太田述正コラム#7528(2015.3.7)
<映画評論45:ベイマックス(続)(その2)>(2015.6.22公開)
彼らは、自分達のテクノロジーの十字軍のルーツを、その時代がアップルの共同創設者であるスティーヴ・ジョブズを形成したところの、1960年代のカウンターカルチャーの中に見出す。
しかし、彼らの世界観は、ノーム・チョムスキー(Noam Chomsky)<(注8)(コラム#2541、3596、3631、4242、5179)>、アイン・ランド(Ayn Rand)<(コラム#3632、3634、3636、3754、4860、4913、5849)>、及び、フリードリッヒ・ハイエク(Friedrich Hayek)<(コラム#1865、3541、4079、4858、4866、5285、5394、5659、6234、6429、7165、7294)>といった急進的思想家達の伝統の中のリバタリアンのそれなのだ。
(注8)1928年~。ユダヤ系の「<米>国の哲学者、言語哲学者、言語学者、社会哲学者、論理学者。・・・50年以上在籍するマサチューセッツ工科大学の言語学および言語哲学の研究所教授 (Institute Professor) 兼名誉教授・・・。・・・チョムスキーの提唱する生成文法とは全ての人間の言語に普遍的な特性があるという仮説をもとにした言語学の一派である。・・・<また、>彼は自らの視点を「啓蒙主義や古典的自由主義に起源を持つ、中核的かつ伝統的なアナキズム」と述べ・・・<ており、米>の外交政策、国家資本主義、報道機関等の批判で有名になった。・・・<ちなみに、彼は、>昭和天皇が「最大の戦争犯罪人」であったにも拘わらず、戦後にわたって昭和天皇の戦争責任をタブー化し、問題にしなかった日本の知識人の責任放棄を厳しく批判している。」ペンシルヴァニア大学卒、同大学博士。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8E%E3%83%BC%E3%83%A0%E3%83%BB%E3%83%81%E3%83%A7%E3%83%A0%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%BC
その結果が、秘儀的なヒッピー(Hippie)<(注9)>的感受性と筋金入りの(hardcore)資本主義とを結合した、独特の政治哲学なのだ。・・・
(注9)「伝統・制度などの既成の価値観に縛られた人間生活を否定することを信条とし、また、文明以前の野生生活への回帰を提唱する人々の総称。1960年代後半に、おもに<米国>(発祥地はサンフランシスコ・・・との説がある。ロス郊外・・・とする説もある)の若者の間で生まれたムーブメントで、のちに世界中に広まった。彼らの多くは、自然と愛と平和とセックスと自由を愛していると主張した。・・・「正義無きベトナム戦争」への反対運動を発端とし、愛と平和を訴え徴兵や派兵に反発した若者達がヒッピーの中心である。」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%92%E3%83%83%E3%83%94%E3%83%BC
もう一つ重要な問題もある。
シリコンバレーが、ヤフー社長のマリッサ・メイヤー(Marissa Mayer)<(コラム#5603、6624)>を唯一の例外とする、男性の(masculine)世界であること<(注10)>だ。
(注10)「シリコンバレーでは指導的諸地位にいる女性達は極めて少ない。ハイテク(tch)世界が進歩的な場と、いや、公正な場とすら、主張できる可能性(hope)が果たしてあるのか、が問われている。・・・
アジア人がちらほらとはいるけれど、圧倒的に若い白人の男性ばかりであることについて、批評家達は、多様性に関するシリコンバレーの大いなる(furthest)限界である、と指摘している。」
http://www.nytimes.com/2015/03/06/technology/in-ellen-paos-suit-vs-kleiner-perkins-world-of-venture-capital-is-under-microscope.html?hp&action=click&pgtype=Homepage&module=second-column-region®ion=top-news&WT.nav=top-news
(3月6日アクセス)
実際、操業を開始したばかりの諸企業の若干は、女性達を全く雇用していないし、女性の事業家達が資金提供を受けようとするのは更に困難だ。
全球的ヴィジョン<の持ち主であるはずの人々のヴィジョン>が、かくも不公平なもの(one-sided)たりうるのだろうか。・・・
⇒シリコンバレーは、リバタリアニズムを信奉する女性差別主義者と人種主義者の巣窟である、というのですから、ウォール街とともに米国「文明」を象徴する存在である、ということになりそうですが、そうだとすると、既に、面目を失い失速しつつあるウォール街に続いて、シリコンバレーも、早晩、面目を失い失速し始めることは避けられないのかもしれません。
少なくとも、シリコンバレーはウォール街ほどには拝金主義的ではないのですから、映画『ベイマックス』のサンフランソウキョウではないけれど、シリコンバレーが日本の人間主義に触発されて、女性差別や人種主義を克服し、更に、日本人のAI観(ロボット観)を採用することによって、面目を保つとともに成長を続けて欲しいものです。
まあ、無理な相談でしょうが・・。(太田)
<話を元に戻すが、シリコンバレー>の発展は、ムーアの法則(Moore’s law)<(注11)>の産物なのだ。・・・
(注11)「集積回路上のトランジスタ数は「18か月(=1.5年)ごとに倍になる」というもの・・・<。なお、>2005年4月13日、ゴードン・ムーア自身が、「ムーアの法則は長くは続かないだろう。なぜなら、トランジスタが原子レベルにまで小さくなり限界に達するからである」とインタビューで述べている。・・・今日ではより広く受け入れられ、先進的な工業製品一般における性能向上の1つの目標値として用いられることがある。」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A0%E3%83%BC%E3%82%A2%E3%81%AE%E6%B3%95%E5%89%87
過去10万年にわたって、諸発展は、線形で局地的であり続けてきたように見えた。
<ところが、>今や、突然、文明は指数的かつ全球的に発展しつつある。・・・
このバレーのハイテク人達は、今後25年で、我々は、ハードを持ち歩く必要はもはや全くなくなるだろうと言う。
ハード群は、分子コンピューター群、及び、我々を取り巻く世界の中に埋め込まれたところのバイオメトリックス・センサー群(biometric sensors)、によって置き換えられることだろう、と。・・・
⇒これは、人間がAI(ロボット)に主人として君臨するとの、欧米的AI観(ロボット観)の究極的到達点でしょうが、シリコンバレーがAI(ロボット)に人格を認める日本的AI観(ロボット観)を採用すれば、全く異なる未來が見えてくるはずです。(太田)
(続く)
映画評論45:ベイマックス(続)(その2)
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