太田述正コラム#0327(2004.4.22)
<ブッシュ政権の世界戦略(その1)>
ブッシュ政権の任期の満了が近づきつつある現在、ようやくその世界戦略の全体像が明らかになりつつあります。
私はそれは、「自由・民主主義の普及という理想主義の追求」、「現実主義に根ざした既成観念の打破」、そして「国際秩序の抜本的立て直し」、の三本柱からなる、と考えています。
以下、それぞれについてご説明しましょう。
1 自由・民主主義の普及という理想主義の追求
もとよりこれは単なる理想主義の追求などではなく、イスラム原理主義テロリズムの根絶と民主主義的独裁傾向のある諸国の体制変革を実現することによって、米国自身の安全を確保することがねらいです。
(1)イスラム原理主義テロリズムの根絶
ア 始めに
2001年におけるアフガニスタンの体制変革、2003年におけるイラクの体制変革は、どちらも(少なくともブッシュ政権の意図としては、)米国が英国等と語らって、イスラム原理主義テロリズムの根絶を期して決行したものです。
その結果、イラン、シリア等中東地域において、米国にとって好ましい方向への地殻変動が起きつつあります(コラム#323、324)。
ともすればわれわれは、風雲急を告げているかのように見えるイラク情勢に目を奪われがちですが、もっと注目してしかるべきなのがサウディ情勢です。
サウディは今、片やテロリストからは米国と癒着していると攻撃され、片や米国からはテロリストを生み出している元凶として「攻撃」されている、ということをご存じでしたか。
イ テロリストから攻撃されるサウディ
先般再度サウディで自爆テロが起こったばかりです(注1)が、これはサウディの治安機関をターゲットにしたものでした。
(注1)4月21日、二台の車による自爆テロが首都リヤドの公安局に向けて行われ、警官9名と市民1名が死亡し、数百名の負傷者が出た。
しかし、振り返ってみれば、つい先だっての4月12日と13日の両日、やはりリヤドで、テロリスト容疑者と警官との間で銃撃戦が行われて容疑者2名と警官5名が死亡しましたし、昨年にはリヤドで5月と11月に自爆テロが起こり、犯人を含め、計51名が死亡しています。
(以上、http://www.guardian.co.uk/saudi/story/0,11599,1199912,00.html(4月22日アクセス)による。)
以上の自爆テロのうち、米国関係の施設をねらったものは一つもありません。
米国関係の施設は警戒が厳重なため攻撃できないことから、欧米の人々の居住地やサウディ以外の中東諸国からやってきている人々の居住地、更には(米国関係の施設を守っていることから敵とみなされた)治安機関がターゲットにされた、という解説がなされますが、端的に言えば、テロリスト達はサウディそのものをターゲットにし始めた、ということです。
昨年イラク戦争が始まった頃には、リヤドの南の空軍基地に10000名もの米兵が駐屯していましたが、バグダッド陥落後、その殆どが機材とともにバーレーンへ移駐し、今では数百名が残っているだけですから、サウディが米軍を受け入れていることはもはや口実にはなりません。
要するに、アルカーイダ系テロリストから見れば、サウディがワハブ派国家として、かつてのタリバン政権下のアフガニスタンに比べて不徹底であることが気に入らないのです。
(以上、http://www.latimes.com/news/nationworld/world/la-fg-saudi25apr25,1,5946927,print.story?coll=la-headlines-world(4月26日アクセス)による。)
ウ 米国からも「攻撃」されるサウディ
その一方で、サウディは米国からも「攻撃」を受けています。
9.11同時多発テロの犯人19名中15名がサウディ国籍を持っていたことに米国は衝撃を受けます。にもかかわらず、サウディ政府はそれ以降も、サウディの各種慈善団体がサウディの国教であるイスラム教ワハブ派教育を行うイスラム圏各地の学校(マドラッサ)・・テロリスト輩出の温床です・・への資金等の援助を行っていることを黙認しています。
しかもそのサウディは、石油収入を食い物にするサウド王家一族が支配する、腐敗した祭政一致の国です。
そこで2002年から、ブッシュ政権は、サウディの政治、経済、社会の改革をめざすこととし、サウディ各地に駐在する米国の外交官達に、サウディ政府の反対を押し切って積極的にサウディ内の改革派と接触させています。
これに対し、サウディ政府側も「反撃」しています。
パウエル米国務長官がサウディを訪問したその日の3月19日に、あえて十数名の改革派を、立憲君主制と政府から独立した人権委員会の設置を求めた咎で逮捕し、これをめぐってパウエルとサウディ政府との間で一悶着ありましたし、3月22日にはサウディ内相のナイェフ(Nayef)殿下は改革派十数名を集め、「わが政府が弱くなったなどと思うな。米国は君たちを守ってはくれないぞ。」と警告しました。
このところ、サウディは米国から全く武器を買っていませんし、3月にはサウディの天然ガスの新規開発プロジェクトから、(ロシア、中国及び欧州の企業の参画は認めたのに)米国企業には締め出しを食らわせました。
サウディ政府は、改革を求める米国の声にかたくなに抵抗を続けているだけではなく、石油価格問題でも、パレスティナ問題でも、イラク問題でも、米国の神経を逆なでする対応を続けています。
(以上、http://www.washingtonpost.com/ac2/wp-dyn/A28719-2004Apr20?language=printer(4月21日アクセス)による。)
こういう次第で、米国のサウディに対する次の動きから目が離せない状況です。
(続く)