太田述正コラム#0297(2004.3.23)
<台湾の総統選挙(続)>
2 連戦陣営有利に転じた理由
2月の上旬に、かつての台湾の財閥のオーナーで、現在背任の嫌疑(そのカネで中共に投資したとされている)を受けて米国に逃亡中の男(Aとしておきましょう)が、野党の国会議員達にFAXで陳水扁総統夫妻に「贈賄」したことを明らかにしました。
民進党は、前回の2000年の総統選挙の際、陳水扁候補(当時)がAからカネを受け取ったことは事実だが、政治献金として領収書も発行し、処理されていること、当時はまだAに背任の嫌疑がかけられていなかったこと、その後Aがお尋ね者になったこともあり一切Aに便宜供与はしていないこと、当時は台湾に政治献金を規制する法律がなかったこと(この3月に初めて成立した)、を挙げ、「収賄」を否定しました。またAは、2000年の総統選挙の時に、陳水扁候補と総統選を争った連候補と宋候補に、陳水扁総統に渡した額のそれぞれ10倍もの献金を行っていたことも判明しました。
民進党側の反論も何のその、3月に入ってからAは米国で台湾メディアの取材を積極的に受けるとともに、台湾の新聞に陳水扁糾弾の全面広告を掲載しました。しかもこの時点で新たに、1996年の台北市長選挙(現職の陳水扁市長が国民党の馬候補(現市長)に破れた)の際にも、現在民進党の国会議員であるBの立ち会いの下、陳水扁夫人に「贈賄」していたことを明らかにしたのです。
陳水扁夫人は、Aと会ったことなどなく、ポリグラフにかけられてもよいと怒りの会見をしましたが、Bは雲隠れした後、3月18日(総統選挙の二日前)になってようやく姿を現し、当時の記憶が定かでない、と語りました。
民進党は、Aは中共の手先だとし、Aが米国に中共のパスポートで入国している、と糾弾しました(注3)。
(注3)私自身、これは中共がしくんだ陰謀である可能性が高い、と考えています。というのは、今年に入ってすぐの時点で、ある日本人の日中交流人士から、「今度の総統選では、陳水扁の不祥事が明るみに出て、陳水扁が破れるだろう」と聞かされていたからです。
この話は民進党系メディアは全く報道しませんでしたが、国民党系メディア(こちらが台湾のメディアの大部分)がセンセーショナルな報道を続けた結果、陳水扁陣営には大きなイメージダウンになってしまいました。
これには民進党が、この間、もう一つ明らかになった事実・・1990年代初めにAが国民党にやはり巨額の献金をした際、それを(2000年の総統選挙の総統候補(連戦候補を押さえて、陳水扁候補に次ぐ二位となった)であり、今次総統選挙で連戦総統候補とタッグを組んだ)副総統候補の宋氏が、自分の懐に入れた事実・・をプレイアップしなかったことも響いています。
こういう次第で、陳水扁陣営は総統選で破れることになった・・はず・・だったのです。
(以上、http://www.atimes.com/atimes/China/FC19Ad06.html(3月17日アクセス):Laurence Eyton記者の記事2、による。)
そこに起こったのが、3月19日の陳水扁総統暗殺未遂事件です。
(続く)