太田述正コラム#8547(2016.8.14)
<一財務官僚の先の大戦観(その68)>(2016.11.28公開)
「<今度は>英蘭銀行<についてだが、>・・・ブレア政権は、1998年の英蘭銀行法で、シティーの金融機関に対する監督権を英蘭銀行から取り上げ、英国大蔵省傘下の金融サービス機構(FSA)に移管した・・・。
同法はまた、英蘭銀行の責務として物価安定の維持と英国政府の経済政策支援を行うことを定めて、英蘭銀行が政府への従属的な地位にあることを明らかにした。・・・
それは、英蘭銀行の独立性と権限を大きく損なう改変であった。
そのようにして導入された仕組みは、2008年のリーマン・ショック以降の欧州金融危機への対応をめぐって大きく揺り戻されることになる。
金融危機が深刻化する中で、2010年5月の総選挙で労働党に代わって政権を獲得した保守党・自由民主党の連立政権は、英蘭銀行を再び銀行監督の中心に位置付けることとした。
また、従来1期5年で2期までとされていた総裁任期を1期8年として、英蘭銀行の政治からの独立性を強化したのである。・・・
<ちなみに、>英蘭銀行は2013年6月に、新たな総裁としてカナダ人のマーク・カーニー<(注146)>元カナダ中央銀行総裁を迎えている。・・・
(注146)1965年~。カナダ生まれでハーヴァード大卒(経済学)、オックスフォード大修士・博士(経済学)、ゴールドマン・サックスに13年間勤務した後、カナダ大蔵省に3年弱勤務、その後、カナダ中央銀行副総裁(1年少々)を経て再び大蔵省勤務(3年間)、そして、カナダ中央銀行総裁(5年強)、という経歴。
https://en.wikipedia.org/wiki/Mark_Carney
彼は、17世紀末の同行設立以来の120番目の総裁だが、初めての外国籍の総裁であり、英国首相に対し、帰化する旨誓約している。
https://en.wikipedia.org/wiki/Governor_of_the_Bank_of_England
⇒20世紀に入ってからの全総裁の経歴に、英語ウィキペディアがない者を除いてあたってみたが、大卒でない人が散見され、高橋是清のような中央銀行総裁が英国でも決して珍しくないのだな、と驚きました。(太田)
このように英蘭銀行の権限は再び強化されたのであるが、ここで、目を英国からもう少し広げてみると、その英蘭銀行の監督権限は、1998年に設立された欧州中央銀行(ECB)<(注147)>との間で摩擦を生じるようになってきている。
(注147)「欧州中央銀行は総裁を長とする役員会(・・・Executive Board・・・)と、役員会の構成員および欧州中央銀行制度のもとにおかれる各国の中央銀行総裁からなる政策理事会(・・・Governing Council・・・)によって運営されている。・・・
2005年には暗黙のうちに合意された結果として、役員6名のうち4名はユーロ圏でも大国とされるフランス、ドイツ、イタリア、スペインの中央銀行出身者で占めることとなった。・・・
<なお、>欧州中央銀行はユーロ圏の紙幣発行について排他的権限を有する。・・・
<また、同行は、>ユーロ圏最大の金融センターであるフランクフルトに本店を構えて<いる。>」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%AC%A7%E5%B7%9E%E4%B8%AD%E5%A4%AE%E9%8A%80%E8%A1%8C
「欧州中央銀行制は、欧州中央銀行と欧州連合加盟の全27か国の中央銀行で構成される、欧州連合の金融政策を担う枠組み。
欧州連合加盟国はそのすべてがユーロを導入しているわけではないため、欧州中央銀行制度はユーロ圏における通貨政策を担うというものではない。」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%AC%A7%E5%B7%9E%E4%B8%AD%E5%A4%AE%E9%8A%80%E8%A1%8C%E5%88%B6%E5%BA%A6
EUはユーロ圏の大手銀行に対する主要な監督権限を2014年以降ECBに与えることとしたが、英国はそれを認めないとしており、その新たな状況の中での英蘭銀行の位置付けが注目されているのである。」(278~279。288)
⇒ユーロを導入していないことから、英国はECBに役員を送り込むことが出来ない一方、そのECBによって英蘭銀行が監督される方向付けがなされている中で、政権交代を果たした保守党のキャメロンが、首相として、英蘭銀行、ひいてはシティーの独立性を「回復」させ、その総裁に異例にも、拡大英国人でできそこないのアングロサクソンたる米国とも縁の深いカーニーを据えたことを今から振り返ってみると、実のところ、キャメロンがEU離脱に向けて着々と布石を打っていた、という感もなきにしもあらずですね。(太田)
(続く)
一財務官僚の先の大戦観(その68)
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