太田述正コラム#7392(2014.12.29)
<人権闘論(その1)>(2015.4.15公開)
1 始めに
本日のディスカッションで言及した(NYタイムス上での)人権に係る闘論記事
http://www.nytimes.com/roomfordebate/2014/12/28/have-human-rights-treaties-failed?ref=opinion
のさわりをご紹介し、私のコメントを付したいと思います。
なお、闘論は、下掲のAとBの間のものです。
A:エリック・ポスナー(Eric Posner。1965年~)。シカゴ大ロースクール国際法教授。エール大卒、同大修士(哲学)、ハーヴァード大ロースクール卒。
http://en.wikipedia.org/wiki/Eric_Posner
B:ケネス・ロス(Kenneth Roth)。弁護士で1993年から人権監視(Human Rights Watch)の所長(executive director)。エール大ロースクール及びブラウン大卒。ユダヤ系。論文、新聞論説、学術論文多数。
彼の下での人権監視に対しては、その各国における人権問題の指摘に関し、偏見と事実誤認があるとの批判が、累次、各方面から投げかけられてきた。
http://en.wikipedia.org/wiki/Kenneth_Roth
2 人権闘論
A:人権法<(=人権に関する条約群(太田))>は欲張っていて(Ambitious)漠然としている(Ambiguous)・・・
もとより、私は、諸政府によるそれぞれの市民達の虐待(abuse)を気にかけない、というわけではない。
しかし、より焦点を絞った実際的な諸介入・・強制や辱めよりも、経済開発に大いに依存した国際援助・・の方がとるべきより良い方法なのだ<と私は信じている>。
B:<A>は、条約群を、恐らくは達成できないであろうところの過度に欲張った諸目標を掲げた「ユートピア的」諸声明であると見ているが、それは、政府の役人達が言っていることではない。
彼らは、「私は不可能なことに調印してしまったので、それは私を拘束しない」ではなく、「私はこれらの抗議者達を撃たなかった」とか「私は批判されたから彼女を投獄したわけではない」と申し開きをする。
通常(typically)、彼らは、関連する権利<(=人権(太田))>は正当であることを認めた上で、自分達がそれを遵守していると主張(contend)する。
<また、>彼らが遵守しない場合は、人権諸調査においては、彼らの主張を実際の諸事実と照らし合わせ<て論駁す>る。・・・
A:私は、中共政府に同情していることを告白する。・・・
中共政府によって1981年から追求された経済諸改革の結果、6億人を超える人々がひどい貧困からまあまあの(decent)中流所得生活(existence)へと引き上げられるに至った。
これは人類の歴史を通じての、最も偉大な人道的諸達成の一つだ。
この中共政府は、その市民達の政治的諸権利を否定もしたが、その理由を明らかにしている。
<それによれば、>同政府は、20世紀の大部分を通じて内戦と社会的激動(turmoil)の中で何億人もの支那人達を殺し、貧困化することによって、支那を諸外国による搾取と軍事的侵攻に対して脆弱にした類の、政治的不安定化(unrest)を恐れたのだ。・・・
<また、>米国人達は、諸権利は安価で、政府が正しいことをやるだけの話だ、と考えているように見える。
<しかし、>これは誤りだ。
例えば、公正な裁判を受ける権利は、法、道徳諸規範、及び、社会的諸状況(conditions)に関する高度の(sophisticated)理解を有する、誠実で、十分の給料を得ている、よく訓練された、弁護士達、裁判官達、警察官達、行政官達、及び、刑務官達が補職されているところの、複雑な制度的インフラが存在することを必要とする。
<ところが、>大部分の発展途上諸国では、諸官僚機構と諸裁判所は腐敗し、時間がかかり、非効果的なのだ。
これらを整える(clean)ためには、諸給与を上げ、人々を訓練し、反腐敗諸法を施行しなければならないが、これら全てに、大部分の諸国では賄えないほどの多大の費用がかかるのだ。
(続く)
人権闘論(その1)
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