太田述正コラム#0319(2004.4.14)
<イラクの現状について(おさらい1)>
この際、基本的なことを押さえておきましょう。
1 フセイン政権崩壊一周年のイラク
フセイン政権下で数年来禁止されていたスンニ派信徒のメディナ、メッカ巡礼及びシーア派信徒のナジャフ、カルバラ巡礼、が政権崩壊後復活していますし、フセインの肖像抜きの新しいイラクのディナール貨幣が発行され、近々外国通貨と交換可能になろうとしています。また、イラク南部のいわゆるマーシュランドは、懲罰的に干上がった状態にさせられていましたが、昔日の姿を取り戻しつつありますし、6月末には、1000億ドルの資金を与えられた形でイラクが主権を回復します。しかも、来年末までには、中東地域では(イスラエルを除いて)初めて完全に自由な総選挙が行われることになっています(コラム#190参照)。
フセイン政権下で既に米英等の庇護を受けて自治政府をつくっていたクルド人がイラクの現状に満足していることは当然でしょう。また、イラクの教育レベルの高い人々は基本的に親英米であると言ってよく、フセイン政権から逃れて海外に亡命していた400万人にのぼる人々(この中にはフセイン政権崩壊後帰国した人もいれば、これから帰国しようと思っている人もいる)にも教育レベルの高い人が多いことから、これらの人々の殆どがイラクの現状を喜んでいるであろうことも、容易に想像がつきます。
(以上、基本的にhttp://slate.msn.com/id/2098642/(4月13日アクセス)による。)
では、これらの人々を含めたイラク市民全体としてはどうでしょうか。
3月に公表された世論調査結果によれば、イラクの56%の人々が、イラク戦争以前より今の方が良くなったと考えており、一年後は現在より良くなると考えている人々は7割にものぼっています(http://news.bbc.co.uk/2/hi/middle_east/3514504.stm。3月16日アクセス)。イラクの人々は希望に胸を膨らませていると言っていいでしょう(ただし、2(1)参照)。
このところのファルージャ(Falluja)でのスンニ派ゲリラ勢力と米軍との激しい戦闘やサドル師率いるシーア派急進派勢力によるいくつかの都市での武装蜂起に眼を奪われて、イラク全土が泥沼化しつつあると思っておられる方がいらっしゃるかもしれませんが、イラクの大部分の地域は平穏です。
そもそも、6月末には主権移譲が予定されており、どうせいつかこれら勢力と相まみえなければならないのであれば、米軍が自由に動けるうちにこれら勢力を叩いておくにしくはない、と考えるべきでしょう。
また、ファルージャでイラク統治評議会のメンバー達の仲介で、一時的とはいえ、スンニ派ゲリラ勢力と米軍との間で休戦が成立したことは、統治評議会が独自に困難なことを成し遂げる能力があることを示した点で注目されます。
(以上、http://www.guardian.co.uk/Iraq/Story/0,2763,1190683,00.html(4月13日アクセス)による。)
2 抵抗勢力
(1)イラクのアラブ人
クルド人、トルクメン人、アッシリア人等以外のイラク市民たるアラブ人は、アラブ人一般と同様誇り高いが故に傷つきやすい人々です。その彼らが、米軍のイラク占領によって深く傷ついてます。
傷ついている理由の第一は、フランスが自分自身の手によってではなく米国によってドイツから解放されたことに傷ついたのと同様、自らの手でフセイン政権の打倒ができなかったことです。(これは、青年時代をフランスで送ったブレマー・イラク暫定統治機構長官の言です。)
理由の第二は、現在彼らの多くが占領に伴う失業と貧困にあえいでいることです。
理由の第三は、イラクの治安維持にあたる米軍のやり方の乱暴さです。(そのため彼らは、フセイン政権による弾圧はひどかったけれど、そのやり方は米軍よりはデリカシーがあったし、コラテラル・ダメージも少なかった、などと言い出しています。)
理由の第四は、第三と関連しているのですが、米軍が彼らを、米軍への協力者か敵対者かと単純に白黒をつけたがることです。(ブッシュ政権そのものに、他国を味方でなければ敵と見る傾向があることは面白いですね。)彼らのうちのいわゆる有力者ほど、こんな単細胞の米軍の態度に傷ついているのです。
(以上、http://www.guardian.co.uk/Iraq/Story/0,2763,1190294,00.html(4月12日アクセス)による。)
(続く)