太田述正コラム#0383(2004.6.17)
<アブグレイブ虐待問題をめぐって(その9)>
(9)CIA
いやいや、元凶は米軍そのものではなくてCIAだ、という指摘もあります。
タグバ少将の報告書によれば、軍諜報要員とCIA要員と契約社員が共同で看守たる憲兵に対し、被収容者について、尋問に資する物理的心理的条件を整えるように積極的に要請した、とされています(注10)。
(注10)このうち、軍諜報要員が直接虐待に関与したことは、軍諜報要員が虐待場面に写っている写真があることで裏付けられている(http://j.peopledaily.com.cn/2004/05/28/jp20040528_39838.html。5月31日アクセス)。
(その背景として、グアンタナモで収容者の尋問責任者であったミラー(Geoffrey Miller)少将(現在、カルピンスキ准将の後任としてアブグレイブ等の管理にあたっている)が昨年8月末から9月初めにかけてイラクを訪問し、看守たる憲兵が収容者の尋問の環境を整えることに協力するよう求めた経緯があります。)
CIAについては、1997年にその尋問マニュアルのうちの二つが情報公開法によってマスコミの手に入っています。
そのうちの一つがホンデュラス用に1983年に策定されたマニュアル(タイトルは、Human Resource Exploitation Training Manual)であり、そこに書かれている尋問手法を見ると、それがグアンタナモで(、従ってまた、アブグレイブでも)用いられていると報道されている尋問手法と一致しています。(以下、<>内は、アブグレイブで起こったこと)
このマニュアルは、拷問、すなわち「強圧的手法は、抵抗しようとする相手の意思に抗いがたい外部からの力を加えることによって、相手の心理的退行(regression)・・基本的には自律心の喪失・・を惹起することを目的とする。」とした上で、拷問はただちに用いられるべきではなく、「人間の平静心(identity)は、彼の周囲、習慣、外見、他者との関係等が継続することに依存している。従って、収容するにあたっては、相手に既知のものとか手がかりになるものから切り離されてしまったという感覚を亢進させるように計画しなければならない。」<収容者に性的な屈辱感を与えたり、人間ピラミッドをつくらせたり、眠らせなかったり、三日間窓のない部屋に一人で閉じこめたりした>とし、「強圧的手法をとるぞという脅迫の方が、実際に強圧的手法をとることより、抵抗心を弱め、或いは破壊するのにつながるのが普通だ。」<犬をけしかけたり、頭巾をかぶせた収容者を箱の上に立たせ、ワイヤを巻き付け、動いたら感電すると脅したりした>、「ただし、脅迫しても相手が従わなかった場合は、その脅迫は現実に実行に移されなければならない。さもないと、それから後、どれだけ脅迫しようと全く効果が見込めなくなるからだ。」<どうやら拷問が行われたらしく、死者が何人か出た>、「感じる痛みが他人ではなく自分自身によって加えられていると感じられた場合、彼の抵抗心はより萎えやすいものだ。・・しばらくすると、彼は己自身を奮い立たせる力を使い果たしてしまうことになるのが通例なのだ。(他人が強烈な痛みを加えると、ややもすれば相手は更なる加罰を回避しようとしていつわりのでっちあげられた告白をするものだ。)」<頭巾をかぶせられた収容者は箱の上で感電を懼れて静止姿勢をとらざるをえず、これがその収容者を疲れ果てさせた>と記述しています。
もう一つは1963年策定のマニュアル(CIAはKubark manualと呼ぶ)であり、上記の1983年策定のマニュアルの元になったものだと言われているものです。
このマニュアルには、「基本的には、物理的プレッシャーより、心理的プレッシャーによって抵抗心は萎えるものだ。」とあり、「身体的加害」または「医学的、化学的、または電気的方法」が用いられる際には、CIA本部の承認が必要である、(つまり、CIA本部の承認があれば拷問を加えてよろしい)としているところです。
(以上、http://www.guardian.co.uk/Iraq/Story/0,2763,1210574,00.html(5月6日アクセス)による。)
これらの周到なマニュアル(まるでハウツー本のようだ!)を読むと、何をいまさらアブグレイブ虐待事件について大騒ぎしているのか、という気になってきますね。
しかし、CIAはこれらのマニュアルの内容はもはや生きていないとするとともに、アブグレイブ虐待事件にCIAが関与していることを否定しています(典拠失念)。
(続く)