太田述正コラム#7896(2015.9.7)
<米国人の黙示録的思考(その8)>(2015.12.23公開)
「・・・20世紀の初頭に、保守的なプロテスタント達は、その時代のポピュリスト的政治と神学的リベラリズムに対して正当な(righteous)侮り(defiance)でもって応えた。
宗教的保守主義についてのステレオタイプでは、南部の聖書地帯(Bible belt)<(注27)で生まれた>、というイメージが世に送られているが、<実際のところは、>キリスト教原理主義は、ロサンゼルス、ニューヨークやシカゴ、という諸大都市において、金持ちの実業家達の資金提供を受けて生まれたのだ。・・・
(注27)南北戦争の時の南部諸州の範囲とほぼ一致する、米国の中で教会出席率の高い地域。英植民地時代には、(北部はプロテスタントが多かったのに対し、)英国教徒が多い地域だった。
https://en.wikipedia.org/wiki/Bible_Belt
⇒福音主義が生まれたのは北部であっても、あくまでも、育ったのは南部において、ということでしょう。
いずれにせよ、米南部は、もともと、北部に比べて宗教的にはいい加減な地であったことは興味深いですね。(太田)
1950年代と60年代には、政治家達は、福音主義的投票者達の力に気付いた。・・・
しかし、宗教右派のホワイトハウス入りは、1980年のロナルド・レーガンの大統領選出まで待たなければならなかった。
20世紀を通じて、福音主義者達は、「終末期」が間近である、と想像し続けた。・・・」(A)
「この運動の政治的方向性(orientation)を規定する(defining)挿話は、大部分の福音主義的キリスト教徒達には余りにもソ連の無神論的共産主義に似ていたところの、経済への政府介入という政綱(platform)でもってフランクリン・ロースベルトが大統領に選出されたことだった。
ニューディールに対する反対がこの運動の糾合原理(rallying point)になり、実際、その最も無遠慮な説教者達は、ローズベルトを反キリストと同定する寸前まで行った。
(読者は、この本を読み終わった時、信者達が予言を信じること篤く、何事であれ、そして何者であれ、反キリスト性を感知することに仰天しているはずだ。)
⇒しかし、これを妄想視している、サットンや書評子は間違っています。
ロースベルトもスターリンも、「敬虔」なキリスト教徒あがりの広義のリベラル・キリスト教徒なのであり、資本主義の全般的危機という状況下で、追求した政策が似通ったものになることは不思議ではないだけでなく、この二人は、個人的にも心を通わせ合い、手を携えて米ソの同盟関係を築き、第二次世界大戦を同じ側に立って戦ったのですからね。(太田)
爾来、米国のキリスト教のこのタイプは、大きな政府、重税、及び、労働組合主義、に対する反対勢力と分かち難く結び付くこととなった。
もっとも、サットンが指摘するように、このような人々は、彼らが認める道徳的諸傾向に沿って、政府がその市民達の諸個人生活に激しく介入することを求めることにいかなる矛盾をも見出した試しがないのだ。・・・」(B)
「サットン氏は、宗教右派の勃興とともに、共和党の政治家達の間で啓示的な物の見方(outlook)が普及したところの、福音主義的影響が最も懸念させる諸側面(aspects)を見出す。
例えば、ロナルド・レーガン(Ronald Reagan)は、その多くが南部人でかつ民主党員であって1976年には最初の「新生(born-again)」<(注28)キリスト教徒たる>大統領候補のジミー・カーター(Jimmy Carter)に間違いなく投票したであろうところの、福音主義的投票者達によって大いに裨益した。
(注28)「福音派<(=福音主義者)(太田)>および聖霊派では、十字架の福音を受け入れて信仰を告白し、聖霊によって新たに生まれた者のみが<キリスト教徒>であると認める。そして、教会に出席して、洗礼を受けただけでは新生しないと教える。・・・新生は神の側のことで、回心とは人間の側のことである・・・と言われている。」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%96%B0%E7%94%9F_(%E3%82%AD%E3%83%AA%E3%82%B9%E3%83%88%E6%95%99)
「聖霊派とは、キリスト教の教派のうち、三位一体の位格のひとつである聖霊の働きを強調する教派ないし集団の総称ないし俗称。」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%81%96%E9%9C%8A%E6%B4%BE
カリフォルニア州知事として、レーガンは、『晩期の偉大な惑星地球(The Late Great Planet Earth)』<(注29)>について語り、1980年の<大統領>選挙運動中に、彼は、テレビ伝道師のジム・バッカー(Jim Bakker)に対し、「我々はハルマゲドンを目撃する世代になるかもしれない」、と伝えている。
(注29)聖書における啓示を描き、世俗的出版社から出版されたところの、1970年の米ベストセラー。1979年に、オーソン・ウェルズのナレーション付で映画化された。
https://en.wikipedia.org/wiki/The_Late,_Great_Planet_Earth
<もっとも、>1984年の大統領選挙の際の<民主党大統領候補の>ウォルター・モンデール(Walter Mondale)との議論において、この大統領は、「ハルマゲドンが」明日起きるかこれから1000年後に起きるのか「誰も知らない」ということを認め、全ての具体的な予言に対して尻込みしたものだ。
しかし、それは、ニューヨークタイムスが、「この大統領が、ハルマゲドン・イデオロギーが彼のソ連に対する諸政策を形成するのを実際に許している、ということは信じ難い思いがする」、という見解を表明することを妨げはしなかった。
この種の<ニューヨークタイムスばりの>疑い深さがサットン氏の語り(narrative)の中には頻出する。
例えば、福音主義者達一杯の部屋で、レーガンは、ソ連を「悪の帝国(evil empire)」と呼んだ<ではないか>、と。・・・」(C)
(続く)
米国人の黙示録的思考(その8)
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