太田述正コラム#0401(2004.7.5)
<韓流・韓国・在日>
1 韓流
話題の「冬のソナタ」(再々放送)、私も遅ればせながらこの前の土曜日の深夜、初めて見ました。
せつない気持ちが体全体を浸すとともに気持ちが高ぶり、久しぶりにヘッドホンをつけて電子ピアノをかき鳴らしました。
朝鮮半島の絶世の美男美女と類い希な叙情。
どこかで記憶があると思い、書庫を兼ねている私の事務所で本を探してみました。そうしたら出てきました。イザベラ・バード(Isabella L.Bird。1831??1904年)の「朝鮮紀行」(講談社学術文庫1998年。原著は1898年)です。
美男美女:「朝鮮人は・・顔だちにはたいへんバラエティがあ<る>・・頬骨は高く、・・広くて知的なひたいがとても多い。耳は小ぶりで形がよい。一般に表情はにこやかで、当惑が若干混じる。顔だちからから察せられるのは・・明敏さである。朝鮮人はたしかに顔だちの美しい人種である。」(22、23頁)、「朝鮮人は・・清国人にも日本人にも似てはおらず、そのどちらよりもずっとみばがよくて、体格は日本人よりはるかに立派である。」(同書40頁)
叙情:「大半の東洋音楽のモチーフと見られるもの悲しさが朝鮮の音楽では極端な哀愁となっている・・ラブソングは多く、そのなかには微妙な奥ゆかしさが漂っているものもあれば、・・ときおりユーモアがきらりと光るものもある。自然への言及は一般に自然の美しさに対する共感をこめたすばやい洞察を示し、・・
柳の糸の暁(あかつき)に染み、冬の夜ぞ去りぬ
鶯(うぐいす)羽つくろいて 枝をゆらし
蝶の舞 音もなく 春の詩をきざむ
童(わらべ)よ 汝が琴持ちてこ いまこそ歌わめ
・・のようにエリザベス朝風の詩に匹敵する繊細なタッチを持つものもある。」(217??218頁)
いかがです?まさに「冬のソナタ」の世界でしょう。
日本では今、この「冬のソナタ」を始めとする韓国のTVドラマや映画等がブームになっています。いわゆる韓流ブーム(注1)です。
(注1)韓流(ハンリュウ)は元々は中国での造語で、中国における韓国大衆文化ブームのこと(http://www.ryukyushimpo.co.jp/kinkou/kin27/k040520.html。7月5日アクセス)であり、この言葉に「ブーム」をつけると、redundantになるが、一部の用例に従った。韓流ブームは中国に始まり、それが次に東南アジアに飛び火し、ついに昨年の「冬のソナタ」の放送で日本に上陸したhttp://www.banana21.com/blog/archives/0310192343.html。7月4日アクセス)。
英ガーディアン紙(6月30日付電子版)(http://www.guardian.co.uk/korea/article/0,2763,1250302,00.html。7月1日アクセス)まで、韓流ブームを記事にしました。
同紙によれば、日本による35年間の「野蛮な」朝鮮半島支配や戦後の日韓両国間の軋轢もあり、日韓両国は近くて遠い存在だったが、韓流ブームは両国が近くて近い関係になるきっかけになるかもしれない、というのです。そして同紙は、NHKのハングル講座(朝鮮語講座)のテキストの売り上げが毎年9万部くらいだったのが、このところ20万部にはねあがっている、と指摘しています。
日本の新聞でも、韓流ブームについて取りあげるところが出てきています。
上掲の琉球新報は最も早かったものの一つ(5月20日付電子版)ですが、7月に入って中央紙では朝日新聞が、JTBの専務に韓流ブームについて書かせています(7月3日付電子版)(http://www.be.asahi.com/20040703/W12/0126.html。7月4日アクセス)。
この専務によれば、「日本人が韓国俳優を熱狂的に受け入れたことなど初めてだ。俳優たちも日本のファンを大切にした。精神的なのりしろが重なった。その点で、戦後の両国にとって歴史的な出来事だった。・・符合するように、韓国では音楽や映画などで日本文化の開放が進んでいる。私自身も一つ、強烈な実体験をした。今年2月。韓国のソウルと釜山で戦後初めて大相撲が開催された。以前なら韓国で日本の国技を公演するなどタブーだったろう。会場設営など運営全般を当社が担当させてもらった関係で私もソウルを訪れた。韓国人からは、スポーツ、文化としての相撲を知ることで、日本を知ろうという熱気が非常に強く感じられたのだ。」そうで、日本が韓流ブームなら、韓国は日流ブームだとのこと、まことにご同慶の至りです。
ここで、二つの疑問が湧いてきます。
第一の疑問は、韓流ブームに象徴されている韓国の文化の隆盛と、韓国の政治・経済・社会の危機ないし歪み(コラム#262??265、272??274、391??392、等)との関係はどうなっているのか、ということです。
第二の疑問は、日本における韓流ブームや韓国における日流が、果たしてガーディアン紙の言うように、韓国人の反日感情や日本人の一部に根強く見られる反在日・反韓国感情を解消に向かわしめるきっかけになるのだろうか、ということです。
(続く)