太田述正コラム#0326(2004.4.21)
<国際連合の実相(その2)>

 (2)国連平和維持活動
いまや国連平和維持活動(PKO)は、鳴り物入りの国連の表看板の一つになっており、国連加盟国191カ国中、94カ国が世界の13の地域に計4万人弱の兵士を派遣しています。
しかし、この兵士の大部分は加盟国中の最貧国から派遣されており、最貧国ばかりの主要派遣国五カ国のパキスタン、バングラデシュ、ナイジェリア、インド、ガーナだけで1万9000人弱になります。
これに対し、安全保障理事会の常任理事国5カ国合わせても1000名ちょっとに過ぎません。
なぜ、既に数千人の死者を出している危険なPKOにこれらの貧しい国々は兵士を派遣するのでしょうか。ここにも率直に言って、たかりの構造があるのです。というのは、本国に置いておけば費用がかかる兵士も、PKOに派遣すれば、国連から手当てが支給され、兵士一人当たり月1000ドルもの収入を生み出すからです。PKOに派遣される兵士は貴重な外貨収入源なのです。
これらの兵士の多くは、それでは任務の遂行もおぼつかないにもかかわらず、碌な装備を携行してきません。
(以上、http://www.guardian.co.uk/usa/story/0,12271,1149725,00.html(2月17日アクセス)による。)

(3)コフィ・アナン
現国連事務総長のコフィ・アナン(Kofi Annan。ガーナ出身)によって、国連は堕ちるところまで堕ちたと嘆いているのがスウェーデンの元副首相のペール・アールマーク(Per Ahlmark)です。彼の論考の要約をご紹介しましょう。
(以下、特に断らない限り、http://www.taipeitimes.com/News/edit/archives/2004/04/19/2003137287(4月20日アクセス)による。)

 1993年から1996年にかけてのアナンのPKO担当国連事務総長補佐及び国連事務次長時代を振り返って見よう。
 1994年にはルワンダでフツ族によってわずか100日間で80万人のツチ族が惨殺された。
 しかしそのルワンダにはPKO部隊がおり、そのカナダ人の司令官は四ヶ月も前にフツ族がツチ族ジェノサイド計画を練っているという情報を入手し、この通報者を保護するとともにフツ族が集めている武器を押収したいとアナンらに意見具申していたのだ。にもかかわらず、アナンはこの要請を二つとも拒否した。そして、いよいよ虐殺が始まってからも、米国等の腰の重さに藉口して漫然とこれを座視した。
 1995年にはボスニアのスレブレニッツァ(Srebrenica)で7000人のモスレム人が虐殺された。
 1993年にモスレム人は、国連が600名のオランダPKO部隊で守ってやるという約束を信じて武装解除に応じたというのに、1995年にセルビア人部隊が彼らを攻撃した時、アナンはオランダ軍に的確な指示を出さず、NATOに介入を求めることもしなかった。そして一発の弾も撃たないで指をくわえていたオランダPKO部隊の目の前で、女性と子供は連行され、残った人々に対し虐殺が行われたのだ。
 アナンは情報も対処手段も十分すぎるほど持ち合わせていたにもかかわらず、不作為によって大虐殺を二度も生起させた。
 このようにアナンは国連事務局に蔓延する事なかれ主義の象徴のような人物であるにもかかわらず、大国に決して楯突かないことから安保理常任理事国5カ国の覚えがめでたく、安保理による指名を得て1997年には国連事務総長に登りつめ、おまけにPKOが評価され(?!)、2001年には国連とともにノーベル平和賞を授与された(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B3%E3%83%95%E3%82%A3%E3%83%BC%E3%83%BB%E3%82%A2%E3%83%8A%E3%83%B3。4月20日アクセス)。

 こんな人物が事務総長になる直前の1996年から実施された、国連によるフセイン政権に係る石油・食糧交換(oil-for-food)プログラムをめぐって贈収賄疑惑が起こったのは当然のことと言えるでしょう。

(4)石油・食糧交換プログラム
 もともとこのプログラムは、国連の経済制裁下で苦しむイラク市民の苦痛を軽減するため、イラク産の石油を国連が買い上げ、その代金見合い額で食糧・医薬品の購入、地雷の撤去、病院・学校・水処理施設の建設を行おうというものでした。
 ところが、フセイン政権崩壊後、イラクで押収された資料から大変なスキャンダルが明るみに出てきました。
カネが本来の用途には使われず、もっぱら、サダム・フセイン一家、国連事務局関係者、様々な国の有力者、そしてプログラム関連受注企業(その殆どがフランスとロシアの企業)に流れたというのです(注4)。

(注4)そのやり方は以下の通り。
「入り」の方については、売買する石油の卸値を安く設定し、ブローカーの歩合を大きくしてそこからキックバックを得たり、石油をパイプラインでトルコに運ぶ間に抜き取って密輸したりする。
また、「出」の方については、石油を売った代金で食料品や医薬品を購入する際に契約相手企業に請求書を割高に書かせ、ここからピンハネを行う。
(メルマガ[JMM270F]2004.5.14「スカム」オランダ・ハーグより)

 国連事務局関係者として既に名前があがっているのは、このプログラムに基づいてイラクに運び込まれる全ての物資の検査を国連事務局から受注したスイスの会社の顧問たるコフィ・アナンの息子のコジョ(Kojo)、コフィ・アナン本人、そしてアナンがこのプログラムの担当者(the executive director of the Oil for Food office)として任命したブノン・スバン(Benon Sevan)です。
 アナン本人が疑われている理由は、アナンが自ら、サダム・フセイン用と目されるラジオ・テレビ放送システムとウダイ・フセイン用と目されるスポーツ施設群の建設を特別に認可したのではないかという理由からです。
 また、現在イラクで猛威をふるっているゲリラやテロリストの資金が潤沢なのは、フセイン一家の懐に収まった資金が流れているからだ、と指摘され始めています。
 カネをもらったとして既に名前が出ている有力者は、イラク系の米国人実業家、英国の労働党下院議員でイラク戦に猛烈に反対したジョージ・ギャロウェー(George Galloway)、フランスでは元内相、シラク大統領へのスポンサーたる実業家、元国連大使、シリアの元国防相の息子、ヨルダンの有力議員、インドネシアのメガワティ大統領らです。
 以上が事実だとすると、なぜフランスとロシアが頑強にイラク戦争に反対し、イラク戦争の根拠となる国連安保理決議を米英に与えることを拒んだか、(また、なぜフランスとロシアがフセイン政権崩壊後、このプログラムを早期に終了させることに抵抗したか、)更に、どうして国連事務局も消極的であったかの説明がつく、と米国の一部マスコミは色めき立っています。
(以上、http://washingtontimes.com/op-ed/20040321-101405-2593r.htmhttp://washingtontimes.com/op-ed/20040322-082824-9902r.htm、及びhttp://www.thenewamerican.com/tna/2004/04-19-2004/un.htm(4月20日アクセス)による。)

3 終わりに

自分で創っておきながら、米国がかねてより国連を軽んじている理由の一端がお分かり頂けたでしょうか。(英国だって思いは同じなのですが、米国のようにあからさまに軽んじはしないというだけのことです。)
ところでこの2月、米英がアナン事務総長室を盗聴していたことが明るみに出た(http://politics.guardian.co.uk/iraq/story/0,12956,1157547,00.html(2月27日アクセス)。コラム#266参照)というのに、彼は一切米英両国を非難しませんでしたね。
いくら大国には楯突かないのが身上のアナンとはいえ、これではアナンの男が下がり過ぎます。何も言えないのは、脛に傷を持つ身だからだ、と忖度せざるをえません。
堕ちるところまで堕ちた国連がアナンのような事務総長をいただいているのですから、国連の命運も極まった感がします。

(完)

<読者A>
George Galloway MPに対する疑惑は、すでにでっち上げが明らかになっており、疑惑を報じた新聞が謝罪しています。
http://news.bbc.co.uk/2/hi/uk_news/scotland/3006166.stm

<太田>
 引用されたBBCの報道(昨年6月20日にアップロードされたもの)は私も読んだ記憶があります。
 しかしこの報道に、米国のクリスチャンサイエンスモニター紙が英ギャロウェー下院議員の疑惑報道は誤報でしたと謝罪したと記されていることは事実ですが、同じ報道の中で、同趣旨の記事を掲載した英国のデイリーテレグラフ紙は、記事の典拠が異なることもあり、この記事を撤回するつもりはないと言っているとも記されていることが重要なのです。
 私が今回のコラムで引用した米国のワシントン・タイムス紙は、今年の3月21日付であり、これまでの経緯を(クリスチャンサイエンスモニターがギャロウェー議員に訴えられている(上記BBC報道)ことを含め)百も承知の上で、あえて記事にしているのですから、同紙は確信に近い自信があると見てよく、ギャロウェー議員の疑惑は一層深まったと言っていいでしょう。

<読者B>
http://www3.diary.ne.jp/logdisp.cgi?user=320300&log=200404より)
 2004/04/25 (日) 太田述正<国際連合の実相>

阿修羅に転載された表記は国連実態を知る数少ない資料だと思えます。元ネタURLはその1http://www.ohtan.net/column/200404/20040420.html#0 、その2http://www.ohtan.net/column/200404/20040421.html#0 です。
 総合的印象は<第一に、国連事務局はプロトコールには滅法うるさいけれど、仕事に係る熱意と能力はお世辞にも高いとは言えない、ということです。…第二に、国連は第三世界の人々の小遣い銭稼ぎ(より直截的に申さば、「たかり」)の場になっているということです>(1 始めに)。
 2 国連の最近の仕事ぶり、では国連人権委員会、国連平和維持活動、コフィ・アナン、石油・食糧交換プログラムについて説明しています。
 この頃私が不信感を抱き始めたアナンについては、御本人のではなくスウェーデン元副首相Per Ahlmark論考http://www.taipeitimes.com/News/edit/archives/2004/04/19/2003137287の要約で代えています。<現国連事務総長のコフィ・アナン(Kofi Annan。ガーナ出身)によって、国連は堕ちるところまで堕ちた>。1994年ルワンダのツチ族惨殺事件、1995年ボスニア・モスレム人虐殺事件―<アナンは情報も対処手段も十分すぎるほど持ち合わせていたにもかかわらず、不作為によって大虐殺を二度も生起させた>。
 <このようにアナンは国連事務局に蔓延する事なかれ主義の象徴のような人物であるにもかかわらず、大国に決して楯突かないことから安保理常任理事国5カ国の覚えがめでたく、安保理による指名を得て1997年には国連事務総長に登りつめ、おまけにPKOが評価され(?!)、2001年には国連とともにノーベル平和賞を授与された>。
 太田氏は3 終わりに、で<自分で創っておきながら、米国がかねてより国連を軽んじている理由の一端がお分かり頂けたでしょうか。(英国だって思いは同じなのですが、米国のようにあからさまに軽んじはしないというだけのことです)>、<堕ちるところまで堕ちた国連がアナンのような事務総長をいただいているのですから、国連の命運も極まった感がします>と他人事風です。
 国連事務局を国連そのものと見、国連を堅固な実体、自ら意志と行動力を持つ主体、言わば世界政府と我々は見勝ちですが、それは間違いです。色々な諮問への回答は各委員の発意に、決定権は参加国にありますから、寧ろ会場設営係位で見るのが適切なんでしょう。国連の中身は我々次第です。

<読者C>
「国連の中身は我々次第」というのは自明のことでして、「世界平和は我々次第」という言い方もできるように、私はこれはあまり意味が無いと思います。特に、太田さんはその国連の中身が問題だとおっしゃっているわけですし。
太田さんの国連に関するコラムも大変おもしろかったですが、もともと私は国連には大きな期待はしていなかったので大きな衝撃は受けませんでした。結局国連がいままで役に立ったことはあったんでしょうか?WHOやユニセフ、ユネスコなど健康、教育、福祉の面では貢献があるでしょうが、国連が戦争を止めたことはないのではないですか。
特に昨年のイラク戦争開始以来国連にはさらに幻滅しました。コソボ紛争など、欧州は国連のお墨付きなしに戦争を行ったことはある(ロシアがセルビアに対する制裁の正当化を許さないためと記憶しています)くせに、その欧州(仏独)が米国主導のイラク戦争は国連のお墨付きが無いからと批判するのは難癖です。要するに、米国のリーダーシップを認めることだけはしたくないという子供じみた駄々でしょう。
このようなきれいごとを言って米国を批判するフランスですが、最近急に中国と仲良しになり中共へのEUの武器輸出禁止を解除させようとしたり、台湾の総統選挙の時期に人民解放軍と合同の演習を行ったりしています。
中共、ロシアそしてフランスなどのような国が安保理常任理事国である国連には全く期待できないと私は思います。結局、今のところ日本は米英と行動を共にすることが世界に貢献することになると思います。

<読者D>
色摩力夫(元外務官僚)さんは「国際連合は軍事組織である」「国際連合で最も重要なのは安全保障理事会である。」このようなことを書いていました。その安全保障理事会が正常に機能を果たしたのは、朝鮮戦争と湾岸戦争だけです。これから、国連がほとんど機能していないと言えると思います。
「論座」2004年2月号に国連本部政治局政務官 川端清隆さんが国連と平和主義に関する論考を書いています。この論考は日本人の国連幻想を打ち破ってくれます。
他には、静岡県立大学教授大礒正美さんのコラムhttp://www.geocities.co.jp/CollegeLife-Cafe/5562/column/column033.htmlは国連の成り立ちを書いています。