太田述正コラム#8273(2016.3.14)
<皆さんとディスカッション(続x2932)>
<太田>(ツイッターより)
「囲碁、棋士が人工知能に初勝利 3連敗後、一矢報いる…」
http://news.livedoor.com/article/detail/11289886/
 大番狂わせだー。
 異常な速さで朝鮮日報の日本語版も報道。
http://www.chosunonline.com/site/data/html_dir/2016/03/13/2016031301400.html
 ひょっとして、AIで翻訳した?
 イ・セドル九段の健闘を称えたい。
<太田>
 関連記事だ。
 「アルファ碁「暴走」? 李九段、盲点つく妙手か・・・」
http://digital.asahi.com/articles/ASJ3F6HWCJ3FUCVL013.html?rm=388
 「グーグルのAI「AlphaGo」、ついに敗北・・・」
http://japan.cnet.com/news/service/35079454/?tag=as.latest
 柯潔九段も非人間主義者のようだな。↓
 「人間対AI:世界ランク1位中国人棋士・・・
 そして、「今回の初勝利で、私も『アルファ碁』に勝つ自信が生まれた。『アルファ碁』は私に挑戦する資格がまだない」と話した。柯潔九段は9日、李世ドル九段と「アルファ碁」の第1局直後に中国版ツイッター「微博(ウェイボー)」に「『アルファ碁』は李世ドル九段には勝ったが、私を倒すことはできない」と自信満々に書き込んだが、12日に「アルファ碁」が3連勝した直後は、「『アルファ碁』は少し恐ろしい。同じ条件でなら、私も負ける可能性がかなりある」と心境の変化を見せていった。・・・」
http://www.chosunonline.com/site/data/html_dir/2016/03/14/2016031400795.html
 アルファ碁が、人間が予想もしない、意外な打ち方をしたことは、難問を突き付けている、とさ。↓
 ・・・though some loss of control might be fine in the context of a game such as Go, it raises pressing ethics and governance questions elsewhere.・・・
http://www.theguardian.com/commentisfree/2016/mar/13/artificial-intelligence-robots-ethics-human-control
 いずれにせよ、アルファ碁は、立派に最高峰囲碁プロとして通用するが、グーグル本社がやってる自動運転車は先日事故を起こした(典拠省略)ことからも明らかなように、まだ、未熟なドライバー並みの能力しかない。
 このギャップが面白いね。
 いずれにせよ、コストの問題を度外視すれば、医者の窓口業務をやってる人々が今失職してもおかしくないし、医者そのものについても、市井の内科医は真っ先に失職するだろうな。
 もちろん、銀行(や郵便局)の支店から支店長格・・整備員?・・の人間以外が消える日も遠くなさそうだ。
 同じころに、コンビニ、スーパーからは、店員が完全に消えているだろうな。
<kYFOC1J.>(「たった一人の反乱(避難所)」より)
≫浮かび上がってきたのは「他者への心遣いや同情、あるいは配慮や共感」といったメンタルな要素の重要性だった。≪(コラム#8269)
 自爆営業にサービス残業にマタハラに過労死。 
 社会全体では相対的貧困率や子供の貧困が国会でも問題視されたし、そういった弱者が声を上げればバッシング。
 日本の会社どころか社会全体に欠如したものとしか思えないんだけどねぇ。
<d77QTtVY>(同上)
≫「浮かび上がってきたのは「他者への心遣いや同情、あるいは配慮や共感」といったメンタルな要素の重要性だった。つまり成功するグループ(チーム)では、これらの点が非常に上手くいっているというのだ。」 ≪(コラム#8269)
 すごい研究費かけてさ、結論がこれってさ、日本人的には唖然とするけど。
 「そんなん当たり前やろ」って
<US>
≫この「歴史家」のインパール作戦観について、調べていただけるとありがたいですね。≪(コラム#8259。太田)
 すでに旬を過ぎた話題ですが、エリック・ホブスボーム氏のインパール作戦感を調べました。
 エリック・ホブスボーム氏がインパール作戦に言及したものは、Age of Extremesを含め、それ以外の書籍においても何も見つかりませんでした。
 デジタル化されていないものがあればこの限りではありませんが、彼は、インパール作戦に対して何も興味を持っていないと感じました。
 つまり、エリック・ホブスボーム氏が、「インドの独立は、ガンジーやネールが率いた国民会議派による非暴力の独立運動によってではなく、日本軍とチャンドラ・ボース率いるインド国民軍が協同してビルマ経由インドへ進攻した インパール作戦によってもたらされた。」 と述べているというのはガセです。
 旬を過ぎた話題ですが、このガセがなぜこうも広範囲に流布してしまっているのか、という点の方に大変興味を持ってしまい少し調べました。
 誰かが、Age of Extremes を原著で読み、日本語版出版時の邦題 「極端な時代」が付く前に、「過激な世紀」 と訳し、Hobsbawm の最後の m を見落として ホプスバウ と訳してしまったのだと思いますが、その誰かが文字にしなければ流布は始まりません。
 原著に同じ文章が登場しないので、もしかしたら、新聞等の書評や人から聞いた話の中でそのような意味合いの内容を伝聞した結果なのかもしれません。
 調べた結果ですが、流布元は、外交評論家で日印親善協会
https://activo.campus-web.jp/users/5588)会長でもある加瀬英明氏(
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8A%A0%E7%80%AC%E8%8B%B1%E6%98%8E
ではないかと推測しています。
 Age of Extremes の刊行は、1994年です。
 日本語版「極端な時代」は1996年刊行です。
 ネット上加瀬氏のもっとも古い記録は、1998年の「自由」という雑誌なので、加瀬氏よりももっと古い流布元がいるのかもしれませんが、知名度および下記にあげる事例を見ると、加瀬氏の書いたものが伝播元と思います。
 「自由」第40巻(自由社、1998年)
https://books.google.co.jp/books?id=hREkAAAAMAAJ&q=%E9%81%8E%E6%BF%80%E3%81%AA%E4%B8%96%E7%B4%80+%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%91%E3%83%BC%E3%83%AB&dq=%E9%81%8E%E6%BF%80%E3%81%AA%E4%B8%96%E7%B4%80+%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%91%E3%83%BC%E3%83%AB&hl=ja&sa=X&ved=0ahUKEwib8MLr6r3LAhXQNpQKHc_xCHwQ6AEIGzAA
 この加瀬氏は「自由」第42巻(自由社、2000年)にも同様の文章を載せています。
https://books.google.co.jp/books?id=ChGHAAAAIAAJ&q=%22%E9%81%8E%E6%BF%80%E3%81%AA%E4%B8%96%E7%B4%80%22&dq=%22%E9%81%8E%E6%BF%80%E3%81%AA%E4%B8%96%E7%B4%80%22&hl=ja&sa=X&ved=0ahUKEwi_l9rN8r3LAhVBpJQKHeWVBuYQ6AEIITAB
※ちなみに加瀬氏は当時「自由」の編集委員代表でした。
 さらに、加瀬氏は、2014年の自身のコラムにも再度同様の文章
http://www.kase-hideaki.co.jp/magbbs/magbbs.cgi
上の検索機能で、”過激な世紀” で検索)を載せており、今でも、”過激な世紀”, “ホプスバウ” をそのまま使用しています。
 また伝播に拍車をかけたのが以下の2つです。
一、映画「プライド運命の瞬間」(1998年,
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%97%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%89%E3%83%BB%E9%81%8B%E5%91%BD%E3%81%AE%E7%9E%AC%E9%96%93
加瀬氏はこの映画の監修の一人で、この映画のパンフレットで、「著名な歴史家のホプスバウ教授も、『過激な世紀』の中で認めている」 と述べている模様です。
http://www.geocities.co.jp/SilkRoad/6218/cane1.html
二、「戦後 歴史の真実」 (2002年、扶桑社文庫、前野 徹、
http://www.amazon.co.jp/%E6%88%A6%E5%BE%8C-%E6%AD%B4%E5%8F%B2%E3%81%AE%E7%9C%9F%E5%AE%9F-%E6%89%B6%E6%A1%91%E7%A4%BE%E6%96%87%E5%BA%AB-%E5%89%8D%E9%87%8E-%E5%BE%B9/dp/4594035922
 この本の中で加瀬氏の文章を参照しています。
 そして桜チャネルがこの本を同箇所をネット上で幾度か紹介しています。
http://www.ch-sakura.jp/oldbbs/thread.html?id=28547
 これらが伝播元となって、ネット上には、1996年当時の本をさして、いまだに、“近著” と言ったり、Hobsbawm のことを “ホプスバウ” と言ってしまっている記事が拡がっていったのだと思います。
 なお、ついに、この文章は、今日時点において、「インド国民軍」 の WIKI にも掲載されるにいたってしまいました。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%89%E5%9B%BD%E6%B0%91%E8%BB%8D
 なお、WIKI では出展元は「極端な時代」「エリック・ホブスボーム」となっていました。
 ただ、出展のページ番号までは示せておらず、“要ページ番号”とつっこみが入っています。
 さらなる拡散の前に是正されることを望んでいます。
閑話休題:
 Age of Extremes には、Imphal は一度も登場しませんが、Bose については本文中以下の3箇所登場します。
http://www.amazon.com/gp/product/0679730052?keywords=age%20of%20extremes&qid=1457875843&ref_=sr_1_1&sr=8-1#reader_0679730052/
 amazon のアカウントがあれば全文検索可能です。
The Indian National Congress launched the Quit India movement in 1942, while the Bengali radical Subhas Bose recruited an Indian Liberation Army for the Japanese from among the Indian army prisoners of war taken during the lightning initial advances. Anti-colonial militants in Burma and Indonesia saw matters the same way.
The test of the British Raj in India was not the major rebellion organized by Congress in 1942 under the slogan “Quit India,” for they suppressed it without serious difficulty. It was that, for the first time, up to fifty-five thousand Indian soldiers defected to the enemy to form an “Indian National Army” under a Left-wing Congress leader, Subhas Chandra Bose, who had decided to seek Japanese support for Indian independence.
Though communism disintegrated elsewhere, the deep-rooted Left-wing tradition of Hindu (West) Bengal, as well as competent administration maintained the Communist Party (Marxist) in almost permanent government in the state where the national struggle against Britian had meant not Gandhi nor even Nehru, but the terrorists and Subhas Bose.
 ガンジーやネールが率いた国民会議派よりも、ボースと彼が率いたインド国民軍の方がイギリスからの独立には大きく影響したことをホブスボームも認めていますが、インパール作戦に関する記述はありません。日本にインド独立のサポートを求めたこと、日本軍の捕虜になった自国民を独立軍兵士にしたこと、ビルマやインドネシアもそのやり方を踏襲したこと、などの記述があるので、これらをインドやボースに並々ならぬ思いがある方が読めば、「インドの独立は~」とホブスボームが述べた、と読めるのかもしれませんし、インド国民軍を、少々修飾するために、インパール作戦のことを付け加えただけのことかもしれません。
 しかしながら、3つめの文章の、terrorists and Subhars Bose の terrorists は、日本軍を指していると思いますので、ホブスボームは、インパール作戦はもとより、日本をあまり評価していなかったと思います。
 評価していない、というより、ホブスボームはヨーロッパ中心の歴史学者で、日本のこと評価する、ということもしていなかったと思います。よって、ホブスボームが「インドの独立は~」と述べた、とするのはおかしいと思うしだいです。
<太田>
 大力作ですね。
 さすがです。
 気付いた点3つと私の感想を申し上げます。
 第一に、terroristsは、文脈から言って、日本軍ではなく、共産党系過激分子を指していると思われます。
 第二に、ボースが左翼、というか、容共であった、というホブスボームの指摘には目を啓かされました。(注)
(注)ボースは、ベンガル州カタク(現在のオリッサ州)で生まれており、(現在の西ベンガル州の)カルカッタ大を卒業している。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B9%E3%83%90%E3%82%B9%E3%83%BB%E3%83%81%E3%83%A3%E3%83%B3%E3%83%89%E3%83%A9%E3%83%BB%E3%83%9C%E3%83%BC%E3%82%B9
 2011年まで、インド共産党マルクス主義派は、ケララ州と西ベンガル州で政権を掌握していた。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%89%E5%85%B1%E7%94%A3%E5%85%9A%E3%83%9E%E3%83%AB%E3%82%AF%E3%82%B9%E4%B8%BB%E7%BE%A9%E6%B4%BE
 また、1957年に西ベンガル州で結成された、インド共産党毛沢東主義派は、現在でも武力闘争を続けている。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%89%E5%85%B1%E7%94%A3%E5%85%9A%E6%AF%9B%E6%B2%A2%E6%9D%B1%E4%B8%BB%E7%BE%A9%E6%B4%BE
 つまり、帝国陸軍は、共産主義が目指す理想に共感を覚えつつも、ソ連の共産主義(スターリン主義)と、支那、ベトナム、インドの共産主義とは別物であると見ていて、前者は敵視する一方、後者中の支那、ベトナムの共産主義者達とは事実上の、そして、ボースのケースに至っては、名実共の提携を行ったのである、と思うのです。
 そう考えることによって、どうして、日本の敗戦後、ボースがソ連に飛んでその協力を求めようとした
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B9%E3%83%90%E3%82%B9%E3%83%BB%E3%83%81%E3%83%A3%E3%83%B3%E3%83%89%E3%83%A9%E3%83%BB%E3%83%9C%E3%83%BC%E3%82%B9 前掲
のかが、真の意味で腑に落ちました。
 第三に、ホブスボームは、共産主義者ですから、上記のようなボースに共感を抱き、だからこそ、ガンディーやネールよりボースに好意的な記述になった、と考えられることです。
 以上を踏まえれば、加瀬氏による原指摘は、ホブスボームの名前も言説も、紹介ぶりは杜撰ではあるものの、大きく的を外れたものではなかった、と言えそうです。
 それでは、その他の記事の紹介です。
 どうやら、精神障害は急性と慢性とが両方からんでたみたいね。↓
 「予備校生殺害–逮捕の少年、4時間前まで一緒に遊ぶ・・・」
http://mainichi.jp/articles/20160314/k00/00m/040/111000c
 スゴイスゴイ。↓
 「・・・スピードスケート…追い抜き 日本女子V 終盤逆転 オランダに雪辱・・・」
http://www.tokyo-np.co.jp/article/sports/list/201603/CK2016031402000112.html
 「バドミントン<女子>–奥原優勝、日本勢39年ぶり・・・
 女子ダブルスでは高橋礼華、松友美佐紀組(日本ユニシス)が日本勢38年ぶりの優勝。・・・」
http://mainichi.jp/articles/20160314/k00/00e/050/131000c
 米大統領選予備選小特集だ。↓
 <南部の、黒人差別意識の白人を共和党に取り込む、いわゆる南方戦略を、同党が半世紀にわたって取って来た結果が今回のトランプ旋風だ、という見解がある、とさ。↡>
 ・・・Trump’s campaign can best be understood not as an outlier but as the latest manifestation of the Southern Strategy, which the Republican Party has deployed for a half-century to shore up its support in the old Confederate states by appeals to racial resentment and white solidarity,・・・
 <だが、それだけじゃ、どうして今なんだ、という疑問が、と。↓>
 But none of these theories answer the question why now.・・・
 <やっぱオバマのせいで、貧しい白人達が、黒人に対する優位(差別)意識を掘り崩されたと感じて反発したことが決定的だった、とさ。↓>
 What caused this fire to burn out of control? The answer, I think, is Barack Obama.・・・
http://www.slate.com/articles/news_and_politics/cover_story/2016/03/how_donald_trump_happened_racism_against_barack_obama.html
 <サンダースの活躍は、米英における、リベラルの、保守のレーガノミックス/サッチャリズムへのすり寄りが社会的弱者切り捨てにつながったからだ、とさ。↓>
 ・・・The strength of Bernie Sanders’s challenge to Hillary Clinton from the left, like the radicalization of American conservatism, is a symptom of the decay of a moderate brand of progressivism that rose in the 1990s when Bill Clinton was president and Tony Blair was Britain’s prime minister. Its ideology was rooted in a belief that capitalism would deliver the economic goods and could be balanced by a “competent public sector, providing services of quality to the citizen and social protection for those who are vulnerable.”・・・
https://www.washingtonpost.com/opinions/can-a-moderate-left-beat-a-radical-right/2016/03/13/25b148cc-e7d6-11e5-b0fd-073d5930a7b7_story.html
 ・・・Of course, there is only one Donald Trump・・・
https://www.washingtonpost.com/opinions/the-real-donald-trump/2016/03/13/b51bfc60-e7a8-11e5-a6f3-21ccdbc5f74e_story.html
 「恋愛」は、「良好な夫婦関係」に置き換えられなければならないが・・。↓
 「ストレス解消に役立つ男性同士の友情、その効果は恋愛に匹敵 米研究・・・」
http://j.people.com.cn/n3/2016/0314/c94475-9029636.html
<太田>
 次回の東京オフ会(観桜会を兼ねる)が近づいてきました。
 演題は、「改めて日本文明について」にしたところ、具体的には天皇制について話すつもりでいます。
 先ほど、気付いたんですが、ホームページのオフ会の頁が一年前のものに戻ってしまっていました。
 2015年4月25日(土)ではなく、2016年3月26日(土)です。
 内容は、「講演」の演題以外は、余り変わっていないはずですが・・。
 既にお申し込みの方は、今年の4月25日だと思い込んでおられないか、ご注意ください。
 ただちに、USさんに訂正してもらいました。
 お申し込みは、下掲から。
http://www.ohtan.net/meeting/
—————————————————————————————————————————————–
太田述正コラム#8274(2016.3.14)
<20世紀欧州内戦(その6)>
→非公開