、中共の国内諸問題に関して、「欧米の」「外国の」或いは「海外の」諸勢力を非難する記事の掲載数が、42本と、昨年の最初の10か月と比べて3倍近くに増えた。
⇒人民日報とくれば、どうして、同紙における日本ヨイショ記事の激増に、米国の主要紙等が注目しないのか、不思議でなりません。(太田)
香港での民主主義シンパのデモはお好みの標的であり続けてきた。
先週の金曜日に、共産党と関係の深い香港の新聞である大公報(Ta Kung Pao)<(注6)>が、「米国が2006年以来、密かに統治の占拠運動(Occupy movement)を企んできたことについての「疑う余地のない(ironclad)証拠」が発見された、という趣旨の見出しの一面を打ち出した。・・・
(注6)「<漢>語新聞としては発行期間が最も長い。創刊者は満州族の英斂之。英斂之は北京の貧困家庭に育ち、キリスト教に入信していた。彼は戊戌政変時には変法派を支持していたために一時上海や海外に逃れていたが、義和団の乱後に恩赦されて天津に戻り、1902年に天津のフランス租界にて新聞「大公報」を創刊した。・・・その後、1905年に社屋は天津日本租界内に移転した。「大公報」は政治問題への直言で知られ、言論の自由がなかった当時の清朝に対し、政治批判を行った。そのため清朝から発禁処分を受けることもあったが、治外法権下の租界には清朝の弾圧は及ばなかった。・・・ 1966年の文化大革命の際、北京の「大公報」では多くの社員が弾圧され、同年9月に「大公報」は停刊した。・・・香港ではその後も「大公報」の発刊が続いた。・・・2011年1月よりウェブサイト「大公網」内に、日本の情報を発信する「大公網JapanOnLine(ジャパンオンライン)」が開設された。」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%A7%E5%85%AC%E5%A0%B1
若干の者達は、党の役人達の多くが海外に住む子供達等の家族達を持っていたり、海外の国籍獲得申請をしてさえいること、を銘記しつつ、欧米に対する諸弾劾長広舌の正直性に疑問を投げかけたり偽善性を指摘したりしてきた。
習氏の娘の習明澤(Xi Mingze)<(注7)>は、偽名を使ってハーヴァード大学に留学した。・・・」
(注7)1992年~。習近平の一人娘。浙江大学に一年間在籍した後に、ハーヴァード大一年生となる。順当に行けば今年6月に卒業しているはずだが、何を専攻したのか、現在何をしているのかは分からなかった。
http://en.wikipedia.org/wiki/Xi_Mingze
3 終わりに
上記引用中の最後のくだりの批判は、習近平ら、中共最上層のアキレス腱でしょう。
いざという時に、自分達、いや、少なくとも子供だけは英語圏に亡命させたいからだ、そのために、子供に英語力と英語圏の土地勘を与えたいからだ、としか説明ができません。
そうは言っても、いくら、習夫妻がダブルインカムだとはいえ、しかも、子供が一人だけだとはいえ、まだまだ、巨大な所得格差がある国への留学費用をどうやって捻出したのか、どうして、中共国内の大学を卒業させた上で、留学させないのか、といった、外国からは公然たる、中共国内ではひそひそ話での、批判に晒されることは避けられません。
それはともかく、習近平が、反米戦略を顕在化させたことは、私の中共対外戦略観を一層裏付けるものであり、心強い限りです。
反米戦略を顕在化させた習近平体制
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