太田述正コラム#0331(2004.4.26)
<両極分解する米国>

 (コラム#327の一部に訂正、加筆を行い、ホームページ(http://www.htan.net)の時事コラム欄に再掲載してあります。)

1 始めに

 米国の政治の晩生ぶりについては、既にご説明した(コラム#304、305。なお、306、307も参照)ところですが、米国にようやく母国英国並みのすっきりとした保守対リベラルの二大政党時代が到来しました。
 米国では以前から共和党と民主党の二大政党制だったではないか、とあいの手が入りそうですが、共和党に保守、民主党にリベラルというラベルを貼ってこと足れりとするわけにはいきませんでした。両党の支持層がオーバーラップしていた(注1)からです。

 (注1)レーガン大統領の時代頃までは、なおレーガン民主党員(保守的民主党員)やロックフェラー共和党員(リベラル共和党員)と呼ばれるクロスオーバーグループが存在した。

 どうして共和、民主両党の支持層がオーバーラップしていたかと言いますと、フランクリン・ローズベルトのニューディール政策を、都市部の世俗的かつ(黒人、新移民等の)マイノリティーの人々、それと南部の田舎の宗教的な人々、という全く異質な二つのグループがともに支持していた、という時代があったからです(注2)。

 (注2)それ以前の時代にまでさかのぼれば、やはり米国はすっきりした二大政党制の時代だったのではないか、という点については、別途論じたい。

2 両極分解に至る歴史過程

 (1)最初の動きはストロング・サーモンド・サウス・カロライナ州知事(当時)の第三党からの大統領選挙出馬(コラム#225参照)です。
 その背景には、黒人差別解消を唱えた民主党のトルーマン大統領に対する南部の民主党員の反発がありました。
この動き自体は挫折するのですが、これを契機として、次第に共和党は南部の保守的白人層を取り込み、南部は民主党の牙城(Solid South)ではなくなっていくのです。
アリゾナ州出身のバリー・ゴールドウォーター(Barry M. Goldwater)の1964年の大統領選挙への共和党からの出馬、アラバマ州出身のジョージ・ウォレス(George C. Wallace)の第三党からの1968年の大統領選挙出馬、そしてウォレスが南部の民主党票をヒューバート・ハンフリー(Hubert Humphrey)から奪ってくれたことに助けられたリチャード・ニクソン(Richard Nixon)の当選、というのがその軌跡です(http://216.239.57.104/search?q=cache:O0qYAPpHyyQJ:www.politicalreviewnet.com/polrev/reviews/PECH/R_0149_0508_121_1002658.asp+V.O.Key%3BSouthern+Strategy&hl=jahttp://www.washingtonpost.com/wp-srv/politics/daily/may98/goldwater30.htm、及びhttp://www.cnn.com/US/9809/14/wallace.obit/(いずれも4月27日アクセス))。

 (2)次にレーガン大統領は、それまでの共和党のアイゼンハワー、ニクソン、フォード各大統領とは違い、ソ連を悪の帝国(Evil Empire)と名指ししたことに端的に表れているように、宗教的イデオロギー色を全面に押し出しました。このため、宗教的な人々や反共主義者が共和党に惹き付けられる一方で、リベラルな人々は共和党から離れてしまいました。
 (3)(このレーガン大統領によってもたらされたとも言える)冷戦の終焉は、米国の人々に求心力を与えてきた最大のイッシューを消滅させてしまいました。
 (4)更にクリントン大統領は、均衡予算の実現とか福祉政策の見直しといった民主党としては保守的な政策を掲げて大統領になったものの、女性パワーを象徴するようなヒラリー夫人ともどもリベラル色を前面に出した8年間の任期を送り、その間に米国の両極分解を一層推し進めました。
 (5)そしてケーブルテレビやインターネットの普及は、米国の人々のコンセンサス作りに大きな役割を果たしてきた新聞、テレビネットワークといった巨大メディアの力を削ぎ、人々は互いに似通った人々だけの間でコミュニケーションを行うこととなり、ここに米国の両極分解は完成するのです。

3 両極分解の実態

 こうして、いまでは米国の共和、民主両党は支持層を全く異にするに至り、米国は文字通り両極に分解してしまったのです。
 現在の両党の支持層は、共和党支持者は保守的な人、すなわち高齢、低学歴で、配偶者を有し、非組合員であって、せっせと教会に通い、田舎に住む人をコアメンバーとするのに対して、民主党支持者はリベラルな人、すなわち若年、高学歴で、独身であるか離婚していて、組合員であって、教会に行かない、都市に住む人をコアメンバーとする、といった具合にはっきり違っています。
 2000年の大統領選挙の結果を見ると、前者は南部及び中西部を拠点としており、後者はニューヨーク州、ニューイングランド地方、それにカリフォルニア州を拠点としていること、旗幟鮮明でないのは、フロリダ、アイオワ、ミネソタ、ミズーリ、ネバダ、ニュー・ハンプシャー、ニュー・メキシコ、オハイオ、オレゴン、ペンシルバニア、テネシー、ウィスコンシンの各州であること、が分かります。
そして、この大統領選挙の結果が如実に示したように、この両者の勢力は現在ほぼ拮抗しています。
しばらく前までは、以上のような支持層に依拠していたとしたら、大統領選挙であれ、上下両院議員選挙であれ、共和党に勝ち目はなかったはずなのですが、米国における急速なキリスト教原理主義の伸張(コラム#93、95)によって、民主党と互角に戦うことが可能になっている、ということなのです(注3)。

(注3)2000年の大統領選挙では、ブッシュ候補は、キリスト教原理主義者の票の84%(これはこれまでの米大統領選挙の候補者の中で最高の数字)を獲得し、キリスト教原理主義者の票はブッシュの総得票の40%を占めた(http://www.joehilldispatch.org/junkiewire/archives/000589.php。4月26日アクセス)

(以上、特に断っていない限り、http://www.washingtonpost.com/wp-srv/politics/daily/graphics/redblue_042404.htm(4月26日アクセス)による。)

http://www.joelkotkin.com/Politics/WP%20Red,%20Blue%20and—So%2017th%20Century.htm。5月11日アクセス)