太田述正コラム#8230(2016.2.21)
<無神論の起源(その3)>(2016.6.7公開)
「・・・ディアゴラス(Diagoras)<(注5)>、及び、例えば、エウヘメルス(Euhemerus)<(注6)>,、テーオドルス(Theodorus)<注7)>、そして、デモクリトス(Democritus)<(注8)(コラム#7080)>、といった彼の同輩達、が、この・・・本の中心的テーマを構成している。・・・」(F)
 (注5)Diagoras “the Atheist” of Melos(BC5世紀)。ギリシャの詩人にしてソフィスト。ギリシャの宗教、とりわけ、エレウシス秘儀(Eleusinian Mysteries)を批判し、アテナイ人達によって非難され、逃亡を余儀なくされ、コリントで死んだ。
https://en.wikipedia.org/wiki/Diagoras_of_Melos
 エレウシスで執り行われたところの、ペルセポネー(Persephone)神話に立脚した、下降(喪失)→探索→上昇、という三サイクルから構成される秘儀。
https://en.wikipedia.org/wiki/Eleusinian_Mysteries
 ペルセポネー神話。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9A%E3%83%AB%E3%82%BB%E3%83%9D%E3%83%8D%E3%83%BC
 (注6)BC4世紀末~3世紀初のギリシャの神話伝承者で、マケドニア王のカッサンドロスに仕えた。神話は歴史的出来事を反映しており、また、神話上の人物を反映している、と主張した。
https://en.wikipedia.org/wiki/Euhemerus
 (注7)BC5世紀のギリシャの数学者。北アフリカのキレナイカで生まれ、現地とアテナイで教えた。
https://en.wikipedia.org/wiki/Theodorus_of_Cyrene
 彼が無神論ないし唯物論といかなる関わりがあったかは分からなかった。
 (注8)BC460?~370?年。「ソクラテスよりも後に生まれた人物だが慣例でソクラテス以前の哲学者に含まれる。・・・トラキア地方・・・の人。・・・「原子」と「空虚」が存在するという・・・原子論を中心とする彼の学説は、古代ギリシアにおける唯物論の完成であると同時に、後代のエピクロス及び近世の物理学に決定的な影響を与えた。」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%87%E3%83%A2%E3%82%AF%E3%83%AA%E3%83%88%E3%82%B9
 (2)背景
 「・・・著者は、古典ギリシャが多神教諸社会であったということは、宗教的正統性(orthodoxy)などというものも、人々がいかに生きるべきかを指し示す聖職者も、存在しなかったということを意味する、と主張する。
 それはまた、無神論は誤りだと見られ得たけれど、それは通常許容された、ということをも意味する。
 但し、「この都市の諸神を認めない」としてアテナイで処刑されたところの、ソクラテス(Socrates)<(注9)>の場合はそうではなかったが・・。・・・」(A)
 (注9)「ソクラテスは「アテナイの国家が信じる神々とは異なる神々を信じ、若者を堕落させた」などの罪状で公開裁判にかけられることになった。・・・ソクラテスは自身の弁明(ソクラテスの弁明)を行い、自説を曲げたり自身の行為を謝罪することを決してせず、追放の手も拒否し、結果的に死刑(毒殺刑)を言い渡される。」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%BD%E3%82%AF%E3%83%A9%E3%83%86%E3%82%B9
 「・・・古典ギリシャは神話で一杯であり、我々はまた、その古典ギリシャについての諸神話で<頭の中が>一杯だ。
 それら諸神話のうちの一つが、ギリシャはかくも多く宗教だらけ・・公的生活のあらゆる面(facet)に宗教的諸儀式が付き物だった・・であって、宗教はギリシャ人の肉体的及び道徳的な諸分野における物の見方に染み込んでいた、というものだ。
 これは明らかに間違いだ。
 著者が述べるように、ギリシャの宗教は、我々が知っているところの宗教が極めて喧しく口角泡を飛ばすところの、まさにそういった諸問題に関して、一貫して沈黙を保ったのだから・・。
 すなわち、「通例、ギリシャの宗教は、道徳性や世界の本性に関して殆ど何も言わなかった」。
 学者達は、余りにもしばしば、アブラハム系の宗教の概念を古典ギリシャ世界に押し付けてきたのであり、その結果、<当時、>世俗的な世界観が、いかに熱狂的な宗教活動と容易に共棲していたか、を見ることに失敗してきたのだ。
 
⇒専門家達・・この場合は古典ギリシャの専門家達・・には周知と思われる事実群に従来照射されなかった角度から光を照射することによって、今まで誰も言わなかったことを主張しているホィットマーシュであるわけですが、彼のような、私と同じようなことをやっている人物には、親近感を覚え、エールを送りたくなります。(太田)
(続く)