太田述正コラム#8256(2016.3.5)
<トランプの対日政策>(2016.7.6公開)
1 始めに
表記に係るコラム
http://foreignpolicy.com/2016/03/04/donald-trump-barbarian-emperor-japan-china-defense/?wp_login_redirect=0
のさわり、と言っても、その大部分をご紹介し、私のコメントを付します。
2 トランプの対日政策
「・・・ドナルド・トランプは、実は、一貫した世界観を持っている。
1987年に、彼は、ニューヨーク・タイムスに全面広告を載せ、レーガン大統領の国家安全保障政策を批判したが、その時と同様の諸見解を発信し続けている。
彼は、当時、米国の諸同盟国は米国に付け入っているところ、これら諸国にもっと努力するよう強いなければならない、と信じていたが、現在、再び、同じことを言っている。・・・
トランプは、日本は、我々が自分達を守ってくれることを期待しているが、我々を守ってはくれない、と言う。
確かに、日本の憲法が日本の外交政策の手段としての戦争を禁止していることは事実だ。
それは、我々が第二次世界大戦後に彼らに押し付けたものだ。
⇒しかし、朝鮮戦争が勃発した時点以降、事実上、その憲法の改正、すなわち再軍備を米国は日本に求め続けてきたけれど、日本の抵抗によっていまだに、それに十全な形で成功していません。
ということは、結果として、日本が自主的に現憲法を作ったということなのですが、筆者は、そのことがよく理解できていないようです。(太田)
しかし、過去15年間にわたって、日本は、概ね平和主義的な公衆を、国際安全保障に対してより大きな役割を果たすことにゆっくりと慣らしてきた。
<こうして、>日本の軍隊は、アフガニスタンでの米国の諸作戦を支援したし、イラクにおける連合諸国に諸部隊を参加させた(contributed)し、アデン湾沿岸での対海賊諸作戦に参加した。
安倍晋三政府は、米国を含む同盟諸国が攻撃された場合に日本が防衛する能力を顕在化させる法制を通過させたし、アジアにおけるその他の米国の同盟諸国や友好諸国に訓練や諸武器を提供している。(フィリピンとの防衛協定が月曜日には調印されるだろう。)
⇒むしろ、いかに日本が米国の上記要求に対して抵抗を続け、小出しの譲歩しか行ってこなかったか、ということです。(太田)
これらは、何一つ、米日防衛同盟の安心させる基盤抜きでは可能にならなかったことだろう。
⇒「米日防衛同盟」なかりせば、とっくの昔に、日本は、改憲ないし解釈改憲を行って、再軍備をしていたことでしょう。
話は逆なのです。(太田)
我々は、世界において日本の助けを欲しており、彼らは次第に多くそれを与えてきている。
彼らを放棄するのは逆効果なのだ。
日本は、83の諸基地と諸施設に集中されたところの、5万人超の米軍諸部隊の駐留に耐え(endure)ている。
約25,000人の海兵隊が沖縄島一帯を巡回(rotate)している。
我々の諸基地はこの島の18%<の土地>を取り上げ(take up)ている。
しかし、日本の政府はこの特権(privilege)にカネを支払っている。
⇒客観的には、その言葉遣いからしても、筆者は大変な皮肉を言っているわけですが、どうやら、主観的には、筆者はそのことに気付いていないように見えます。(太田)
日本政府の気前のよい諸貢献(generous contributions)のおかげで、軍事力を前方展開する費用は、それらを米国の国内に駐留させておくのとほぼ同等の水準にとどまっている。
⇒ほぼ同等だけど、余計かかっているようです(コラム#省略)が・・。(太田)
それらを日本の中で持っていることが、日本を米国のアジアでの役割の中にとどめて(anchor)おり、最近まで、北京からと同じくらい、東京からの侵略について心配していたところの、この地域を安心(reassure)させている。
⇒「東京からの侵略について心配していた」は、基本的に筆者の認識違いです。
「日本を米国のアジアでの役割の中にとどめて」おきたいという気持ちは分かりますが、日本が米国への軍事面での貢献度を高めれば高めるほど、日本は、「中にとどめて」おけなくなるのは必定ですが、こんな単純なことすら、この筆者は分かっていないようです。(太田)
前方駐留は、米軍が、韓国、台湾、日本、フィリピン、の防衛において、或いはアジアにおける他のいかなる緊急事態(contingency)においても、はるかに速く戦闘に投入させる。
トランプのような孤立主義者達は、これらの諸国のどれも防衛すべきではないと言うかもしれない。
しかし、中共の影がアジア全体を覆うような国際秩序を彼らは好んでいるのだろうか。
⇒どっちみち、中共の経済力・軍事力が相対的に高まっていけば、相対的にアジアにおける米国の影は薄まっていかざるをえません。
筆者は、現実を直視することを回避しています。(太田)
中共の影響を恐れている諸国を守ることで信任を得て(get credit)いなくて、果たして、米国はより良い貿易交渉の諸結果を得ることができるだろうか。
⇒どっちみち、米国の経済力・軍事力が相対的に衰亡していけば、交渉いかんにかかわらず、いい「諸結果を得る」ことはできなくなっていくのは必定です。(太田)
中共が、我々が去った後の隙間に踏み込んでより強力になった場合に、果たして、我々との関わりに関し、我々は、諸国の協力を得したり、諸国を罰したりできるだろうか。
日本は、アジアの諸国の中で、その他諸国から、(米国や中共さえよりも、)現在および将来のパートナーとして、最も重要な国であると考えられている。
日本は、その他諸国から最も頼りになる(reliable)国であると考えられており、AESAN諸国の人々の90%は、日本の、より積極的な関与が有益であると考えている。
日本を疎外することは、直接的な米日の文脈の中において高くつくだけでなく、米国のその他のアジア諸国における立ち位置をも毀損する。
⇒「日本を米国のアジアでの役割の中にとどめて」おこうとする限り、米国は日本を疎外しているのです。(太田)
興隆する中共はアジアを揺るがしている(unsettled)。
米国の安全保障上の諸コミットメントに疑問符を付けることは、我々に友好的で我々の諸利害に支援的な諸国をして、北京と折り合いを付けるしか選択肢がないと信じさせることになる。
⇒どっちみち、そうなるのは必定です。(太田)
インドネシア、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイ、そして、ベトナムは、全て、近年、中共の脅威の故に米国により緊密になった。
⇒日韓や欧州諸国同様、ASEAN諸国だって米国にたかれるだけたかろうとしているだけです。(太田)
日本と韓国ですら、もし彼らが我々とのとも綱が解かれたと感じたならば、中共の影響力(sway)から逃れられなくなる。
そのことは、最近の核実験まで、北朝鮮に対処するにあたって中共第一のアプローチに色目を使ったことで、韓国によって既に示されたところだ。
⇒韓国は、しばらくの間、近未来を先取りしていた、というだけのことです。(太田)
仮に君が、安定した(stable)中東が米国の掌握下から逃れるにまかせることは高価に付くと思うのなら、同じことをアジアで行うコストを想像してみよ。
⇒オバマ政権は、安価に付く、と正しく判断していると言うのに・・。(太田)
この地域は世界の貿易の過半が行き来し、全球の成長の60%が生起しているのだ。
トランプが、米国の同盟諸国に対してフラストレーションを感じていることに若干の根拠はある。
我々は、米国が、諸他国の安全保障上の諸帰結に対して不釣り合いに大きな責任を負うことを甘受してきた。
最も言語道断な事例は欧州だろう。
そこでは、我々のNATOの同盟諸国が<国防費>に費やす額が余りにも少ないのだが、衰亡しつつも危険なロシアの挑戦に対応するために、彼ら自身が認めているよりもはるかに多くのことができるのだ。
⇒それを妨げているのは、むしろ米国なのです。(太田)
トランプの理屈は、オバマ政権の「背後から指導する(leading from behind)」<やり方>と韻が合っている。
どちらも、諸他国に諸帰結に対する第一次的責任を押し付けているのだ。
⇒これ以上もない、トランプの対外政策に対する賛辞です。(太田)
二人が共に間違っているのは、同盟諸国が米国の力を削いでいる(net drain)、と前提(starting point)している点だ。
⇒オバマもトランプも、米国の身の丈にあった水準まで米国の対外的コミットメントを減らそうとしているのであり、筆者はとんだ言いがかりをつけている、ということです。(太田)
実際には、米国による秩序が維持可能なのは、同盟諸国の諸貢献あればこそなのだ。
⇒「米国による秩序」など、はるか昔に放棄しなければならなかったのであり、遅ればせながら、「自由民主主義」諸国が集団で「秩序」を維持していくしかないのです。(太田)
彼らは負担を分かち合い、我々による諸統治(rules)の諸帰結を有効なものにする(validate)のであり、そのおかげで我々は、超過勤務(over time)下でもより強化されているのだ。
⇒米国は、超過勤務を解かなくっちゃいけません。(太田)
オバマ大統領の中東政策は、米国が諸ルールを設定しなければ、他の国々がそうすることになり、これらの国々がそうすることでより強くなるということなのだ。
⇒それ以外にないのです。
ただ、その中にロシアなんぞを加わらせちゃあいけないのです。(太田)
米日同盟は、米国の世界への毅然たる関与の諸効用の模範だ。
欧州戦域よりももっと太平洋戦域で暴虐的であったところの、かつまた、諸核兵器の使用によってのみ終わったところの、戦争の後に鍛造された、米日同盟は、この二国間の諸関係の恢復に資しただけでなく、アジア全体の平和と繁栄にとって不可欠なものとなった。
⇒太平洋戦域の方が激しい戦いであったことを認めたことは多とするけれど、原爆投下によってその戦いが終わったのではない、ということすら認めようとしない、この筆者のような米知識人の知的怠慢ないし傲慢さには、手の施しようがありません。(太田)
ドナルド・トランプは、極めて異なった一連のアジアでの<諸国と>米国との諸関係を心に描いている。
すなわち、彼は、他の諸国の我々への依存を逆手にとって、これら諸国を我々にとって利益になるようにさせる、偉大な交渉成就者(dealmaker)であると自分自身を気取らせている。
しかし、この彼のアプローチは、結果として、非安全保障の種をまき、米国にとっての諸費用を劇的に上昇させることだろう。」
⇒何を言っているのかさっぱり分かりません。(太田)
3 終わりに
対日安全保障政策に関しては、オバマは、日本に文明的劣等感を覚えており、太平洋戦争について慙愧の念を抱いているところ、米国の経済的・軍事的な力の相対的衰亡をも踏まえ、中共当局の対日軍事攻勢に微温的な対応をとることで、日本に米国からの独立を促しているのに対し、トランプは、孤立主義時代のローズベルト同様、日本を人種的文明的に侮蔑しており、そんな国を米国が守ってやることに嫌悪感を抱いているところ、米国の経済的・軍事的な力の相対的衰亡をも踏まえ、安保を双務化しないのであれば、日本の防衛から手を引こうとしているわけです。
しかし、表見的には、オバマとトランプの対日政策は同じ方向性を持っているのであって、トランプが、オバマの対日政策を、この方向性において更に一歩進めようとしている以上、私は、トランプ大統領の誕生を願わざるをえないのです。
もっとも、その可能性は、依然低いままですが・・。
トランプの対日政策
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