太田述正コラム#8216(2016.2.14)
<米国の「急進的リベラリズム」の伝統(その1)>(2016.5.31公開)
1 始めに
 昨日のディスカッションで予告した、表記に係るコラム
https://www.washingtonpost.com/opinions/democrats-shouldnt-fear-sanders-talk-of-revolution-their-party-was-built-on-it/2016/02/12/271114cc-d07a-11e5-abc9-ea152f0b9561_story.html
(2月13日アクセス)のさわりをご紹介し、私のコメントを付します。
2 米国の急進的リベラリズムの伝統
 「・・・<米国における>19世紀末の産業資本主義の悲惨な社会的、経済的、そして、政治的、な諸帰結に対する最も早い組織的諸挑戦は、中西部及び南部の不平不満を抱く諸勢力によって始まった。
 これらの革命的諸潮流は、ポピュリスト的運動を動員し、やがて、短命に終わったところの、人民の党(People’s Party)<(注1)>の結成へと至った。
 (注1)「<米>国・・・で1891年に設立され<た>・・・。1892年から1896年が最も活動した期間であり、その後は急速に衰退していった。<米>国南部(特にノースカロライナ州、アラバマ州、テキサス州)の貧しい白人綿花農家や、<米>国中西部の平原にある州(特にカンザス州とネブラスカ州)の追いつめられていた小麦農家などを支持基盤とし、農本主義と、銀行、鉄道、エリートに対する敵意という急進的な運動形態を採った。」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BA%BA%E6%B0%91%E5%85%9A_(%E3%82%A2%E3%83%A1%E3%83%AA%E3%82%AB)
 人民の党は、急進的な経済的、政治的諸観念(ideas)を持った、しかし、(排外主義、反ユダヤ主義、そして、反知性主義を含むところの)反動的な文化的諸観念を持った、全国組織だった。
 その1892年のオマハ(Omaha)での結成大会で、党職員達は、オマハ綱領(Omaha Platform)<(注2)>と呼ばれることとなる、諸要求を発出した。
 (注2)「国定銀行の廃止、累進的な所得税の導入、<米>上院議員の直接選挙、公共事業の改革、1日8時間労働、および鉄道、電信、電話の連邦政府による規制を要求していた。」(上掲)
 「我々は、この共和国の政府を「普通の人々(the plain people)」の諸手に取り戻すことを目指す」、とそれは声明していた。
 ポピュリスト運動に関する歴史学者であるローレンス・グッドウィン(Lawrence Goodwyn)によれば、当時、「何百万人もの人々が、自分達が生きている間に、自分達の社会の全面的見直し(wholesale overhauling)が行われ、民主主義的な「新しい日」が米国に到来する」、と考えたのだ。
 大会出席者達は、オマハ綱領を採択した。
 それは、何よりも、累進所得税、8時間労働、「健全で柔軟な」通貨、秘密投票、投票諸要求権(ballot initiatives)と住民投票、上院議員達の(州諸議会を通じた間接選挙ではなく)直接選挙、及び、諸鉄道の国有化、を求めていた。・・・
 数年を待たずして、出た答えは明白だった。・・・
 諸鉄道の国有化諸要求を除き、人民の党の当初のアジェンダの大部分が民主党の綱領に盛り込まれたのだ。・・・
 そして、20年以内に、ポピュリスト達の諸目標の多くが、ウッドロー・ウィルソン(Woodrow Wilson)の政権によって、部分的にせよ、実現した。
 すなわち、1913年と1916年の憲法修正第16条と関連歳入諸法により、累進所得税が確保され、憲法修正第17条により、上院議員達の直接諸選挙が確保され、憲法修正第19条により、(とりわけ、西部におけるところの、もう一つのポピュリスト達の初期から掲げていた大義であったところの、)女性参政権が保証された。
 それに加えて、1913年の連邦準備法(Federal Reserve Act)は、農民達の健全な通貨供給への基本的ニーズに応え始めた。
 また、シャーマン・クレイトン独占禁止諸法(Sherman and Clayton antitrust acts)<(注3)>は、鉄道諸カルテルの廃止こそ実現しなかったかもしれないけれど、それらによってもたらされたところの諸規制が、そもそも、ポピュリスト叛乱の立ち上げに資したところの、不満に応えるべく、この諸カルテルによる経済の統制を弱めた。・・・
 (注3)「シャーマン法は、1890年に成立した米国最初の独禁法であり、・・・クレイトン法は、独禁法を強化するために1914年に成立し、その後幾多の改正を経て現在に至っている。・・・<また、>クレイトン法と同じく1914年に成立した法律で、反トラスト法の執行機関として、司法省に加えて連邦取引委員会を設立すると同時に、不公正な競争方法を禁ずる規定を盛り込んだ法律<として、>・・・連邦取引委員会法<がある。>」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8F%8D%E3%83%88%E3%83%A9%E3%82%B9%E3%83%88%E6%B3%95
⇒米国の急進的リベラリズムの原点たるポピュリスト運動ないし人民の党が、イギリス由来の急進的リベラリズムと欧州由来のファシズムの前駆的なものとのキメラであったことが分かりますね。
 私は、現在の米大統領予備選の民主、共和両党の風雲児であるところの、サンダースは前者の要素、トランプは後者の要素の、1世紀余り後における残滓、と言って悪ければ、再生である、と見るに至っている次第です。(太田)
(続く)