太田述正コラム#0355(2004.5.20)
<インドの政変(その2)>
(前回のコラムの冒頭部分等での事実の誤りを訂正してホームページに再掲載してあります。)
当選者数に目を奪われず、得票率を見れば、このことは明らかです。
まず、BJPが23.75%から21.48%へ2.27%得票率を減らしたことは事実ですが、国民会議派も28.3%から26.21%へ2.09%得票率を減らしています。
また、BJPを中心とする与党連合の当選者総数は185名であり、国民会議派を中心とする野党連合の当選者総数217名を下回ったことは事実ですが、前者の総得票率は34.83%だったのに対し、後者の総得票率は34.59%であり、BJP連合が国民会議派連合を上回っています。
ここから分かるのは、今回の選挙ではBJPも国民会議派もどちらも有権者から厳しい評価を受けたこと、そして、実はBJP連合は国民会議派連合に勝利していたこと、にもかかわらず国民会議派連合がBJP連合を議席数で上回ったのは幸運であったこと、です。
それでは、国民会議派政権に閣外協力することになった共産党左派(CPM=Communist Party of India (Marxist))を中心とする連合の当選者数61名という「躍進」(http://www.cpim.org/。5月19日アクセス)ぶりはどう考えたらいいのでしょうか。
確かにこの61名中53名を占めるCPMとCPI(Comunist Party of India)の議席増だけで15名にのぼっていますが、得票率で見ると、6.88%から6.98%へとわずか0.1%の増加に過ぎません。ここにも幸運が働いているように見受けられます。(もっとも、BJP連合や国民会議派連合とは異なり、CPMやCPIは全選挙区で候補者を擁立したわけではないことに注意。)
(以上、http://news.bbc.co.uk/2/hi/south_asia/3721217.stm(5月18日アクセス)に示唆を得た。しかし、この論説もまだ不徹底だと思う。なお、数字はhttp://www.indian-elections.com/resultsupdate/前掲による。)
3 影響
そこで、前回にご紹介した分析は前部忘れていただくこととして、この選挙結果の影響をどう考えればいいのでしょうか。
この選挙結果を受け、ムンバイ(ボンベイ)の証券取引所では、創設以来129年の歴史で最大幅の株価暴落があり(注5)、ルピーも公社債も下落しました(http://www.guardian.co.uk/india/story/0,12559,1218823,00.html。5月18日アクセス)。
(注5)しかし、ソニア・ガンジー国民会議派党首が、首相には就任しない旨を表明してから株価はかなり戻している。これは、帰化外国人が首相に就任することに難色を示す声がBJP内等にあったことから、混乱要因が一つ減ったことを歓迎した動きと言える(http://www.guardian.co.uk/india/story/0,12559,1219605,00.html。5月19日アクセス)。
これは、これまでBJP連合政権が推進してきた経済の対内的対外的開放政策が転換されるのではないかという懸念、またこのこととも関連し、共産党連合の影響力が増大したことへの憂慮が原因です。
しかし、前者の懸念について言えば、前回触れたように、BJP連合政権の経済政策は、1992年に国民会議派のマンモハン・シン(Manmohan Singh。次期首相に目されている)蔵相が始めた経済政策を踏襲してきただけだと言ってもよく、次期国民会議派連合政権は、国有企業の民営化について、優良企業で雇用への影響が懸念される場合は差し控える、といったところでBJP連合政権と違いが出てくる可能性はあるものの、経済政策の基本が変化することはありえません(http://news.bbc.co.uk/2/hi/south_asia/3725357.stm。5月19日アクセス)。
後者の憂慮についてはどうでしょうか。
確かに共産党連合の盟主CPMは、国有企業の民営化に慎重であり、経営者の労働者解雇権等の強化に反対しており、農業関税の引き揚げを主張しており、ストを禁じる一連の最高裁判決の無効を叫んでいます(http://news.bbc.co.uk/2/hi/south_asia/3721945.stm。5月18日アクセス)。
しかしCPMは、西ベンガル州では1977年から、トリプラ州では2003年から州議会で多数を占め、それぞれの州を統治しており(http://www.cpim.org/前掲)、この西ベンガル州でのCPMの実績を見ると、歴代の指導者が清廉であり、農地改革を断行したあたりまではともかく、その後外資の積極的導入に努力してきたほか、ソフトウェア産業についてはストを禁止するという柔軟ぶりです(http://www.guardian.co.uk/india/story/0,12559,1217304,00.html(5月15日アクセス)及びhttp://www.nytimes.com/2004/05/16/international/asia/16beng.html(5月16日アクセス))。
つまり、CPMは共産主義を唱えてはいますが、現在の実態は社会民主主義政党であり、共産党連合が次期国民会議派連合政権の経済政策の足を引っ張る懼れもまずない、と言っていいでしょう。
(続く)