太田述正コラム#7804(2015.7.23)
<資本主義とポスト資本主義(その3)>(2015.11.7公開)
3 ポスト資本主義
 次は、ポール・メイソン(Paul Mason)著『ポスト資本主義(Postcapitalism)』の、著者自身による要約記事からです。
 ちなみに、メイソン(1960年~)は、イギリスのジャーナリストにして放送人であり、英シェフィールド大卒(政治学と音楽専攻)、音楽教師として職業生活に入り、かつてトロッキスト集団に所属していたことがあるが、その後、BBCを経て、現在、チャンネル4で活躍している、という人物です。
https://en.wikipedia.org/wiki/Paul_Mason_(journalist)
 「・・・過去25年にわたって、崩壊したのは左翼の事業(project)であり続けた。
 市場がその計画を破壊したのだ。
 すなわち、個人主義が集団主義と連帯(solidarity)に取って代わったし、巨大に膨れ上がった世界の働き手達は「プロレタリアート」のように見えはするが、もはや、かつてのように考えたりふるまったりはしない。・・・
 500年前の封建制の終焉同様、資本主義のポスト資本主義での置き換えは、外からの諸衝撃、及び、新しい種類の人間の出現によって形成されることだろう。
 そして、それは<既に>始まっている。
 ポスト資本主義は、過去25年間に情報技術がもたらした三つの主要な諸変化の故に可能となった。
 第一に、それは、仕事の必要性を減少させ、仕事と自由時間との諸境界(edges)をぼやけさせ、労働することと諸賃金との関係を緩めた。
⇒江戸時代の、プロト日本型政治経済体制下には、既に、先の大戦前に概成したところの日本型政治経済体制下と同様、仕事と自由時間の諸境界はぼやけていたように思われます。
 大工の場合、勤務日の拘束時間は10時間ですが、昼食と2回の休憩があったので、実働8時間で、現在よりも休日(含む天候のせいによる休業)こそ少なかったけれど、現代日本人に比べると年間実働時間は少なく、また、拘束時間中に毎日2時間も上述の「遊び」の時間があった
http://home.a05.itscom.net/hotaru/page153.html 
ほか、実働時間内も「遊び」の要素が取り入れられていた、と言うのが私見です。
 例えば、鳶職の木遣りや梯子乗り
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%B3%B6%E8%81%B7
は、実働時間中に練習が行われたに相違ないでしょう(太田)
 <そして、>来るべきオートメ化の波は、我々の社会インフラがその諸帰結に耐えられないために現在失速しているものの、生存するためのだけではなく、全員にそれなりの生活を提供するために必要とされるところの、労働の量を大いに減少させることだろう。
 第二に、情報は、市場が諸価格を正しく形成する能力を腐食させている。
 その理由は、諸市場は稀少性に立脚しているのに対し、情報は豊富だからだ。
 <それに対する、資本主義>体制の防御メカニズムは、諸独占を形成することだ。
 <こうして、>過去200年間に見たことがない規模の巨大技術諸会社群<が生まれたが、>それらは長続きできていない。
 諸ビジネスモデルの構築、及び、社会的に生産された情報の全ての捕獲(capture)と私物化(privatisation)に立脚した諸評価額の共有、によって、かかる企業群(firms)は、諸観念を自由に使用するという、人類の最も基本的な必要(need)に相反する脆弱な企業(corporate)体系(edifice)を建設しつつある。・・・
⇒これも、日本型政治経済体制の属性です。
 すなわち、公私を問わず、「柔らかい組織」の中では、構成員全員が戦略情報を共有するとともに、「柔らかい組織」間においても、類似業種においては、当該業種に係る基本的情報が共有され、いわば、協調的競争が激烈に行われています。(太田)
 第三に、我々は、自然発生的な、協同的な(collaborative)生産を目にしつつある。
 すなわち、市場と管理的階統の諸指示にもはや応えないところの、諸財、諸サービス、そして、諸組織<による生産>だ。
⇒私の言う、日本型政治経済体制の核心たる、エージェンシー関係の重層構造の普遍化を示唆しているようにも読める箇所です。(太田)
 世界中で最大の情報製品であるウィキペディアは、無償ボランティアによって作成されているが、百科事典ビジネスを廃止に追い込み、広告産業から推定で年30億ドルの収入を奪った。
 殆んど気付かれぬうちに、市場制度の諸ニッチや諸空洞の中で、あらゆる種類の経済生活が、異なったリズムへと動き始めている。
 経済学の専門家達に殆んど気付かれないうちに、しばしば、ポスト2008年危機における旧諸構造の破砕の直接的結果として、並行通貨(parallel currency)群、時間を通貨とする相互ボランティア制度(time bank)群、生協群、が増殖してきた。・・・
 それは、全球的体制に対する全面的代替物を手で作り上げる(craft)ためには、貧弱(meagre)で非公式で危険なもののように見えるが、<14世紀の英国王で英仏百年戦争を起こした>エドワード3世(Edward III)<(コラム#4572、4916、5085、7339)>の時代の貨幣と信用だってそうだった。・・・
(続く)