太田述正コラム#0359(2004.5.24)
<第二回小泉・金会談について(その1)>
平壌で二度目の小泉・金会談が行われ、拉致問題で進展がありました。
この「意義」を理解するためには、現在の朝鮮半島状況を踏まえる必要があります。
(前回のコラムでも書いたように、コラム#170と171を読んでおいていただきたいと思います。)
1 北朝鮮の核の状況
(北朝鮮にウラン濃縮に必要な遠心分離機、設計図、核開発用部品リストなどを北朝鮮に渡したことを認めた)パキスタンの「核の父」アブドル・カディル・カーン博士が、5年前、北朝鮮で完全に組み立てられた形態の核爆発装置(nuclear devices)3個を目撃したと述べたと4月に報じられました。
米CIAはかねてから、北朝鮮が核爆弾を2??3個保有している可能性があると言ってきましたが、どうやら本当に保有しているらしい、ということになったわけです。
カーン博士が目撃した核爆弾はプルトニウム型ではないかと指摘されていますが、一年半前に国際原子力機関(IAEA)の査察官を追放してから、北朝鮮は8000本の使用済み核燃料を再処理したと公言しており、これが事実だとするとこの3個に加えて最大限6個、計8??9個のプルトニウム型核爆弾を北朝鮮が既に保有しているか、将来保有する可能性が出てきということになります。
北朝鮮はそのほか、カーン博士から入手した上記遠心分離機を使って濃縮ウラン型核爆弾の開発、製造を行っているとされてきました。
(以上、http://www.nytimes.com/2004/04/13/politics/13NUKE.html(4月13日アクセス)及びhttp://japanese.joins.com/html/2004/0413/20040413180232500.html(5月24日アクセス)による。)
また、北朝鮮が2001年初め、(核爆弾1個分に相当する)高濃縮ウランの原料となる六フッ化ウラン1.7トンをリビアに輸出していた証拠をIAEAが発見したと報じられたところです。
これにより、北朝鮮が高濃縮ウランによる核開発計画を進めていることが裏付けられた上、同国による核兵器関連物資の国外拡散が初めて確認されたわけです。(核爆弾の原料となる高濃縮ウランを製造するためには、特別の施設で天然ウランを化学変化により、気体状の六フッ化ウランに変え、更に遠心分離機にかける必要がある。)
(以上、http://www.nytimes.com/2004/05/23/international/asia/23NUKE.html(5月23日アクセス)、及びhttp://www.yomiuri.co.jp/world/news/20040523i314.htm(5月24日アクセス))。
他方、核の運搬手段についても、今月の初め、北朝鮮が予想より早く、ノドンやテポドンより高度の射程3000??4000kmの中距離弾道ミサイル(IRBM。旧ソ連の潜水艦搭載弾道ミサイルSS-N-6をベースにしたもの)の開発を昨年終え、移動式ランチャーに搭載した約10基を既に保有していること、これらが二カ所の現時点で7??8割方完成した地下基地に配備されていることが昨年から今年にかけて米国の偵察衛星によって確認されたこと、が報じられました。
3000??4000kmというと、日本列島、沖縄、グアムはもとより、ハワイの近傍まで届くということです。
(以上、http://english.chosun.com/w21data/html/news/200405/200405040031.html(5月5日アクセス)による。)
ただし、北朝鮮が本当に核爆弾を保有しているとしても、またIRBMを保有していると言っても、ミサイルに搭載できる大きさに核爆弾を小型化できているかどうかは依然不明です。
改めてはっきりしたのは、ひたすら金王朝を維持するため、1994年から1998年の間の300万人もの餓死者の発生(http://japanese.chosun.com/site/data/html_dir/2004/03/24/20040324000013.html。5月24日アクセス)にもかかわらず、また、1989年以降、石油供給量は半減、電力供給量も3割減という危機的なエネルギー状況(http://japanese.chosun.com/site/data/html_dir/2004/04/23/20040423000077.html(5月24日アクセス)や4月22日に発生した龍川(ヨンチョン)での爆発事件の際に明らかになったような安全対策の欠如及び医療施設の貧弱さや医薬品の欠乏状況(http://japanese.chosun.com/site/data/html_dir/2004/04/30/20040430000060.html。5月24日アクセス)にもかかわらず、北朝鮮は、核兵器の開発を脇目もふらずに進めてきている、ということです。
しかも北朝鮮は、核兵器開発の「成果」である弾道ミサイル(注1)や核燃料を外国に垂れ流してきたわけです。
(注1)在韓米軍は昨年、北朝鮮が2001年に5億8000万ドル(約700億円)分の弾道ミサイルを中東地域に輸出したほか、年間5億ドル分のアヘンなどの麻薬を輸出、偽造ドル紙幣も年に1500??2000万ドル発行していると発表した(http://www.yomiuri.co.jp/world/news/20030512it13.htm(http://www.asyura.com/0304/war33/msg/1054.html(5月24日アクセス)から孫引き))。
(続く)