太田述正コラム#0360(2004.5.25)
<第二回小泉・金会談について(その2)>
(最初に読者の鈴木さんからのメールを転載させていただきます。私のコラムは、その後に続きます。)
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朝、毎、読の三紙が小泉訪朝についてアンケート調査の結果を載せています。
驚きました。各紙とも60%以上が「評価する」との回答だというではありませんか。
中身を見ると「首相が行かなかったなら5人すら帰ってこなかったから」との評価のようです。
しかし本当にそうなのでしょうか。下交渉した山崎、平沢両氏は北朝鮮側は「政府高官が行けば家族8人を帰す」と約束していたと明かしています。そして、まさか首相自らが行くと言い出すとは思わなかったとか、見込みより1ヶ月も早い訪朝だから心配もある、と言っていました。
首相でなくても、25万トンの食糧と1000万ドルの医薬品を朝貢すれば(合わせておよそ100億円に該当)、5人は返されたのではないでしょうか。
首相は自らを称して「私の一番得意なのは政局」と公言している人です。決して政治家としての歴史観や政策ではないのです。まして外交ではありません。
政局の人、小泉首相の半ば強引とも言える急な再訪朝の目的は、自分の任期中に選挙で負けるなんてとんでもない、人気上昇が第一です。前回支持率が落ち目だったときの訪朝で一気に20%も人気上昇した経験が、今回は年金問題などで参院選で苦境に立つのを回避する"政局判断"に結びついたのではないでしょうか。国家のあり方から見れば首相という名の政治家の判断ではありません。どうしようもないほどに浮薄で濁った動機というべきでしょう。だから大事な経済制裁カードを放棄したり、ジェンキンスの口説きに1時間以上も使って、生死不明者10名ほか大勢の拉致被害者の安否究明を蔑ろにする結果になったのではないでしょうか。庶民の言葉では、行き当たりばったりの行動だといえます。
二回目の訪朝ですから、前回に懲りて、少しは外交の要衝を心得たかと実は期待していました。しかし、すべてにおいて的外れでした。金正日を出迎える立ち位置まで指示され従ったことに始まり、求められもしないのに自ら経済制裁を発動しないと言い出したり、曽我さん家族の出国は彼らの意志に任せるといわれて、金のアドバイス(指示)の通りに自ら説得を試みたり、とても独立国家の首相の行動とはいえません。
小泉氏は北朝鮮の体制に対する基本認識が無いのではないでしょうか。軍事行動を取れないわが国が、遅まきながら経済制裁を可能にする法律がようやく作られようとするときに、執行権限者が「あれは使わない」と言い訳のように言明し、今後もよろしくと25万トンの食糧と1000万ドルの医療品を贈る申し出。まるでご機嫌取りに出かけたようなものです。
肝心な核とミサイルの問題は「日朝平壌宣言に則って包括的に」と一つ覚えを繰り返します。六カ国協議が中国主導で開かれる限り、北の応援団の思惑とおりにしか進まないことは自明なのに、北の核・ミサイルの脅威は五か国中で唯一日本に向けられていることを自覚してない様子です。
曽我さん家族の意志確認は日本でやるからあんたは出国命令を出せばいい、となぜ切り返せないのか。
2年前に5人の拉致被害者が返されたとき、ひとり曽我さんだけが日本側の被拉致認定者の公式リストに載っていない人でした。蓮池、地村ふた夫婦にこの人を加えた不自然さは、そのときから金の深謀があったと考えられます。曽我さんの夫ジェンキンスが逃亡米兵であることが、日米の協調に齟齬を生ませ、わが国民に反米感情を抱かせる効果があると狙っていたのではないでしょうか。いま国内世論(金体制批判より米国向けの特赦要求など)の動向を見て、あらためて謀略思考の凄さを感じます。
小泉訪朝を評価する中国、韓国そして米国のそれぞれの政治的思惑と無縁のところで、わが国民世論は動いているように思います。
鈴木 方人(愛知県)
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2 韓国の状況
(ここは、まずコラム#262??265を読んでおいていただきたいと思います。)
4月に実施された韓国の総選挙の結果、ノ・ムヒョン大統領の与党ウリ党が大躍進し、過半数を制しました(http://www.atimes.com/atimes/Korea/FD17Dg01.html。4月20日アクセス)
このウリ党議員を対象としたアンケート調査によれば、最も重要な対外政策(外交と通商)の相手として中国をあげた者が63%であったのに対し、米国をあげた議員は26%にとどまりました。また、別のアンケート調査によれば、国連人権委員会で韓国が北朝鮮の人権蹂躙状況を非難する決議(コラム#325)に棄権したことをよしとするウリ党議員は82%にのぼり、棄権せずに決議に賛成すべきだったとする議員は18%にとどまっています。(http://english.chosun.com/w21data/html/news/200404/200404280042.html。4月29日アクセス)。
この傾向は世論調査でもはっきり裏付けられており、韓国は北朝鮮と、その現体制のままでも再統一を図るべきだと考える韓国国民が31.1%にのぼりました。(ちなみに、二年前には9.8%でした。)(http://english.chosun.com/w21data/html/news/200405/200405020022.html。5月3日アクセス)
要するに、相も変わらず日本が意図的に無視されているのはともかくとして、見過ごすことができないのは、以前にも指摘したように、韓国の人々の間で、反米親中国ムードが急速に高まってきており、また、その独裁体制や人権蹂躙状況もものかわ、北朝鮮が同胞視されるに至っている、という点です。
北朝鮮の核については調査の対象となっていませんが、聞かれれば、ウリ党議員にせよ、韓国の人々にせよ、北朝鮮が核兵器を持っていたとしても全く怖くない、(「ウリ=我々」が核を持ってどこが悪い(?))という答えが返って来るであろうことが想像できます。
当然のことながら、日本人の北朝鮮拉致問題については、「日本」人に対する北朝鮮による「人権蹂躙」問題である以上、(韓国人で北朝鮮に拉致された486人の関係者を除き、)関心などあるわけがありません(注2)。
(注2)韓国政府は、北朝鮮による韓国人の拉致問題を全く放置してきた(http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20040523/mng_____tokuho__000.shtml。5月23日アクセス)。しかし、拉致問題解決に向けての日本政府の「努力」と「成果」を目の当たりにして、韓国政府もようやく、朝鮮戦争の時に北朝鮮の捕虜になった韓国兵中生存が見込まれる約500人の帰還問題と併せ、北朝鮮との交渉に重い腰をあげようとしている(http://www.sankei.co.jp/news/040524/kok059.htm。5月25日アクセス)。
3 米国
次は米国の動きを見てみましょう。
(1)核攻撃力の強化
米国は、既に実質ドルベースで(ソ連を核軍拡競争に追い込んで最終的には崩壊に追い込んだ)レーガン大統領時代に匹敵する水準に達している核爆弾関係予算(エネルギー省計上)を来年、更に大幅に増加しようとしています。
振り返ってみれば、10年前には核爆弾関係予算は現在の半分でしたし、クリントン政権最後の予算でも現在の三分の二の水準でした。
このブッシュ政権下の核大軍拡は、核兵器を抑止のために使う、という冷戦時代の考え方では説明がつきません。ソ連はもはや存在せず、中国の核の脅威はかつてのソ連と比べれば、まだまだものの数ではないからです。
予算増のかなりの部分は実際に使うための核兵器の弾頭開発に費やされており、その核兵器とは、高性能地下要塞攻撃用核兵器(robust nuclear earth-penetrator=RNEP)であるとされています。米国は既に地下要塞攻撃用兵器を何種か開発済み(例えばunit-28(下述))なのですが、それでは不十分だとして、核による高性能化を図っているというのです。
(以上、http://slate.msn.com/id/2099425/(4月24日アクセス)による。)
私はこの兵器は、北朝鮮の地下要塞、就中核弾頭(核兵器)を配備している地下要塞への攻撃、それも先制攻撃を念頭に置いているからこそ開発が急がれている、と見ています。
(2)核防御力の強化
米国は今年9月から日本海にスタンダードミサイル3(SM3)搭載のイージス艦を配備する予定ですし、米国は日本にこのSM3と、地対空誘導弾パトリオット(PAC3)を提供しており、そのためのレーダー改良、配備も進められていて、2007年度から海上自衛隊と航空自衛隊で実戦配備が開始されます。
これらは日本も守りますが、日本の米軍基地も守ることになります。
これらに加えて、米国が、英国、デンマークと並んで日本にも、米本土攻撃用のICBM用のレーダー(GBRレーダー。迎撃ミサイルの誘導までできる。)の設置を求めてきたことが明らかになりました。
北朝鮮の現行の弾道弾が核弾頭を搭載して日本や在日米軍に向けて発射された場合や、将来飛距離が延伸した弾道弾が米本土に向けて発射された場合に備えた布石を米国は着々と打っているわけです。
(以上、http://www.asahi.com/politics/update/0421/002.html(4月21日アクセス)による。)
(3)通常兵力の強化
在韓米軍に昨年来、アパッチロングボー攻撃ヘリ(AH64-D)、パトリオットPAC3、100km走行ができる走輪装甲車ストライカー(Stryker)、スマート爆弾、要塞破壊爆弾(unit-28=banker buster)、シャドー200無人偵察機といった最新の兵器システムが次々に導入されており、近々高速輸送艇の配備も予定されています(http://www.latimes.com/news/nationworld/world/la-fg-buildup21dec21,1,4035920.story?coll=la-headlines-world。2003年12月21日アクセス)。
在韓米軍の近代化が恐るべきペースで進められていることが分かります。
(続く)