太田述正コラム#7334(2014.11.30)
<新イギリス史(その6)>(2015.3.17公開)
(3)現状と将来
「トゥームズによる、EU、移民、「目標文化(target culture)」<(注8)>、伝統的なイギリス的諸特権であるところのプライバシーや自由の諸浸食(erosions)、についての論評は、ありきたりの通念(conventional wisdom)<を抱いている人々>の心を乱すことだろう。」(A)
(注8)企業や組織が業績目標の厳格な達成を掲げることのマイナス効果を含意する軽蔑語。主として、英国の公共機関に関して用いられる。
http://en.wikipedia.org/wiki/Target_culture
「この何十年かで、「イギリス人は、道徳的多元主義と多民族性によってもたらされた諸変化を、イギリス性の諸新変種(varieties)へと組み入れることによって、それらに概ね適応してきた。・・・」」(C)
「それが、異なった諸時と異なった諸理由でもって、左と右双方の政治家達にとって好都合であったことから、通用し出したある神話は、ポスト帝国的衰亡(post-imperial decline)、という代物だ。
<しかし、>英国は、今日、3世紀前同様、頂点の半ダースの諸大国の中で、殆んど同じ位置を占めているのだ。
米国は、富と軍事力において、イギリス、そして、他の全ての国(state)、をはるかに引き離したかもしれないが、いかなる国(country)も、大英帝国がかつてそうであったのと「肩を並べうる影響力(sway)を行使することが可能であったことは(或いは、行使したいと思ったことは多分)」ない。
⇒以上についても、概ね同意です。(太田)
英国は、2008年には、人口の多い諸国の中では、米国だけに次ぐ一人当たり粗所得があった。」(B)
⇒為替の変動等もあり、2008年というのが曲者なのかもしれませんが、必ずしも腑に落ちる指摘ではありません。どなたか、正否を検証していただけると有難いですね。(太田)
「この歴史学者<たるトゥームズ>は、「政治的極端主義、疎外、冷笑主義、外国人嫌い、は、ことごとく、悲観主義・・イギリスが衰亡しつつあり、コントロールが効かずに漂流しているという観念・・によって助長される(feed off)。我々の歴史は、我々のは幸運で成功を収めた国であり続けたことを我々に示している。我々のは衰亡しつつある国ではない」、と述べた。
⇒ここでは典拠を示しませんが、サッチャー政権より前までは、イギリスないし英国が衰亡しつつあったことは間違いありませんし、現在も再び衰亡の兆候を見せつつある、と私は考えています。(太田)
過去は、「我々の諸運命が常に世界に対する開放性によってつくられたことを我々に思い起こさせなければならない」と。
たまたま、昨日、インデペンデント紙は、どのように、EUからの高技能の移民労働者達が、過去10年間に英国の諸財政に200億ポンドの押し上げ効果(boost)を提供したかを明らかにした。
Ukip<(注9)>の指導者のナイジェル・ファラージ(Nigel Farage)<(注10)>のような連中も歴史から学ぶことはできるのかと聞かれたトゥームズ教授は、「私は、政治家達は、諸本、とりわけ分厚い本、を読まないと推測しているが、私は、彼らが、恐惶をきたすことが少しでもないようになり、もうちょっとだけ将来について落ち着きを覚え、かつ、イギリスは、自身の他と明確に区別されるアイデンティティを持っているにもかかわらず、その歴史の大部分において、何らかのより大きな存在(enntity)の一部であり続けたことを自覚して欲しい」、と答えた。」(C)
(注9)UKIP=United Kingdom Independence Party。「欧州懐疑主義を掲げる<英国>の右翼政党。・・・党首は欧州議会議員のナイジェル・ファラージ。<英国>の欧州連合からの脱退を主な目的としている。UKIPは2014年欧州議会選挙において24議席(対<英国>割当73議席中)を獲得した。・・・イギリスは再び、直接かつ唯一イギリスの有権者が責任を負う議会によって、有権者の必要に応じて定められた法律によって支配されるべきだというのが党の基本理念である。」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A4%E3%82%AE%E3%83%AA%E3%82%B9%E7%8B%AC%E7%AB%8B%E5%85%9A
(注10)1964年~。高卒。シティーで働き、保守党員だったが。1992年に保守党を離れ、1993年にUkipを創設。
http://en.wikipedia.org/wiki/Nigel_Farage
⇒以上については、同感です。(太田)
(続く)
新イギリス史(その6)
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