太田述正コラム#0421(2004.7.25)
<二人の韓国人をめぐって(後日談)(その1)>
(本篇は、コラム#391、392の後日談です。)
1 金鮮一
先月韓国人金鮮一氏を拉致し首を切って殺害したグループ「統一と聖戦」は、自分のウェッブ・サイトに、金がアラビア語と神学の学位を持っており、アラブ世界でキリスト教の宣教師をしようと思っていた、とした上で、「金を殺したのは、彼が異教徒であって、イラクでキリスト教を布教を試みようとしたからだ。<彼の雇い主である>ガーナ・トレーディング・カンパニーの社長も熱心なキリスト教徒だった。彼は収入の10%を教会に寄付しているし、会社の名前そのものも聖書からとられている。」とアラビア語と英語でメッセージを載せました。(http://english.chosun.com/w21data/html/news/200407/200407150029.html。7月2日アクセス)
このニュースを報じた朝鮮日報は、「金鮮一の殺害は宗教活動がらみ?」と疑問符付きの見出しをつけ、半信半疑のおももちですが、私は、殺害したグループが本心を語ったと考えています(注1)。
(注1)金氏が自分が韓国では数学を教えていたと偽りを語り、神学を学んだことを隠していた(コラム#391の典拠とした6/25付朝鮮日報英語版・日本語版)のは、彼が本当のことを明かす危険性を十分認識していたことを示しています。しかし、金氏の拉致中に韓国から発信される金氏のこの種のバックグランド情報が拉致したグループに伝わらなかったはずがない以上、金氏のウソは一層彼に対する心証を悪くしただけだったと思われる。
というのは、以前(コラム#203)でご紹介したように、コーランにはイスラム教から他教への改宗者には、イスラム教への復帰を強制しなければならず、復帰しないならば殺せ、と記されており(??,5-6、??,39-42)、また、やはりコーランには「余は不信者(infidel)達の心を恐怖で満たすだろう。彼らの首をたたき落とせ、指先をたたき落とせ」(??,1-2)、「戦場で不信者(unbeliever)達とあいまみえたら、彼らの首をたたき落とせ」(??????????,4)と記されている(http://slate.msn.com/id/2103261/。7月2日アクセス)からであり、殺害したグループはアルカーイダ系の原理主義者だと目されている(コラム#395)からです。
ちなみに、1987年の国勢調査ではイラクに約140万人のキリスト教徒(アッシリア、Chaldean カソリック(旧ネストリウス派)、アルメニア、及びシリアの各教会所属)がいたのですが、1980年代後半のフセイン政権によるクルド地区制圧(anfal)作戦のとばっちりをうけてイラク北部の100以上のキリスト教徒の村が破壊され、数ある修道院も破壊され、キリスト教徒はバグダットに強制移住させられました。それからというもの、キリスト教徒の海外脱出が始まり、そこにフセイン政権打倒後のイラクにおける治安状況の悪化や、スンニ派、シーア派を問わない原理主義的傾向の強まり、が追い打ちをかけ(注2)、今ではキリスト教人口は100万人を切ったと考えられています。
(以上、http://www.csmonitor.com/2004/0713/p07s01-woiq.html。7月13日アクセス)
(注2)現在、イラクのキリスト教徒は、海外に親戚のある人が多く英語を話せる人も多いことからイスラム教徒から親米的であると思われており、裕福であるというイメージをもたれており、(イスラム教では飲酒は禁じられているところ)アルコール飲料を売っている人も少なくないことから、イスラム過激派や犯罪者から日常的に殺人、強盗、誘拐の対象にされている。
ところで、シーア派のあのサドル師が、二ヶ月ぶりにクーファのモスクでの説教を再開し、イラク暫定政府のアラウィ首相を、イラクの占領状態を続けているだけだとこき下ろした上、イラクで拉致された人のうち三名(韓国、米国、ブルガリア人)が首を切って殺害されたことについて、これはイスラム法に反し、実行した者は犯罪者であり、我々はイスラム法に則って処罰するだろう、と語りました(http://news.bbc.co.uk/2/hi/middle_east/3921851.stm及び
http://www.cnn.com/2004/WORLD/meast/07/23/iraq.main/index.html(いずれも7月24日アクセス)(注3))。
(注3)日本のTBSはサイト上で、「サドル師は先月に武装グループが韓国の民間人を人質に取り、その後、首を切り落として殺害したことに触れ、「政治と宗教のことを心得ていたのならば、首を切り落とすことはあり得ないだろう」と話しました。さらに「たとえ、韓国が我々の敵である占領者であっても、殺害に及んだザルカウィ氏率いる武装グループの行為は正当化できない」と訴えました。」と報じた(http://newsflash.nifty.com/special/jnn_video/kiji.jsp?f=1003395&d=tk。7月24日アクセス)。
BBCは独自取材(?)、CNNはAPに拠っており、恐らくTBSもAPに拠ったのではないかと思われるが、サドル師が、金氏の殺害についてだけ言及している、首切り殺害の不当性に関しイスラム法に言及していない、の二点において誤っている。意図的歪曲でないと思いたいが・・。
どうやらサドル師は、(いずれもフセインによって殺害された)お父さんや叔父さんとは大違いで、コーランをまともに読んでいないとみえます。
(続く)