太田述正コラム#0417(2004.7.21)
<疲弊する米軍(その3)>
3 補給上の隘路
空軍はこのように頑張って地上部隊に補給をしているわけですが、おかげで南西アジア、ディエゴガルシア、及び欧州の米軍の装備品・補給品倉庫の在庫は大きく目減りしています。(手がつけられていないのは韓国の陸軍の倉庫とグアムの海兵隊の倉庫くらいです。これは、対テロ戦争下においても、米国が北朝鮮や中国への警戒を怠っていないことを示しています。)
このように在庫が目減りしている以上、早急に米本国から補給品を持ってきて目減り分を回復する必要がありますが、これが容易なことではないのです。
というのは、米国の軍需産業は、冷戦終焉に伴う縮小再編成によって、全く余剰生産能力がないところまで生産ラインの合理化が進んでしまっているからです(注3)。
(注3)同様のことが州兵についても言えます。冷戦終焉後、州兵の即応度は低下し、今や最高即応度の州兵師団が出動するまでにも90日から120日かかる有様です。州兵の訓練のための日数もカネも不足しているからです。
応急的に対策を講じようにも、米国防省にはカネがありません。米議会に頼んで補正予算を何度も組んでもらっていますが、タイミングは常に遅すぎ、額も十分ではありません。結局人件費や維持費を装備品購入費や補給品購入費に緊急避難的に転用してやりくりしているのが現状です。
4 結論
昨年12月に米陸軍戦争大学(War College)が実施した研究の結論は、米陸軍は破断界に近づきつつあり、今後数年間は、どんなに努力しても米陸軍の戦闘能力が低下した状態が続くことは避けられない、というものでした。
対テロ戦争が長期にわたって続く可能性が排除できない以上、米国は応急措置だけでお茶を濁すことなく、抜本的な政策転換を行う必要があると私は考えています。
すなわち、少なくとも陸軍のフルタイム兵力の上限枠の上方修正を行うべきですし、兵力構成の面でも、体制変革・再建(Nation Building)専用の部隊の創設や体制変革・再建用の教育訓練過程の設置を図るべきですし、生産ラインの余剰能力回復に向けての施策も講じるべきでしょう。
(以上、http://slate.msn.com/id/2099408/(4月24日アクセス)及びhttp://www.washingtonpost.com/ac2/wp-dyn/A28903-2004Apr20?language=printer(4月21日アクセス)に若干の私見を付け加えた。)
5 補論・・疲弊する米国
ところで、米軍の疲弊と「相似形的」に米国そのものもまた対テロ戦争で疲弊しています。
それは、ブッシュ大統領が、レーガノミックス的経済政策を採用して1兆ドルもの大減税を実施している一方で、これまた対ソ大軍拡を実施したレーガン大統領同様、核関係予算(コラム#360)やミサイル防衛予算を増やしつつ、9.11同時多発テロ以降、対テロ戦争を実施するとともに国内治安対策にも(国土安全省を創設する等)万全を期していることから、政府支出が大幅に増大しており、財政赤字が米国史上最高水準にまで巨大化しているからです。
IMFはこのような米国の状況を憂慮し、米国の金利が高騰する恐れがあり、そうなれば米国のみならず、世界が不況になりかねない、と4月に警告を発しました。IMFはドル暴落の懼れや米国のインフレの懼れも指摘しているところです。
(以上、http://www.guardian.co.uk/recession/story/0,7369,1192197,00.html(4月15日アクセス)
私は、日本としても、米国債を購入することで「結果として」米国の経済・財政を支えるだけではなく、戦略的観点から、米国の経済・財政政策に注文を出した上で米国の経済・財政を積極的にサポートすべき時期に来ていると思います。
本来、日本は米国の対テロ戦争を軍事面でも積極的に手助けすべき立場にあり、その能力もあると私は考えていますが、これは他日を期すことにしましょう。
(完)