太田述正コラム#0311(2004.4.6)
<英仏協商100年(その3)>

3 英仏関係の今

 かつてフランスの文豪ビクトル・ユーゴー(Victor Hugo)は、「英仏間には敵意(antipathy)があるわけではなく、互いに相手を凌駕しようとする願望(desire to surpass)があるだけだ。「良い(good)」の敵(enemy)は「より良い(better)」であるが故にフランスは英国の仇敵(adversary)なのだ」と指摘しました(http://www.guardian.co.uk/france/story/0,11882,1185788,00.html)。
 しかし、ユーゴーのこの指摘は誤りです。
 互いに相手を凌駕しようと競い合えるのは、相手と我に共通性がある場合に限られるところ、英仏は余りにも違いすぎるからです。
 そもそも、英仏は全く違う文明に属している、と私は言い続けてきました。(多すぎるので、コラムの番号は挙げない。)
 英仏協商100年だというので、めずらしく英仏の違いが英国のメディアで論じられています。
 例えば、18世紀にフランスの哲学者のモンテスキューが「<大ブリテン>諸島の住民達は大陸の住人達に比べてより自由に対する嗜好が強い」と書いたとか、1992年にノーマン・テビット(Norman Tebbit。サッチャー時代に労働大臣を務めた保守党の政治家(http://www.fact-index.com/n/no/norman_tebbit.html。4月6日アクセス))が、「これは、我々が島国に住んでいるおかげで、狂犬病に罹った犬や独裁者の類から守られてきたからだ」と言ったことがあるとか、はたまたイギリス人が自己批判を好んで行うのは自分に対する最高の自信のあらわれだとか、或いはジョナサン・フェンビー(Jonathan Fenby。現在の英国のフランス研究家)が「英国人は自分たちを個人主義者だと考えているが、フランス人は逆に牢固とした国家観を持っている。フランス人にとって国家とは、あらゆるものを一つに束ねている壮大な(over-arching)存在だ。このような抽象的観念は英国人にはまずない」と言ったとか・・。
(以上、http://www.guardian.co.uk/france/story/0,11882,1185788,00.htmlによる。)
やはり、英仏はまるで違うな、と思いませんか。

30万人以上のフランス人が英国で働き、50万人以上の英国人がフランスに別宅を持っていることからも伺えるように、英仏ほど密接な関係にあるEU加盟二カ国はありません(http://news.ft.com/servlet/ContentServer?pagename=FT.com/StoryFT/FullStory&c=StoryFT&cid=1079420142678&p=1012571727102)。
にもかかわらず、英仏がまるで違うからこそ、現在でも英国人とフランス人は犬猿の仲であり続けているのです。
 ある世論調査によれば、フランス人の85%と英国人の55%がスペイン人は信用できるとし、フランス人の84%と英国人の69%がドイツ人は信用できるとしているというのに、英国人の15%しかフランス人は信用していませんし、フランス人の4%しか英国人を信用していません。また、もう一つの世論調査によれば、フランス人が一番好きなのはドイツ人であり、英国人は5番目に過ぎず、英国人が一番好きなのはアイルランド人(26%)、次いで米国人(24%)であるところ、フランス人の序列は極めて低い(9%)ものがあります。
英国人はフランスの土地柄や文化、食品等は大好きでも、フランス人は大嫌いなのですし、フランス人に至っては、英国の土地柄や文化、食品等が論評に値しないだけでなく、英国人も全く信用できないと思っているのです。
 (以上、 http://www.guardian.co.uk/france/story/0,11882,1185876,00.html及びhttp://www.nytimes.com/2004/04/06/international/europe/06QUEE.html(4月6日アクセス)による。両者で数字に食い違いがある場合は、ガーディアンの方の数字を採用した。)

4 結論に代えて

これも耳にたこができるほど私が繰り返し指摘してきたことですが、日本と英国の方が、フランスと英国よりよほど文明的に親近関係にあるのです。
だからこそ、日英同盟は1902年に、1904年の英仏協商に二年先んじて締結されたのですし、偶然によって締結された英仏「協商」とは違って、日英同盟は理念を共有した二国間で熟慮の上締結されたれっきとした「同盟」だったのです。

(完)
http://www.csmonitor.com/2004/0408/p06s02-woeu.html。4月8日アクセス