太田述正コラム#7322(2014.11.24)
<同じ声で吠え続けることしかできないフクヤマ(その8)>(2015.3.11公開)
(5)フクヤマ批判
「<この本においても、>歴史の終わりの預言者<たるフクヤマ>は、彼の節回し(tune)を殆んど変えてはいない。
⇒このくだりには全面的に同感です。(太田)
音色(tone)こそ異なっているが、メッセージは、本質的に同じだ。・・・
欧州では、20世紀の多くを通じて、大勢の中産階級の人々が、ファシズム、共産主義、そして民族的(ethnic)ナショナリズム、を抱懐することで、経済的かつ政治的な諸危機に対応した。
⇒フクヤマの言なのか書評子の言なのか定かではないものの、「欧州では」という限定を付けたところが、私には理解不能です。
もとより、ファシズム、共産主義、そして民族的ナショナリズムは、いずれも欧州起源ではあるわけですが・・。(太田)
この本には、若干の役に立つ諸洞察が含まれているものの、最も根本的なレベルにおいて、『政治的秩序と政治的朽廃』は知的混乱と範疇的諸誤謬の泥沼にとどまっている。・・・
⇒このくだりにも同感です。(太田)
歴史は既に終わっているとの彼の声明(pronouncement)に関して挑戦がなされた場合、フクヤマは、大規模な紛争は生起しなくなったなどと示唆したことは一度もない、と抗議する傾向があった。
自分が意味したのは、爾後、たった一つの政府のシステムだけが正統性あるものとして受容されるだろう、ということだったのだ、と。
しかし、政治的正統性というのはやっかいな事柄(slippery business)だ。
人々は、繁栄、答責性、及び、低い水準の腐敗、以外の多くの諸物事を欲する<からだ>。
彼らは、自分達の、国家的(national)諸神話、諸アインデンティティと諸敵意(enmities)の表出(expression)を求めるし、しばしば、政府のこの側面(aspect)に対して、民主主義に比べて、より重要性を付与するものなのだ。」(E)
⇒このフクヤマ批判はそれなりに正しいけれど、私に言わせれば、人間主義が欠如していたり、不十分である社会における民主主義はえてしてそのようなものへと堕してしまう、ということであり、まさに、それが、戦前において、ワイマール共和国で、そして米国で起こったことであったわけです。
つまり、フクヤマの根本的問題は、人間主義について無知であることであり、自由民主主義が歴史の終わりなのではなく、人間主義をメイン、自由民主主義をサブとするシステムこそが歴史の終わりなのだ、ということが彼には分かっていないところにあるのです。(太田)
「フクヤマと彼以外<、つまりはこの書評子以外の書評子達、>が銘記することを怠っているのは、<米国において、>事実上、議会の干渉なしに円滑に運用されているところの、政府諸機能の分野があることだ。
それは、外交と安全保障だ。
行政府の国際問題に係る独立した機能が<米国の>巧まずしての(unvarnished)徳であり続けてきた、などとはどう贔屓目に見ても言えそうもない。
皮肉なことに、<米国においては、>より多くの監視と抑制と均衡が求められる(welcome)、一つの分野において、それが最も欠けている、と言うべきだろう。
<米国が>議会制度に転換したとすれば、恐らくは、この問題を悪化させることだろう。
というのも、そうなれば、情報諸機関、及び、歴代の諸大統領府は、米国の人々を守るという名目の下で、事実上無法な諸プログラムを遂行するであろうからだ。」(C)
⇒この癖玉的なフクヤマ批判はナンセンスです。
米国の憲法や憲法慣行上、外交と安全保障に関する大統領権限が強いのが問題であれば、そもそも、大統領制から議会制へと憲法の大改正をすることを前提にしているのですから、その際にそれも是正すればよいだけのことですし、外交や安全保障においては秘密が多く、議会、ひいては世論による行政府の統制が困難であることは確かではあるものの、これは、あらゆる民主主義的政府に共通することだからです。(太田)
3 終わりに
要するに、表題の通りであり、「同じ声で吠え続けることしかできないフクヤマ」なのでした。
「同じ声」とは、彼の場合、二つのことを意味します。
一つは、自由民主主義至上主義であり、もう一つは、常に米国の最大多数の人々の潜在意識をいち早く顕在化させた形の主張を行うことです。
これは、どちらも、日系人たるフクヤマが米国への過剰適応者であるからだ、という私のかねてからの指摘の正しさが改めて裏付けられたのではないでしょうか。
(結果的に、この本からの抜粋であるところのJ・・ピンチョットの事跡について論じた部分・・は用いませんでしたが、なかなか面白いので、興味ある方は、直接あたってみてください。)
(完)
同じ声で吠え続けることしかできないフクヤマ(その8)
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