太田述正コラム#7982(2015.10.20)
<米海兵隊について(その5)>(2016.2.4公開)
官僚主義的な生き残りの追求の過程では、海兵隊は、より荒っぽい戦術を行使することをも躊躇しなかった。
チャウダー協会(Chowder Society)<(注12)>として知られる、戦後における海兵隊の小さな陰謀団(cabal)は、トルーマン大統領の、海兵隊削減諸計画を、機密の計画諸書類を漏洩することで妨害した。
(注12)一人の海兵隊准将によって率いられたところの、小さな緩やかに結びついた海兵隊将校達の集団。この名称は、人気のあった、バーナビー(Barnaby)<という主人公>の多媒体同時掲載の(syndicated)続き漫画(comic strip)から取られたものだ。
http://www.bluetoad.com/article/The+Chowder+Society/32339/0/article.html
ちなみに、バーナビーは、1956年から1990年まで続いた、子供向けTV番組の『バーナビーと私(Barnaby & Me)』の登場人物でもある。
https://en.wikipedia.org/wiki/Barnaby
そして、彼らはそれを極めて効果的にやってのけた結果、彼らの諸策謀(machinations)が惨めな失敗に終わる(blow up in one’s face)ことはなかった。
米海軍は、これほど幸運ではなく、上級将校達が「諸命令に従わず、秘密情報を漏洩し、米他諸軍に対する自分達の諸不満を議会と新聞に訴えたところの、1949年の「提督達の叛乱(revolt of the admirals)」ではひどく恥ずかしい思いをさせられた。
海兵隊は、それと全く同じことをやったのだが、彼らにはお咎めがなかったのだ。
しかし、いくらロビー活動に長けていたからといって、彼らが、再三再四、<4軍中の>筆頭的地位に浮上したのは、彼らが戦場で相当の信用を正当に獲得したからこそだ。
彼らの評判は意図的に作り上げられたものであったかもしれないが、陸軍さえも含め、誰も、<海兵隊の>宣伝屋達が、用いるべき偉大なる生の材料を持ち合わせていたことを否定することはできなかった。・・・」(A)
「・・・<海兵隊>は、タフさ、勇気、そして、戦場での成功、の軍事的諸徳だけでなく、海兵隊文化の、緊密で懐旧的で(nostalgic)家族的な諸要素、をも強調した。
ハリウッドは、ジョン・ウェイン(John Wayne)の『硫黄島の砂(Sands of Iwo Jima)』<(注13)>(1949年)やジャック・ウェッブ(Jack Webb)の『The D.I.』<(注14)>(1957年)でもって<海兵隊を>助けた。
(注13)「硫黄島の星条旗を実際に立てた兵士たちが出演していることでも有名。また、硫黄島の戦いで第3海兵師団を率いた・・・将軍がアドバイザーとして撮影に参加している。」ジョン・ウェイン主演。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%A1%AB%E9%BB%84%E5%B3%B6%E3%81%AE%E7%A0%82
(注14)ジャック・ウェッブ制作・監督・主演したところの、リボン・クリーク事件(Ribbon Creek incident)を題材にした映画。日本では公開されていない。
https://en.wikipedia.org/wiki/The_D.I._(film)
この事件は、南カロライナ州パリス島(Parris Island)で1956年4月8日の夜に起きたところの、酒を飲んだ後で酒を所持ししていた、(先の大戦及び朝鮮戦争の勇士たる)2等軍曹の教官に率いられて新兵訓練中の海兵隊員中の6人が溺死した事件。この軍曹は軍法会議にかけられたが、敏腕の弁護士がつき、次々に海兵隊の上司達が証言に立って彼を擁護した結果、最終的に、一兵卒への降格と3か月の営倉入りで済んだ。
https://en.wikipedia.org/wiki/Ribbon_Creek_incident
しかし、<かかる>彼らの公的イメージに生きる者達は、それによって死ぬこともある。
海兵隊は、1956年春のリボン・クリーク事件の結果、その評判において巨大な後退を蒙った。
勤務中に飲酒していた一人の訓練教官が、彼の新兵の小隊を、パフォーマンス不良の廉で夜間行軍に連れ出した。
新兵達のうちの6人が溺れ死んだ。
オコンネルは、リボン・クリーク事件は、1950年代における海兵隊の非公認暴力というより広範な問題の一つの縮図に過ぎない、と主張する。・・・」(F)
⇒帝国陸軍では、通過儀礼としての私的制裁が付き物だった(コラム#省略)わけですが、暴力的な銃社会の米国においてすら、通過儀礼としての私的制裁的なものが、新兵達を高度の錬度に到達させるためには不可欠であることが分かります。
なお、この事件そのものについての感想ですが、新兵達のその時の軍装が重かった場合は、泳げるかどうかは必ずしも決定的ではありませんが、深みにはまり、泳げなかったためにこの6名が溺れた(上掲)、というのですから、これは、米国の初等中等教育の過程で、水泳、広くは体育一般、が、いかに軽視されているか、ということでしょう。(太田)
エ 負の遺産
「・・・オコンネルは、朝鮮戦争の時の経験によるところの、心的外傷後ストレス障害(PTSD)として知られるものへと彼が帰責するところの、とりわけ、帰還兵達のアルコール中毒(alcohol abuse)や家庭内暴力、という形で表出されたところの、負の影響、にも目を配っている。・・・」(F)
「<この本>は、いかに、海兵隊が米他諸軍よりも顕著に諸アル中(alcoholism)率が高いかの証拠を提供している。・・・
統計的に、我々は、この<アル中という>ホラー(horror show)と<、それに>良く似た諸変種が、ただ今現在、数百もの海兵隊諸家族の中で進行中であるに違いないことを知っている。
果たしてこれは本当に米海兵隊を表象するもの(stand for)なのだろうか。
そうだとしたら、私は、海兵隊員達の破滅的な飲酒の気風を、大いに増やされた人道的アプローチの精神的(mental)かつアル中矯正諸事業(services)の活用等によって、矯正することを示唆したい。・・・」(D)
(続く)
米海兵隊について(その5)
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