太田述正コラム#7394(2014.12.30)
<人権闘論(その2)>(2015.4.16公開)
諸人権諸条約は、諸人権が財政的かつ政治的双方において高価であること、異なったタイプの諸国においては異なったタイプの諸権利を尊重し易いこと、しかるが故に、個々の政府が辿るべき行動の正しい諸経路は甚だしく異なっていること、を認識していない。・・・
CIAによる拷問に関する米上院委員会報告の公表は、強力なリベラルな諸伝統を持つ金持ちの国にとってさえも、諸権利を尊重することがどれほど困難であるかについて、我々を思い起こさせてくれた。
拷問はこの国の法に違背するが、にもかかわらず、とにかく、それは、大量の規模で起こったのだ。
<となれば、>外国の諸国がこう尋ねたとしても不思議はなかろう。
もし、米国人達が、拷問を憎み、その一方で、政府の役人達がそれを用いることを止めさせることができないのだとすれば、どうして我々ができるというのだ、と。
B:他の多くの諸国同様、政治的不安定や暴力は、諸権利<(諸人権(太田))>によって拘束されていない政府権力に由来している。・・・
中共政府も、その<、諸権利によって拘束されているという、>圧力から逃れることはできない(immune to)。
<その証拠に、>この何年かの間に、同政府は、死刑を減らし、労働による再教育制度を廃止し、一人っ子政策を緩和し、かつ、諸自供目的の拷問の使用を制限する諸努力を開始した。
中共はまだ長い道を歩まなければならないけれど、中共政府<までも>が、その諸権利<(諸人権(太田))>への諸コミットメントを放棄しようとしていないのだとすれば、どうして我々が放棄すべきなのか。
A:経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約(International Covenant on Economic, Social and Cultural Rights=ICESCR)<(注)>・・公正な報酬(pay)、教育、福祉、及び、医療を保証している・・は、162か国によって批准されている。
(注)「1966年12月16日、国際連合総会によって採択された、社会権を中心とする人権の国際的な保障に関する多数国間条約である。・・・1976年1月3日効力を発生した。日本語では社会権規約と略称される。同時に採択された市民的及び政治的権利に関する国際規約(自由権規約、B規約)に対してA規約と呼ばれることもあり、両規約(及びその選択議定書)は併せて国際人権規約と呼ばれる。自由権規約が締約国に対し即時的な実施を求めているのに対し、本規約は、締約国に対し、権利の実現を「漸進的に達成」することを求めている(第2条)。」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%B5%8C%E6%B8%88%E7%9A%84%E3%80%81%E7%A4%BE%E4%BC%9A%E7%9A%84%E5%8F%8A%E3%81%B3%E6%96%87%E5%8C%96%E7%9A%84%E6%A8%A9%E5%88%A9%E3%81%AB%E9%96%A2%E3%81%99%E3%82%8B%E5%9B%BD%E9%9A%9B%E8%A6%8F%E7%B4%84
これらの諸権利を保証するというのがいかなる意味を持つのかは誰も本当には知らない。
スペインの失業率は<実に>24%だが、その原因の一つは、諸法が、被雇用者達が高い報酬を受け、簡単には馘首されないことを確実なものにしていることが、雇用者達が彼らを雇うことを尻込み(deter)させてもいる点にある。
一体、スペインは、人々の働く権利を守っているのか侵害しているのか、そのどちらなのだろうか。・・・
共産主義の崩壊のおかげで、40年前に比べてより多くの諸国が民主主義国になっている。
女性達は多大なる前進(gain)を果たし、全球的な貧困は顕著に減少した。
しかし、<人権>諸条約が、これらの諸進展の一つの原因たる役割を演じたという証拠はない。・・・
湾岸諸国は、・・・客員労働者諸制度を、自分達が安価な労働力を欲しているという理由だけで運営している。
諸人権監視が提案する諸改革は、労働力のコストを増大させ、この制度によって裨益している労働者達の数を減少させる。
その結果、本当に人々はより順境になるのだろうか。
B:FBIは、2013年に、米国で、殺人14,000件、そして、殆んど80,000件の強姦が起こったと報告したが、にもかかわらず、殺人と強姦の刑事上の禁止を廃棄せよと示唆する人は一人もいない。
ところが、諸人権の侵害が多くの諸国で続いていることを理由に、<A>は、諸人権諸条約を廃棄す<べきであ>る、というのだ。
私は、いまだに彼の論理が見えてこない。
彼は、<人権>諸条約は漠然とし過ぎていて諸政府のふるまいを変えさせようとしていて要求が大き過ぎる(demanding)、と主張するが、私は何度も(regularly)その真逆を見出している。
対人諸地雷とクラスター諸爆弾の使用は、これらの無差別<殺傷>諸兵器の禁止が採択された後、急減した。
チリとアルゼンティンは、諸人権諸条約を引用して軍人のお手盛り諸恩赦を却下し、次いで、数百人の人々を起訴した。
ブラジルは、家庭内暴力に対する処罰を重くするとの条約上の諸要請に従うとともに、拷問防止のための定期的な監獄諸訪問を許可した。
ケニアは、女性達に諸相続への平等なアクセスを供与するために、女性達の諸権利条約を引用した。
欧州の人権諸権利条約は、英国に諸学校内での体罰の終焉、アイルランドに同性愛諸行為の非犯罪化、フランスに拘置された人々への諸弁護士の供与、をもたらした。
⇒こういったことへの反発が、英国のEUからの脱退の気運を高める原因の一つになっている(典拠省略)ことを、ロスは、一体、どのように考えているのでしょうか。(太田)
新しい労働条約は、アジアとアフリカの様々な場所において、最低賃金の上昇、社会保障と諸保護、を促進した。
南アの憲法裁判所は、健康への権利は、エイズの人々に対して抗レトロウイルス性諸薬剤(anti-retroviral drugs)へのアクセスを供与されなければならないことを要請している、と判示することによって、何十万人もの人々の命を救った。
こんな例は<これ以外にも>いくらでも挙げることができる。・・・
そして、米国だって、条約上の諸義務を尊重すべく、その行状を変えることがある。
例えば、米国防省は、子供の諸兵士を禁じる条約のおかげで、17歳を配置につけることを止めた。
⇒並行してシリーズで取り上げているところの、河野仁『<玉砕>の軍隊、<生還>の軍隊』にも、米軍は、先の大戦前も大戦中も、兵士所定最低年齢に満たない者でも平気で兵士にしていたという話が何度も出てきますが、そんなことが横行するのも、米国が、小学生に銃を買い与えたり、射撃訓練を受けさせたり、狩猟に同道して猟をやらせたりする、野蛮な社会であること
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%8A%83%E7%A4%BE%E4%BC%9A
が、その背景にあります。(太田)
<また、>米最高裁は、未成年の(youth)犯罪者達(offenders)に死刑を科すことを中止する際に、関連条約を引用した。・・・
3 終わりに
闘論のトリをポスナーではなく、ロスに務めさせたこと、そして、恐らくやらせでも何でもなく、最初の投稿がポスナーに批判的なもの(下掲)↓
「最初の投稿者が、「じゃあポスナー教授、我々は憲法も捨て去れというんですか。諸権利が多過ぎて、かくも多数の諸侵害があって、かくも実行(enfore)するのは困難だって? どうして努力しないのさ。」
であったことは、NYタイムスが、そして、NYタイムスの核心的読者層が、「依然として」、人権観念の熱心な擁護者であることを如実に示しています。
予想できると思いますが、私は無条件でポスナーに軍配を上げます。
ただし、ポスナーの主張は、人間主義的に補強され、理論化されるべきだ、というのが私の立場です。
つまり、条約や憲法で諸人権を定義し、その画一的な確保を求めるのではなく、できるだけ多くの人々を人間主義化することによって、その状況、対象たる人の具体的事情に応じた対処がなされるようにすることが最も望ましいのです。
以前にも挙げた二つの事例で言えば、一刻を争うしかも深刻な事態においては、拷問はやらざるをえず、しかも、有効な場合があるはずですし、テロを回避するためには、平時であろうと、テロの強い疑いがある場合は、警察ないし軍による被疑者の殺害だって許さざるをえません。
こんなケースにおいて、拷問の禁止だの、適正な司法手続きだのを言っていても始まらないのです。
(完)
人権闘論(その2)
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