太田述正コラム#8150(2016.1.12)
<映画評論47:スター・ウォーズ/フォースの覚醒(その1)>(2016.4.28公開)
1 始めに
実は、『007 スペクター』に揃って5つ星を付けたテレグラフとガーディアンは、この『スター・ウォーズ/フォースの覚醒(Star Wars: The Force Awakens)』にも揃って5つ星を付けています。
『デイリー・テレグラフ』のロビー・コリンは 本作に5つ星評価で満点となる5つ星を与え、「J・J・エイブラムス監督の『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』は長らく新作が作られなかった『スター・ ウォーズ』シリーズをも覚醒させた。多くのファンから愛されてきた過去の6作品ともちゃんとつながっている。2015年に公開された映画の中でも群を抜い て素晴らしい作品だ。」と評している。『ガーディアン』のピーター・ブラッドショーは本作に5つ星評価で満点となる5つ星を与え、「過去の6作品より脚本が優れている。もちろん、叙事詩である以上、非現実的で、感傷的で、メロドラマ的でもある。しかし、その溢れんばかりのエネルギーと物語の奥深さは観客を興奮させる。」と」。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B9%E3%82%BF%E3%83%BC%E3%83%BB%E3%82%A6%E3%82%A9%E3%83%BC%E3%82%BA/%E3%83%95%E3%82%A9%E3%83%BC%E3%82%B9%E3%81%AE%E8%A6%9A%E9%86%92:A
https://en.wikipedia.org/wiki/Star_Wars:_The_Force_Awakens:B(()内)
但し、私に言わせれば、この2紙の評論子達は、娯楽映画としての『フォースの覚醒』の出来栄えを5つ星評価をしたということであって、それ以上でも以下でもないはずです。
というのも、今回の映画に限りませんが、スターウォーズ・シリーズは、ストーリー批評の余地が殆どないほど単純なストーリーで出来ているからです。
一言で言えば、それは、キリスト教における、天使と堕天使がそれぞれ率いるところの、善と悪との間の戦いについてのリベラルキリスト教的翻案を縦糸に、古代ローマにおける共和制と帝政のせめぎあいについての現代(未来?)的翻案を横糸にし、それに日本的趣味を振りかけたストーリーなのです。
以下、順次、説明することにしましょう。
2 天使と堕天使…
米国のキリスト教原理主義者と思しき人物が、以下のように記しています。
「大部分の<米国>人は、SFファンタジーのスターウォーズ・映画シリーズのことを聞いたことがあるだろう。
しかし、君は、聖書が、どんなフィクションよりも驚くべき、本当のスターウォーズについて語っていることを知っていたか?
本当のスターウォーズは何千年にもわたって続いており、君がそのことに気付こうと気付くまいと、それは君の人生に影響を与えている。
これら一連のスターウォーズの最後のものが、今、地球上で始まりつつあり(building on)、それは今までのどのスターウォーに比べても1000倍致死的なものとなることだろう。
でも、それは、未来永劫にわたって、最後の戦いになるのだ。
それはファンタジーではない。
それは、現実なのだ。
それは、目に見えないところで起こっているけれど、少し読み込めば、君の聖書に明確に記述されていることが分かるのであって、その戦いが終わる時は目前なのだ。」
https://www.thetrumpet.com/article/12635.24.175.0/religion/bible/the-real-star-wars
つまり、スターウォーズ・シリーズについて、米国では、共和党支持者に多いキリスト教原理主義者達は、上述したような次第で、スターウォーズを黙示録の世界を見事に描写した傑作と受け止めるとともに、民主党支持者に多いリベラルキリスト教徒達は、正義と悪の二値的世界であると彼らが信じているところの、実はキリスト教的に歪められた世界観、に則った娯楽スペクタル傑作と受け止め、大人気を博してきた、ということだ、と私は見ている次第です。
では、このシリーズが、米国以外でも大当たりしたのはどうしてなのでしょうか?
大スペクタクル活劇がウリの「善玉悪玉が・・・はっきりしてる、10歳の子供向けの映画」(コラム#8141)を、子供のために子供連れで見に来る人や、本人自体がよく言えば気持ちが若い人、悪く言えば子供がそのまま大人になった人、にウケてきた、というだけのことでしょうね。
この際、もう少し補足しておきましょうか。
英語ウィキペディアには以下のような記述があります。
「天使達は、キリスト教の聖書を通して、神と人間の間の仲介者たる精神的存在として記述されている。」
https://en.wikipedia.org/wiki/Angel
「キリスト教においては、サタン(Satan)は、しばしば、・・・罪を犯して・・・地上に落とされた・・・堕天使達の頭領として立ち現れる。」
https://en.wikipedia.org/wiki/Fallen_angel
「黙示録は、大天使ミカエル(Michael)率いるところの天使達と「悪魔(devil)とサタン」・・・率いるところの者達との間の天における戦争、及び、後者がこの戦争に敗北し地上に投げ落とされること、を描写している。」
https://en.wikipedia.org/wiki/War_in_Heaven
で、スターウォーズ・シリーズに登場する「ジェダイ(Jedi)は、・・・宇宙にあまねく広がる神秘的なエネルギー「フォース」、及び高エネルギーの光線剣ライトセーバーを用いる・・・者<であって、>・・・フォースのライトサイド(光明面、light side)に仕えるものをジェダイと呼び、ダークサイド(暗黒面、dark side)に魅入られた者をダーク・ジェダイ(Dark Jedi)と呼ぶ・・・<ところ、>・・・5000年以上昔にライトサイドとダークサイドの<間で戦争が間歇的に行われてきた。>」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B8%E3%82%A7%E3%83%80%E3%82%A4
というのですから、ジェダイが天使、ダーク・ジェダイが堕天使の隠喩であることは明らかでしょう。
ちなみに、フォース(Force)なるものの詳細な説明が下掲でなされており、
http://www.bloomberg.com/graphics/2015-star-wars-the-force-accounted/
(1月9日アクセス)
興味ある方はお読みいただくとして、私は、Forceは、キリスト教の神の恩寵(the divine grace)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%81%A9%E5%AF%B5_(%E3%82%AD%E3%83%AA%E3%82%B9%E3%83%88%E6%95%99)
の隠喩である、とみているところです。
(ライトセーバーについては後述します。)
(続く)
映画評論47:スター・ウォーズ/フォースの覚醒(その1)
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