太田述正コラム#7566(2015.3.26)
<『チャイナ・セブン』を読む(その1)>(2015.7.11公開)
1 始めに
ようやく「「個人」の起源」と「「個人」の起源(続)」の両シリーズが完結した・・いささか飽きてしまい、最後のあたりは、コメントを端折りに端折ったので、分かりにくかった箇所も多々あるのではないかと思料するところ、ご質問あらばお寄せください・・とはいえ、「『超マクロ展望–世界経済の真実』を読む」シリーズも、「85歳のウィルソン」シリーズも完結していませんが、前に「『チャイナ・ナイン』を読む」シリーズで取り上げた本の続編である、遠藤誉による『チャイナ・セブン–<紅い皇帝>習近平』を取り上げる、表記のシリーズを立ち上げることにしました。
(「ナイン」が「セブン」になったのは、中共の中央政治局常務委員の数が、胡錦濤体制から習近平体制への移行の際に、9名から7名に減ったからです。(14))
最初に率直に申し上げておきますが、彼女の前著との比較において、今回のは余り出来の良い著書であるとは言えません。
習近平らについて、著者が得ている内部情報が相対的に乏しいような印象を受けるからです。
内部情報が不十分なのであれば、公開情報の収集・整理に努めることとし、もう少し習近平時代が続いてから公にすべきではなかったのか、と思います。
2 『チャイナ・セブン』を読む
「チャイナ・ナインがチャイナ・セブンになっても、中共中央政治局常務委員会では多数決議決を鉄則とする集団指導体制を実行していることに変わりはない。」(17)
⇒このことの典拠が示されていないのが残念ですが、遠藤が、中共において、要人達等を対象に構築してきた豊富な人脈を踏まえれば、我々は、そのまま受け止めてよい、と考えます。
つまり、最近の中共を、習近平一強体制、より甚だしくは習近平独裁体制、と認識するのは誤りである、と考えるべきだ、ということです。(太田)
「党内序列ナンバー9ながら、れっきとしたチャイナ・ナインの一人だった・・・周永康<が逮捕されたが、>・・・中共中央政治局常務委員およびその経験者は、政治問題以外では逮捕しないという不文律があり、聖域とされてきた<の>を破ったのが習近平だ。・・・
<そ>の狙いはどこにあるのか。
それは、<トウ>小平が改革開放を始めるに当たって唱えた「先富論」(先に富める者から富め)から「共富論」(先に富んだ者が、まだ富んでいない者を牽引し、共に富め)への移行を実行することにある。・・・政治体制改革をしない限り、矛盾は抱えたままだが、それでも少なくとも・・・利益集団を解体していくこと<で>・・・腐敗問題に斬りこまなければ、中国共産党による一党支配体制は必ず崩壊するというのは、誰の目にも明らかだった。
利益集団解体の先に待っているのは利益を独占している国有企業の改革である。・・・
国有企業改革のつぎには「国家新型城鎮化計画」(2014年~2020年)という国策<の推進だ。>・・・
<これ>は東沿海部に出稼ぎに出ている3憶近い農民工が社会保障制度を享受できるようにするための計画だ。大都会における市民と農民工の二元化を解消して都市病を軽減するため、内陸部に中小都市を群を建設し、農民工をそこに戻して新しい戸籍を与え年金がもらえるようにする。」(12~13)
⇒私は、トウ小平の先富論とは、広義の経済特区なる、資本主義体制ならぬ日本型経済体制全面適用地区を、一部大都市圏から次第に中堅都市圏へと拡大していき、最終的に農村地帯にもこれを拡大することによって共富を実現する、というものであった(注1)、と捉えています。
(注1)「1980年から順次、広東省の深圳、珠海、汕頭、福建省のアモイ及び海南省に5箇所の経済特区を設置した。1984年にはさらに大連、秦皇島、天津、煙台、青島、連雲港、南通、上海、寧波、温州、福州、広州、湛江、北海の14沿海都市を開放した。1985年以降、長江デルタ、珠江デルタ、閩南トライアングル(アモイ・泉州・漳州)、山東半島、遼東半島、河北省、広西チワン族自治区を経済開放区として沿海経済開放地帯を形成した。1990年、中国政府は上海浦東新区の開発と開放を決定し、一連の長江沿岸都市の開放をさらに進め、浦東新区を竜頭とする長江開放地帯を形成した。1992年以降は辺境都市や内陸の全ての省都と自治区首府を開放した。さらに一連の年に15箇所の保税区、49箇所の国家級経済技術開発区と53箇所のハイテク技術産業開発区を設定している。」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%94%B9%E9%9D%A9%E9%96%8B%E6%94%BE
換言すれば、それは、広義の経済特区が、その時々の時点における非経済特区から「収奪」することによって先富を実現しようとする仕組み(注2)であった、と言えるのではないでしょうか。(太田)
(注2)遠藤誉も、下掲の論文の筆者である古澤賢治も、都市と農村の峻別論に立脚し、都市の農村からの「収奪」にもっぱら着目している
http://dlisv03.media.osaka-cu.ac.jp/infolib/user_contents/kiyo/DB00010431.pdf
けれど、両者とも、都市戸籍と農村戸籍を峻別する中共の制度に由来する先入観に囚われ過ぎのように思われる。
なお、2020年までに、戸籍の一本化が図られる予定。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%BE%B2%E6%9D%91%E6%88%B8%E7%B1%8D
(続く)
『チャイナ・セブン』を読む(その1)
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