太田述正コラム#0375(2004.6.9)
<ロナルド・レーガン(その1)>

 レーガン(Ronald Wilson Reagan)元米大統領が6月5日、93歳で逝去しました。
 そこで、彼の大統領時代(1981??1989年)の業績等を振り返ってみましょう。
1 労働組合つぶし
レーガン政権発足直後に勃発した航空管制官組合によるストを、同政権は軍隊の航空管制官まで投入して乗り切るとともに、スト参加者13,000名中11,000名を解雇するという豪腕ぶりを見せつけました。(http://www.guardian.co.uk/usa/story/0,12271,1232979,00.html(6月7日アクセス)及びhttp://eightiesclub.tripod.com/id296.htm(6月9日アクセス))。
爾後、それまで頻発していた(航空管制官のような)争議権が認められていない連邦公務員によるストは姿を消します。

2 大軍拡
 これはレーガン政権(共和党)の前の政権であるカーター政権(民主党)がソ連とのデタントに見切りをつけて着手した第二次米ソ冷戦軍拡政策(コラム#30、68)を踏襲しただけのことだと言ってもいいかもしれません。(この結果得られた「成果」については、後述。)

3 小さい政府
 これもカーター政権が始めた規制緩和政策の継承発展、と言う側面があります。
しかし、この「政策」は結局羊頭狗肉に終わり、連邦支出の対GDP比こそ21.2%へと1%低下したものの、実質ベースで連邦政府の支出は四分の一増加し、連邦非軍人公務員数は280万人から300万人に増加しています。
ちなみに、レーガン時代に連邦行政機関が一つだけ廃止されています。それは航空局(Federal Aviation Board)ですが、これも、カーター政権下で実施された航空産業の規制緩和によって、存在根拠がなくなっていた機関を廃止したというだけのことです。
(以上、特に断っていない限り、http://slate.msn.com/id/2101829/(6月6日アクセス)及びhttp://www.washingtonpost.com/ac2/wp-dyn/A19171-2004Jun5?language=printer(6月7日アクセス)による。)

4 大減税
 大減税を断行すれば、高所得者の貯蓄、投資が増大して経済成長が加速し、やがて税金の増収が期待できるという、サプライサイド経済学者達(supply-side economists)の「学説」を踏まえて、レーガン政権は三年間に税率を25%下げるという大減税を実施しました。後にレーガノミックス(Reaganomics)と名付けられた政策です。この政策について、レーガンと大統領選予備選を戦っていた頃、ブッシュ候補(George H.W. Bush。後にレーガン政権の副大統領となり、またレーガンの跡を襲って大統領となった)「ブードゥー経済学(Voodoo economics)」(注1)と嘲笑したものです。

 (注1)Voodooとは、正式にはVodunという、アフリカ由来の精霊信仰の宗教の名称。現在6000万人以上の信徒がいると言われ、アフリカのベニン(Vodunが国教)、トーゴ、ガーナ、中米のドミニカ、ハイチにおいて盛ん。米国でVoodooと言うと、この宗教の名前を借用してハリウッド映画が創作した、まがまがしい邪教を指す。(http://www.religioustolerance.org/voodoo.htm。6月9日アクセス)
ブッシュは、こちらの方のVoodooを念頭に置いてかかる発言を行った。

 その結果はどうだったか。
レーガン時代の80年代に経済は全く加速しなかった一方で、とんでもないことが起きてしまいます。
 インフレ防止を目的とした米連邦準備制度理事会の金融引き締め政策(高金利政策)とあいまって、米国政府の国債発行額とその利払い額は鰻登りに増大し、財政赤字は740億ドルから1550億ドルへと増大し(注2)で、米国は、世界一の債権国から世界一の債務国へと転落してしまうのです。
 (以上、http://www.washingtonpost.com/ac2/wp-dyn/A19171-2004Jun5?language=printer(6月7日アクセス)及びスレート前掲による。また、サプライサイド経済学関係は、http://66.102.7.104/search?q=cache:1mLmVlejAoAJ:mirrors.korpios.org/resurgent/23More.htm+supply-side+economics%3B+Reagan&hl=ja(6月10日アクセス)も参照した。)

 (注2)1980年から1986年にかけて、連邦政府の国防費を除く支出は対GDP比で29%減った一方、国防費は27%増え(2参照)、税収は17%も落ち込み、国債の利払い費は61%も上昇した。その結果、財政赤字の対GDP比は5%へと、86%も上昇した。

(続く)