太田述正コラム#7490(2015.2.16)
<挫折した恋の効用(その1)>(2015.6.3公開)
1 始めに
食と性への関心は人間、いや、動物を廃業していない証明、的な話を比較的最近も(コラム#7257で)していながら、このところ、長きにわたって後者に関するコラムないしシリーズを書いていないので、書くことにしました。
バレンタインデーということで、米英の主要メディアに、興味深い記事が何本も載ったことと、私の誕生日が近いこと、が私をその気にさせたのです。
このシリーズは、過去コラムと内容的にかなり重複する部分がありますが、少なくとも途中までは、気楽な話題が展開することもあり、ご容赦を願います。
さっそく超気楽にスタートすることにしましょう。
何度か言及した、村上春樹の「チャット」の中の、私が気に入ったやりとりがあります。
「問い:・・・Murakami-san, I would like to ask: how does one fall in love?
(夢、男性、24歳、大学生)
村上:Basically it’s an accidental collision. It is unpredictable and inescapable. So, always fasten your seatbelt.」
http://www.washingtonpost.com/blogs/style-blog/wp/2015/02/05/haruki-murakamis-advice-column-is-surrealist-and-sweet-and-so-well-murakami/
(2月8日アクセス)
易しい英文なので翻訳するまでもないでしょう。
恋は、従ってまた、挫折した恋は、男女を問わず、どんな年齢の人にも、交通事故のように、突然訪れうるってことです。
しかも、その帰趨は、場合によっては、その人の一生を規定してしまいます。
フロイトのいささか眉唾物のご高説を拝聴するまでもなく、性は、最も「高等」な動物であるところの、人間にとって、当然根源的なものであるわけですが、それと同時に、食よりも数等倍、人間の「高等」性そのものと関わっているからです。
2 恋を成就させる方法
「愛(love)の反対は何か、自問して見よ。
反射的な答えは「憎しみ」だろうが、それは間違いだ。
愛の反対は恐れなのだ。
使徒の聖ヨハネが喝破したように、「愛の中には恐れはない」のであり、「恐れを抱く者は愛において完全にはならない」のだ。
ヴァージニア州アーリントンの心理科学研究所の心理学者であるポール・C・ヴィッツ(Paul C. Vitz)が私に説明してくれたように、「恐れは根源的な否定的感情なのだ」。
もし我々がもっと愛が欲しければ、恐れを克服しなければならない。
大きな潜在的な恋愛(love)での諸報酬<の獲得>のためには個人的諸リスクを取らなければならないのだ。・・・
愛が求める二つ目のことは、マインドフルネス・・純粋な集中(focus)及び現在の活動に対する全面的没頭(engagement)・・だ。
<某>仏教僧は、「皿々を洗っている時は、人は皿々を洗うことだけしかしてはならない」と教えている。
しかし、マインドフルネスは、<皿洗いのような>日常的なものを超える<活動にも当てはまる>。
すなわち、それは、最も大胆な(audacious)諸事業(ventures)における勝利への鍵でもあるのだ。
出現しつつある研究が示すところによれば、マインドフルネスを実践すると、ビジネスにおいて人々をより効果的にするところの、有益な(beneficial)諸形に脳の構造が改変される。
成功を収める事業家達は、自分達の目標(goal)に向かって仕事をしている時でさえ、現在の瞬間に生きる(reside)超人的な能力を持っている。
愛する者達だって、同じマインドフルな集中を必要とするのだ。」
http://www.nytimes.com/2015/02/14/opinion/arthur-c-brooks-taking-risks-in-love.html?ref=opinion
loveという言葉に(キリスト教的な)「愛」と「恋愛」/「恋」という両義性があることによる勘違いがうかがえることはさておき、このコラムの筆者は、(全文をお読みになれば分かるように、自分の唯一の成功体験に基づいて、)恋(love)を成就させようとするなら、恐れを忘れて、ダメ元で、当面、他の全てを擲ち、猪突猛進せよ、と言っているわけです。
自分は恋については良く分かっていると思い込んでいる人は少なくありませんが、例えば、こんな助言を真に受けて<その通り>実践したら、大部分の人はストーカーとして警察のお世話になってしまうこと請け合いです。
そうではなく、何事によらず、科学的に考えなければなりますまい。
そこで、恋について、科学的に説明したコラムから、そのさわりをご紹介しましょう。
「誰かをあなたと恋に陥らせることが現実にできる・・・
<ある研究者>は、見知らぬ男女を実験室内で恋に陥らせた。
まず、数分間互いの目を見つめさせ、代わる代わるに36の個人的諸質問に答えさせることによって・・。
(<諸質問とは、>「女性/男性に関して最も魅力的であると感じるのは何ですか」や、「もしあなたが今晩死ぬとすれば、誰かに伝えなかったことを最も後悔することは何ですか」、といったものだ。)
この実験をそっくりそのままやってみた友人達二人・・現在では恋人達・・の物語が最近NYタイムスに掲載されたばかりだ。
一体どうしてそうなるのか?
このテストは、親密さを生み出すことで、それが恋している時に脳にあふれる諸化学物質の一つである、ドーパミン(dopamine)の分泌を増やすことができるからだ。
あなたは、アドレナリン(adrenaline)でもって脳をだますこともできる。
アドレナリンは、守られていて安全であると感じさせる(feel-secure-and-safe)化学物質であるセロトニン(serotonin)低水準と協同すること・・それこそまさに適正なカクテルだ・・によって、脳をだまして恋の感情を生み出す
<また、>ある有名な研究で、一人の女性に、対象となる見知らぬ人々について、危険な橋の上と、安全な固い地面の上とで調査目的の諸質問を行わせた。
その後で、彼女は、それぞれに自分の電話番号を教えた。
どちらが後で彼女に電話したと思う?
橋の上にいた方の男性だ。
恐らく、彼らは、危険によって分泌されたアドレナリンを、新しい恋によって分泌されたもの、と勘違いしたのだ。・・・
3 恋の終わりと挫折
<いずれにせよ、<恋>がもつのはわずかに3年間だ。・・・
それは、もちろん、あなた方の関係が破綻を運命づけられている、ということを意味しない。
関係が変わるだけのことだ。
何が人々が結び付け続けるのか?
愛着(attachment)だ。
そして、利他主義だ。
それは、あなたのパートナーを幸せであり続けさせたいという欲求だ。・・・
幸せな人々は不幸せな連中よりも結婚している場合が多い。
しかし、その幸福は結婚がもたらしたものではないのであって、彼らは生来的に幸福な人々なのだ。
現実には、諸結婚は人々を幸福にするわけではないのだ。・・・
<ちなみに、>感情的な痛みは、脳の中の同じ神経細胞群を興奮(fire)させることによって、肉体的な痛みと全く同じように感じうるのだ。
あなたの心は現実に痛みうるのだ。
さすがに、恋があなたを殺すようなことはなかろうだって?
良く考えてごらん。ありうるのだよ。・・・
ストレス性心筋症に陥った失恋した<元>恋人達は、古典的な心臓発作に苦しめられる人々に比べて3倍ものアドレナリンが血中にあり、彼らは、正常な諸個人に比べて7から34倍のアドレナリンが血中にあるのだ<から>。・・・
(続く)
挫折した恋の効用(その1)
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