太田述正コラム#8657(2016.10.8)
<またまた啓蒙主義について(その10)>(2017.1.22公開)
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[最終的にカントは人種主義者ではなくなった、との説について]
後に、欧州による植民地主義と奴隷制を非難していることから、カントは、最終的に人種主義を放擲した、というカント擁護論がある。
いずれにせよ、彼は、本文中の私のコメントの中で紹介したところの、一連の黒人に対する悪罵を一切取り消してはいない。
また、彼による植民地主義と奴隷制の非難については別の解釈が成り立ちうる。
(以上の中の事実に係る部分、及び、以下の「」内は下掲による。↓
http://www.academia.edu/1802951/Kants_Racism 上掲
すなわち、カントが後に次のようなことを言っているのは事実だ。↓
「カントは、「イエズス会流(Jesuitism)」のように、植民地化には「野蛮人達」に対する「文明化」効果がある、との正当化を排<するとともに、>・・・ロック流の、植民者達は自分達の労働をそこに投下(mix)した場合には占拠した土地に対して権利を有する、との正当化を<も>排した。・・・
彼はまた、外国の諸土地に欧州人が入植するには、住民達の無知に付け込まずして取り交わされたところの、契約的合意、が必要である、と主張した。・・・
<そしてまた、>カントは『永遠平和のために(Toward Perpetual Peace)』の諸注の中で、非欧州人達を奴隷にすることは、世界市民的(cosmopolitan)権利の重大な侵害である、と主張した。・・・
<かつ、>『人倫の形而上学(Metaphysics of Morals)』の中で、カントは、「全ての人間達は自由に生まれた」ことから、「いかなる奴隷契約も自己矛盾的であるので無効」であり、一人の人間がもう一人を所有することは、権利の諸原則に照らして不可能である、と主張した。」
しかし、上掲の執筆者のライアン・ヴェリー(Ryan Very)(注10)が示唆しているように、カントが最底辺「人種」たる黒人だけは「人間」として扱うべきではないと考えていた・・私もそう思う・・とすれば、本件に関してカントの言った全てのことが、相互に矛盾なく説明できる。
(注10)現在、ペンシルヴァニア州弁護士。ピッツバーグ大優等卒、ボストン大修士(法哲学)、ボストン大ロースクール卒。
http://www.ryanverylaw.com/profile
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スピノザの「幸福(blessedness)」の定義は、その<人の>精神が、プラトンの奴隷がピタゴラスの定理の必然性(necessity)を感知した<(注11)>のと同様に、単純かつ疑いなく(simply and indubitably)この世界のあらゆるものの必然性を見て取るところの、「神の知的愛」だった。
(注11)「ピタゴラスはオルフェウス教を信じていた。 この宗教によれば、不死の魂は有限で不浄な身体に閉じこめられており、 身体が死ぬたびに魂は別の身体へと移り、転生を繰り返している (転生によって魂は動物に宿ることもあるため、 ピタゴラスとその弟子たちは菜食主義者だった)。 唯一この循環から逃れでる方法は、 数学(幾何学)を研究し宇宙の秩序を理解することによって 身体によって汚された魂を浄化させることである。
ピタゴラスの考えでは、万物は数によって理解することができる。 その顕著な例は音楽で、ピタゴラス派が和音(harmony 調和) を数学的に理解したことは有名である。 彼らはこのような関係が宇宙の至るところに成り立っていると考え、 無限なる宇宙を数学的に理解することによって自分たちも無限(不死)になれる と考えたのである。
このようなピタゴラスの思想は、 プラトンに大きな影響 (とくに数学の重要性と魂を尊重し身体を軽蔑する態度)を与えた」
https://plaza.umin.ac.jp/kodama/ethics/wordbook/pythagoras.html
プラトンの対話篇の一つ、『メノン(Meno)』の中で、ピタゴラスの定理を知らなかったはずの奴隷に、ソクラテスが様々なヒントを与えることで同定理を「発見」させる、というくだりがある。
https://books.google.co.jp/books?id=f3bkCgAAQBAJ&pg=PT88&lpg=PT88&dq=Pythagoras+theorem;Plato;slave&source=bl&ots=usB5A6lOZq&sig=VgVpuemjaeQ9g8pEoOI9lFw-_AA&hl=ja&sa=X&ved=0ahUKEwjOldzy_srPAhUFp5QKHXGzAsAQ6AEIYjAM#v=onepage&q=Pythagoras%20theorem%3BPlato%3Bslave&f=false
下掲に、そのくだりの要約が載っている。但し、文中の「召使」を「奴隷」に読み替える必要がある。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A1%E3%83%8E%E3%83%B3_(%E5%AF%BE%E8%A9%B1%E7%AF%87)
(続く)
またまた啓蒙主義について(その10)
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