太田述正コラム#7530(2015.3.8)
<映画評論45:ベイマックス(続)(その3)>(2015.6.23公開)
スタンフォード大学は、・・・セバスチアン・スラン(Sebastian Thrun)<(注12)>というドイツ人たる電子計算機科学者・・・を人工知能実験所(Artificial Intelligence Laboratory)の所長にした。
(注12)1967年~。「ドイツ出身の教育者、プログラマー、ロボット開発者、そしてコンピュータ科学者である。グーグルの副<会長>・フェローであり、スタンフォード大学のコンピュータ科学・・・教授<として、>・・・Stanford Artificial Intelligence Laboratory (SAIL)の所長を務めていたが、2012年<、他の2人>とともにユーダシティ<(Udacity)を>創立し、科学、技術、工学、数学などの分野の授業を無償で提供することに精力を注いでいる。また、グーグル・グラスを開発したGoogle Xの<所>長も務める。」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%BB%E3%83%90%E3%82%B9%E3%83%81%E3%82%A2%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%82%B9%E3%83%A9%E3%83%B3
独ヒルデスハイム大学を経てボン大学卒、同大博士。米カーネギー・メロン大研究員・助教、准教授を経てスタンフォード大准教授、教授。2011年にスタンフォード大教授辞任。
http://en.wikipedia.org/wiki/Sebastian_Thrun
そして、彼は、シリコンバレーにおけるある種の権威になった。
自分達の車庫の中でせっせと働き、我々が現在持っているものよりも頭の良い機械群を作ることを夢見ているところの、エンジニア達やプログラマー達の一つの範例になったのだ。・・・
グーグルグラス、・・・無人自動車(driverless car)<(注13)>・・<、といったもの>全ての発明は、グーグルX(Google X)という、たった一つの研究所(research laboratory)から来たものであり、彼はその創設者なのだ・・・。
(注13)「自動運転車・・・を作成したスタンフォード大学のスランのチーム<が>、2005DARPAグランド・チャレンジで優勝して、米国防総省からの賞金200万ドルを獲得した沿革がある。・・・
ネバダ州は自動運転車の運転を可能にする法律を2011年・・・に施行<し、>・・・Googleが自動運転車に改造したトヨタのプリウスに、2012年・・・、自動運転車専用のライセンスを米国内で初めて発行した。 <同年に>にフロリダ州<が、>・・・公道での自動運転車の実験走行を許可した第二の州になった。そしてカリフォルニア州では・・・知事が・・・法案に署名をし、事実上<、次の>第三の州になった。・・・
走行中は、GPS・・・を使い、現在地と目的地をリアルタイムで比較しながら、コンピュータが自動でハンドルを回す。またレーザーカメラやレーザースキャナを搭載しており、これは様々な道路情報(周辺の車両、歩行者、信号、障害物)を識別する。これらの装置で収集した情報は、コンピュータが総合的に解析し、ハンドル、アクセル、ブレーキなどの運転に必要となる動作の最終決定を行うために使われる。・・・
<現状では、>センサー<が>雨粒や雪粒を障害物と認識し、走行できなくなる問題がある。また道路上に落ちている石とシワだらけの紙の区別が出来ないほか、歩行者を電柱と誤認識する事もある。日差しが強い状況下ではセンサーの解像度が下がり、信号が読み取れない場合もある。
<更に、>・・・詳細かつ膨大な地図データをインプットする必要がある<ので、まだ、米国内で>・・・走行可能なのは一部地域のみに留まっている。」
http://ja.wikipedia.org/wiki/Google_%E3%83%89%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%90%E3%83%BC%E3%83%AC%E3%82%B9%E3%82%AB%E3%83%BC
日に焼けて背が高いスランは、ボン大学に学ぶために赴く前、<ドイツの>ゾーリンゲン(Solingen)で生まれた。・・・
47歳のスランは、世界中で最も優れたロボットを作った<人物だ>。
<それは、>グーグルの無人自動車だ。・・・
しかし、現在は、スランは、グーグルやスタンフォード大学ではなく、自分自身の会社<であるユーダシティ>で大部分の時間を費やしている。・・・
<シリコンバレーの以上のような人々>の世界観においては、政治や政策決定者達は、進歩を遅らせるがゆえに、大いなる敵なのだ。
「諸規則は、既存の諸構造を固めるために作られる」、とスランは言う。
「我々は、それらを迂回するよう試みている」、と。・・・
<(実際、>あらゆるものが全球的に起こっているというのに、諸法は局所的な<代物な>のだ。<)>・・・
その全ては、他の何物よりも、シリコンバレーを形作っているところの、過小評価されている底流・・1960年代のカウンターカルチャー、及び、サンフランシスコのヒッピー運動の深く繋留されたルーツ・・と調和している。・・・
エアービーアンドビーとウーバーは多くの部分で似ている。
両社は、人々が自分達自身の財産でもってカネを稼ぐことを可能にする「共有経済(sharing economy)」<(注14)>の主唱者達だ。
(注14)「なぜシェアリングエコノミーが台頭してきたのだろうか。20世紀の市場の巨大化による私有とハイパー消費が極限まで進行し、これでもかの浪費と環境破壊がギリギリのところまできたためだ。効率と私的利益の極大化をめざす中央集権的な20世紀型経済システムに基づく経済成長は、人々を欲望と貨幣のしもべにし、貧富の差や地域格差を極大化し、人々を孤立化させ、巨大な気候変動リスクを生み出した。このサインがリーマン・ショックだった。21世紀になって世界の賢明な人々は、こういうやり方はもう限界で、新しいやり方を創らないといけない、と考えるようになった。またその場合でも、お説教で倫理を強いる啓蒙的スタイルもまずく、人々が楽しく心豊かに他の人々とのつながりを回復しながら進めて行ける方法が必要だと考えたのだった。
シェアリングエコノミーは無理のない原理の上に成り立っている。考えてみると江戸時代以前の日本では、長い間、モノと労働とそれにお金の相互扶助が行われてきた。仏教で言<う>・・・融通無碍・・・<、>つまり心の差し障りを解いて人々が心通わすという相互の他者救済の教えがこの相互扶助の根底にあ<ったのだ。つまり、>・・・シェアリング・マインドがあったのだ。結(ゆい)・・・は労働のシェアリングで、例えば飛騨白川郷のいくつもの茅葺き屋根の葺き替えや補修のために、労働力をお互いに提供する。北海道ではサケが豊漁の時、漁師はとなりの家の軒先にサケをつるす。これはモノのシェアリングだ。そして東日本の無尽、西日本の頼母子講、沖縄の模合というお金のシェアリングがあった。これがインターネットの技術とネットワークが加わるとソーシャルファイナンスとしてのクラウドファンディングになる。
我が国には古くから「山川薮沢の利は公私これを共にす」(養老律令757年)という考えがあった。公でも私でもなく〈共〉の領域、つまりシェアの領域が里山や奥山そして海などの「入会地」だった。入会地は英語で言えばコモンズで、コモンズは、占有(オキュパイ)せず、共有(シェア)して使う場所なのだ。資源の共有こそ、シェアリングのベースにある考えに他ならない。・・・
イギリスで<も、>コモンズとしての放牧地が囲い込まれて私有地化するのは18世紀になってから<にすぎない。>・・・
<このように、>コモンズやシェアはDNAとして人間の心に深く刻まれている。だからこそ、それを呼び起こすシェアリングエコノミーは無理がなく普遍性がある。そしてインターネットとIOT(Internet of Things)つまりモノのインターネットにより、それが地球規模に広がる可能性が出てきたのだ。」
http://www.huffingtonpost.jp/koichi-itoh/sharing-economy_b_6601068.html
「人類全体の歴史から考えると、「生活をすること」と「お金を稼ぐこと」がほぼイコールに結びついたのは産業革命以降の直近300年ほどの話<にすぎないのですから、>・・・考え方を変えて、テクノロジーの進歩・・・<、とりわけ、>ロボティクスの進歩・・・によって労働が減少し所得格差が拡大するのであれば、逆にそのテクノロジーを格差縮小のための社会的セーフティーネットの構築に役立て、労働所得(お金)への依存度を下げていく手があります。<新しい点は、>これらを変化に敏感な市場経済で実施することで、格差拡大作用と格差縮小作用のタイムラグを最小限に抑え<ようとすることです>。・・・
インターネットは「距離的な制約」と「時間的な制約」をふっ飛ばして、情報を瞬時に伝達するテクノロジーで・・・あるので、<その>本来の力<を>ここに来て・・・発揮<してもらおうというわけです>。
<それが、>共有経済(シェアリングエコノミー)<です。共有経済>は個人が余ったリソースを直接的に共有しあう事で、コストを大幅に削減できるメリットがあります。ネットが生活のあらゆる所に浸透してきたおかげで、共有できる範囲が地球全体に広がり、巨大な経済として機能しはじめてい<るので>す。」
http://www.huffingtonpost.jp/katsuaki-sato/story_b_5477074.html
ウーバー同様、エアービーアンドビーも、そのビジネスモデルが地方自治体の諸規則と抵触するために、世界中の無数の諸都市と角を突き合わせている己れを見出している。
ウーバーが、かかる諸紛争に対処するにあたって対決の姿勢を採用してきたのに対し、エアービーアンドビーは、少なくとも現在は、一般に、コンセンサスを追求してきた。」
3 終わりに
AI(ロボット)とシェア経済とは密接な関係があるとはいえ、シェア経済だけでも、論ずべき点は多く、機会を見て、改めて、人間主義的観点も踏まえつつ、論することにしたい、と思います。
一点だけ補足しておきますが、カーシェアリング
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AB%E3%83%BC%E3%82%B7%E3%82%A7%E3%82%A2%E3%83%AA%E3%83%B3%E3%82%B0
について、それが、シェア経済のはしりとも言うべきもので、しかも、既に、世界に普及しているにもかかわらず、それが、レンタカーの変種とも言え、AI(ロボット)との関わりも希薄であり、第一、スイス(欧州)発祥(ウィキペディア上掲)で、米国でも、シリコンバレーのスタンフォード大ならぬ米東部のハーヴァード大付近発祥の企業であるジップカー(Zipcar)が米国の皮切企業でかつ最大手企業である
http://en.wikipedia.org/wiki/Zipcar
ことから、シュピーゲル誌がこの記事の中で取り上げなかったのは不思議ではありません。
とまれ、シュピーゲル誌は、この記事の中で、れっきとしたドイツ人であるスランのほか、(このシリーズでは取り上げませんでしたが、)もう一人、重要人物として、ドイツ系米国人・・1歳の時に両親と共に米国に移住・・のピーター・シール(Peter Thiel)(注15)が登場するところ、だからこそ、この記事のシュピーゲル誌の取材には力が入ったのだと思われるけれど、外国について、こういう中身の充実した長編企画記事を手掛けるシュピーゲル誌に対して、ドイツと同じ第二次世界大戦の敗戦国たる日本の一国民として、自国の主要メディアの体たらくを見るにつけ、感嘆と羨望の念を禁じえません。
(注15)1967年~。ペイパル(PayPal)の3人の共同創設者の一人。自他とも許すリバタリアンたる事業家、ベンチャーキャピタリスト、ヘッジファンドマネジャー。チェスの名手。スタンフォード大卒(哲学)、同大ロースクール卒。
http://en.wikipedia.org/wiki/Peter_Thiel
(完)
映画評論45:ベイマックス(続)(その3)
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