太田述正コラム#7784(2015.7.13)
<現代米国人かく語りき(その2)>(2015.10.28公開)
3 Jeffray Pfeffer’The More Money You Earn, the More You Want’(PP15~16)
ジェフリー・フェファー(1946年~)は、カーネギー・メロン大卒、同大MA、スタンフォード大博士、イリノイ大学、カリフォルニア大学(UC)バークレー校を経て、現在、GSBの組織行動論の教授、という人物です。
https://en.wikipedia.org/wiki/Jeffrey_Pfeffer
「・・・人々にとって、労働から獲得したカネの方が、(投資や宝くじといった)その他の諸源から獲得したカネよりもより意義深い(important)のだ。
そして、労働1時間当たりでより多くカネが支払われれば支払われるほど、そのカネの重要性が高まる。・・・
<その結果、>報酬のための熾烈な競争が行われることとなっているが、この物語の肝は、カネを得れば得るほど、そのカネの顕著(salient)性が高まる、ということだ。・・・
莫大な報酬一揃え(package)に対して、より高率の税金をかけることは、諸支払(payouts)に対する意欲を減衰させ、報酬のための熾烈な競争を緩慢化させるかもしれない。・・・
諸会社は、その被雇用者達が仕事それ自体に目的や意味を見出すことを助けたりすることによって、・・・その被雇用者達に、<各々の>能力(competence)と有価値性(worthiness)を<会社側がどう評価しているかを>察知させる(signal)、他の諸方法を見出す試みを行わなければならない・・・。・・・」
⇒カネを被雇用者の意欲の源泉(インセンティヴ)にしてはならない、と言っているに等しく、インセンティヴはもっぱらカネで掻き立てよ、仕事のそれ自体に目的や意味を見出させること、すなわち被雇用者の士気を高めること、など必要ない、と教えていた、私の在籍当時のGSBと比べて、隔世の感があります。(太田)
4 Charles O’Reilly’Narcissists Make More Than You Do’(PP43)
チャールズ・オレイリーは、テキサス大エルパソ校卒(1965年)、UCバークレー校MBA、同校博士(組織行動論)、UCLA、UCバークレー校を経て、1993年からGSBの組織行動論の教授、という人物です。
http://www.gsb.stanford.edu/faculty-research/faculty/charles-oreilly
「・・・自己愛的な(narcissistic)CEO達が体現しているところの、説得力ある個性と攻撃的な「自己優先的(me first)」姿勢、が、彼らが膨れ上がった報酬(pay)一揃えをものにする(land)ことを助けている。
より具体的に言えば、自己愛的なCEO達は、自己愛的でない(、かつ、単に自分自身に自信がある)同僚達よりもより多い報酬を得ている。
そして、自己愛者達<(=自己愛的なCEO達)>の報酬と彼らの最上層の管理チーム群との間の格差は、そのような特性(tarit)を示さないCEO達の場合に見出されるもの<(=報酬格差)>よりも大きい。
更に、・・・自己愛者達がトップの座を長く務めていればいるほど、差分は大きくなる。・・・
彼らは、他の人々が何を考えているのか、殆んど気にしないし、この自己愛者達は、その本性いかんによっては、衝動的で操作的だ・・・。・・・
誇大性(grandiosity)が報われるところの、シリコンバレーのような諸場所では、我々は、殆んどにおいて、このような人々を選んでしまう。・・・
我々は、世界を自分達の諸イメージに沿うように作り変えようとする人々を欲するのだ。・・・
<しかし、>高度に自己愛的なボス達がいる諸会社は、余り自己愛的でない人々によって率いられた諸会社よりも必ずしも業績がより良いというわけではないことが・・・見出されている。・・・
<それだけではない。>
<必然的に、>CEOと他のトップ執行役員達(executives)との間の大きな報酬格差(pay divide)<が発生し、それが拡大していく結果、>その会社の士気は低下し、被雇用者達の退職率の増大と満足度の低下がもたらされる<ことが分かっている>。
<それなのに、どうしてそんなCEOが長くトップの座を維持できるのだろうか?>
<それは、自発的退職者の続出に加えて、かかる>CEO達が・・・自分達に挑戦するかもしれなかったり、自分達の素晴らしさを認めようとしない者達を除去するからだ。・・・
手下達から好かれないところの、これらCEO達の共感能力(empathy)の欠如が、彼らが彼ら<(=上述の人々)>の馘首を殆んど罪の意識なしに行うことを助けるわけだ。
お払い箱にされるのを免れるためには、自己愛者達に仕える人々は、・・・常に彼らに対しておべんちゃらを言い続けなければならない。
<もちろん、>あなたは彼らに挑戦なんてしてはならない。
それが、ゲームのルールなのだ。・・・」
⇒お断りするのが遅れましたが、以上の2、3、4のコラム、及び、ひき続く5のコラムは、いずれも、それぞれの冒頭に掲げた人が筆者ではありません。
冒頭に掲げた人の最近の業績を、別の人が簡潔に纏めたものです。
何が言いたいかというと、紹介されている業績は、最新のものでは必ずしもない、ということです。
さて、GSBのビジネス界に対する経営理論面での発信力は、全米でハーヴァード・ビジネススクール(HBS)と一二を争っており、しかも、日本の「文系」学界の影響力とは比較にならないほどの影響力を実世間に対して有しているのですから、GSBの、地元のシリコンバレーへの影響力たるや、決定的に大きいのです。
スタンフォード大のすぐ近くのマウンテンビュー市に本拠を構えるグーグルなどは、まさにその最たる存在でしょう。
そもそも、その共同設立者2人は、どちらも、GSBと密接な関係を有するところの、スタンフォード大計算科学科の博士課程中退者である、と来ているのですからね。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A9%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%83%BB%E3%83%9A%E3%82%A4%E3%82%B8
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%BB%E3%83%AB%E3%82%B2%E3%82%A4%E3%83%BB%E3%83%96%E3%83%AA%E3%83%B3
このような文脈に即して考えると、アローラのソフトバンク移籍は、オレイリーの業績・・フェファーの上掲業績を前提としているとも言いうる・・を知ったこの2人が、オレイリー的な意味で、グーグルにとって「危険」なアローラを、孫正義に掴ませることで体よくお払い箱にした、という可能性が否定できないのではないでしょうか。
設立以来、CEOを務めてきた、ラリー・ペイジ・・ちなみに、もう一人の設立者であるセルゲイ・ブリンはずっと技術部門を統括してきた・・が、2001年に第三者にCEOの座を譲りながら、2011年にCEOに復帰し、改めて、後継CEO候補を物色し始めていたと思われる時期にアローラを移籍させているのはイミシンです。(事実関係は、上掲の二つのウィキによる。)
なお、当然のことながら、オレイリー的には、(日本人的感覚からすれば)超高給取りのカルロス・ゴーン超長期CEO下の日産の前途は危い、ということになります。(太田)
(続く)
現代米国人かく語りき(その2)
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