太田述正コラム#8459(2016.7.1)
<中共関係米2篇>(2016.10.15公開)
1 始めに
本日のディスカッションで予告した、中共に係るコラム(書評)2篇の紹介です。
2 中共の政治体制の将来像
一つ目は、デイヴィード・シャンボー(David Shambaugh)の『中共の将来(China’s Future)』の書評の一部です。
「・・・この本の中で、シャンボーは、支那の統治者たる共産党に係るありそうな長期的帰結は、長期にわたる衰亡といったものだろう、と予想する。
これは、この党が多岐にわたる諸挑戦に適応しつつあって、その生存を確保しつつある、と示唆したところの、シャンボーの以前の諸見解からの進展を画すものだ。
シャンボーは、また、習主席が、自信をにじみ出しはしているものの、実のところ、必要な経済的かつ政治的諸改革を追求するには、彼が抱いている不安が多過ぎる、とも結論付けている。・・・
シャンボーによれば、民主化することなくして真に近代的な経済を発展させた国はどこにもない。・・・
⇒「近代的な経済」の定義抜きでそんなことを言っても詮無い話です。(太田)
中共は、今や、世界で最も「ジニ係数」・・社会的不平等性の尺度・・のランキングの高い10ヵ国の一つだ。・・・
革新的(innovation)経済を中共が創造することに失敗している兆表の一つが、その甚だしい(rampaging)「知的財産権の窃盗」だ。
<なくそうとするのであれば、その>多くは、中共の高等教育制度を変えられるかどうかにかかっているが、シャンボーそれを行うことが容易でない諸理由を提示している。・・・
それは、暗記と「正しい思想(correct thought)を重視する制度だ<からだ、というのだ>。
学者の昇任の多くは、まともな研究とは殆ど関係のないところの、諸賄賂とコネに立脚したものであり、研究はパクリという問題を抱えている。・・・
シャンボーは、<中共の将来の政治体制としては、>シンガポール型の選択肢が最も望ましいのではないか、との見解だ。
⇒どうして、シンガポールじゃなくて日本かも、という発想の片鱗すら彼に見られないのか、と隔靴掻痒の感があります。(太田)
というのも、必要とされる諸改革の多くは、政治的規制緩和(political loosening)と自由化が前提となるであろうからだ。
しかし、習近平による、弁護士達、人権活動家達、そして、諸NGOへのより強化された統制を踏まえれば、この選択肢が採用される可能性は低いように見える。・・・
⇒少なくとも、習らによるところの、それらの措置は、中共が将来シンガポール型(あるいは日本型)政治経済体制を継受しようとしているのであれば、それと別段矛盾などしていないというのに、不思議な指摘をするものかな、と言うべきでしょう。(太田)
シャンボーの分析的諸本能は、共産党の指導者達は、「統制と強制以外の諸手段でもって権力の座にとどまるために必要な権力の相対的な一定部分の放棄のために必要な諸意思決定を行うためには、抱いている不安感が大きすぎる」ことを彼に教えているからだ。・・・」
http://www.csmonitor.com/Books/Book-Reviews/2016/0624/China-s-Future-predicts-the-protracted-decline-of-China-s-Communist-Party
⇒太田コラム読者の皆さんには周知のことですが、習らの「不安感」は、いまだ、その大部分が阿Q的レベル、すなわち、非人間主義レベル、にとどまっているところの、中共人民に対するものであり、だからこそ、彼らは、まずもって、人民の大部分の人間主義化を日本の政治経済体制、ひいては日本文明の継受の必要条件であると考え、慎重かつ着実にその中長期戦略を遂行中であるわけです。
幸か不幸か、かかる見立てを抱くに至っている、非中共人は、世界中で私一人、(及び、太田コラム読者の一定部分、)という状況に、依然、変化はなさそうですね。(太田)
3 米国の対中軍事戦略
二つ目は、カート・キャンベル(Kurt Campbell)の『傾斜化–アジアにおける米国の政治的手腕(The Pivot: The Future of American Statecraft in Asia)』の書評からです。
「・・・この本は、基本的に、・・・米国がよりアジア傾斜化を図るべきであって、潜在的には何十年も続くかもしれないところの、精力的な外交とより高度の軍事支出というプロセスに従事すべきである、というものだ。
これは、アジア傾斜化の背後にある彼独自の論理が強靭であるが故に、概ねもっともらしい。・・・
<とはいえ、>理屈の上では全ては耳障りが良いものの、実行するとなると極めて困難であることに変わりはない。
ドナルド・トランプの大統領候補としての成功がはっきりさせたように、米国の公衆には、世界の遠く離れた諸部分での拡大的諸事業を是とする気持ちなどないのだから・・。・・・
・・・<もう一度言うが、アジア>傾斜化を推進するというのは、間違いなく、米国が行いうる最も妥当な戦略だ。
しかし、それ<が>危険を孕み続けている<、ということも忘れてはなるまい>。
というのも、異常なほどの米国の忍耐と外交的巧みさ(finesse)の組み合わせだけが、キャンベルが何がなんでも回避しようとしているところの、まさに傷だらけの19世紀的<な帝国主義的な>国際政治の類への回帰を防止することができるからだ。・・・」
http://www.ft.com/cms/s/0/4c87c648-3497-11e6-ad39-3fee5ffe5b5b.html
⇒米国の国力が相対的にここまで落ちてしまった以上、戦線縮小しかないというのに、いつまで経っても、米国の知識層の大部分は、オバマの足元にも及ばないままのようです。
なお、「忍耐と外交的巧みさ」などゼロに近い米国に、その自覚がないまま、この期に及んでそんなないものねだりをするなんて、ただただ呆れかえるばかりです。(太田)
中共関係米2篇
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