太田述正コラム#0348(2004.5.13)
<新悪の枢軸:中国篇(その2)>
2 経済発展の代償
(1)所得分配の不平等化
中国の経済発展には著しいものがありますが、その代償もまた巨大なものがあります。
開放化政策が始まる直前の1980年の時点では、中国は世界で最も所得分配が平等な国の一つでした。
ところが、現在では中国は世界で最も所得分配が不平等な国の一つになってしまい、米国、日本、韓国、インドのいずれよりも明らかに不平等であり、内戦終結直前の1940年代終わりの状況に接近しつつあると考えられています。
これは、ある程度経済開放化の必然的結果ではありますが、中国の政治や経済エリートの間で、コネと才覚こそ全てであって、公正さなど一顧もされないという風潮がある(注1)ことによってもたらされたものです。
(注1)中共の成立とともに儒教道徳が排斥されて共産党的道徳によって置き換えられたが、その共産党的道徳が瓦解した現在、中国には鐘を叩いて探しても、真実、無私、利他、といった類のもの信じる人はいなくなってしまい、冷笑家しか生息していない、と言われる。
現に、中国には所得再分配制度はなきに等しいと言ってもいいでしょう。もっとも、租税負担率が米国ではGDPの三分の一だというのに、中国では17%でしかないことから、そんな余裕などないことも事実です。
(以上、http://www.nytimes.com/2004/02/29/weekinreview/29zhao.html(2月29日アクセス)による。)
所得分配の不平等化は、繁栄する沿岸部と停滞する内陸部の間の地域格差の拡大や失業率の上昇をもたらしています(前掲フォーリンアフェアーズ論考)。
これらのことを集約する形で象徴しているのが、北京等の大都市における乞食の出現(注2)と、半年ほど前からのその急速な増大です。ただし、これは警察が人権に配慮しているポーズをとり、従来のように乞食を厳しく取り締まらなくなった結果でもあります。
(以上、http://www.nytimes.com/2004/04/07/international/asia/07beggars.html(4月7日アクセス)による。)
(注2)昨年7月の北京訪問時に、その前年までには全く目にしたことがなかった乞食を王府井で発見した(コラム#132)。私は歴史的瞬間に遭遇していたわけだ。
(2)公害問題
公害問題も深刻になってきています。
1997年のWHOの調査によれば、世界で最も公害がひどい都市十傑中、中国の都市が七つも占めました。中国の第一次エネルギー消費は三分の一近くが石炭であり、この石炭をを燃やして出る二酸化硫黄とススが大気汚染公害の主たる原因です(注3)。このため、中国では酸性雨が国土の30%で降っています(http://www.eia.doe.gov/emeu/cabs/chinaenv.html。5月12日アクセス)。
(注3)中国の都市の公害のひどさについても、一昨年久しぶりに北京を訪問した時以来、私は文字通り身をもって体験してきた(コラム#132。このコラムでは自動車の排気ガスのせいだろうと公害の主因を早とちりして書いた)。
(3)資源問題
ア エネルギー
公害をまきちらそうが、世界一の石炭生産国である中国は、石炭の増産には拍車をかけていますが、2002年には炭坑事故による犠牲者が7,000名弱も出ています。
また、中国は世界第五位の石油生産国ですが、既に1993年には石油純輸入国に転落しており、今年には日本を抜いて世界第二位の石油消費国になると見込まれています。
(以上、http://www.atimes.com/atimes/China/FA14Ad02.html(1月14日アクセス)、http://www.atimes.com/atimes/China/FA15Ad03.html(1月15日アクセス)、及びhttp://www.atimes.com/atimes/China/FA16Ad04.html(1月16日アクセス)による。)
イ 食糧
経済発展に伴う都市化により、中国の農地は減ってきています。昨年だけで農地は2%も減りました。
しかも、農民は穀物はカネにならないと、野菜・果物の栽培にどんどん切り替えており、1998、1999年を頂点として、穀物生産は減少の一途をたどっています。
世界の20%の人口を世界の7%の農地で養ってきた中国に食糧危機が訪れつつあるのです。昨年、穀物価格は28%も上昇しました。
(以上、http://www.nytimes.com/2004/05/02/international/asia/02farm.html(5月2日アクセス)による。)
(続く)